ぼくらの精肉配送担当大臣

 いったん鬼城さんのわがままボディを地面において、クレーエヘルムをボコって、それからもう一度4人で配送作業を再開する。

 そこはさらに地下に一階分さがるピロティのあるホールで、地面がすり鉢状で、エレベーターサイズの大きな筒が、腰の高さまで何本もたれさがっていた。

 奥に三方をかこまれた小部屋を見つけたので、そこで休憩する。

 人のあがれそうな祭壇に、ギアチェンジできそうなレバーっぽい棒がささっててあやしい。

「すみませんね。こんな怠惰なブタの肉塊をはこばせて。補正下着などをまとったこんなブタ肉体なぞ、滅べばいいのに」

「そんなにやさぐれないで。ぼくらは鬼城さんの体、大好物だよ」

「ブタ、おいしいですよね。わかります。ビタミンB群も豊富だし」

 あくまでやさぐれる鬼城さん。

 そして自分の肉は栄養豊富であるとメリットも提示する鬼城さん。

「周防くんは今夜かならず鬼城さんをおかずにするから元気だして」

「バカにしてるんですか石動さん。夜勤あけて帰ったらすぐにデビッド・カッパーフィールドがイリュージョンする前で今日のお特典映像を脳内再生してやりますよ!」

 朝からコラボ祭りナニーするつもりだった。

 お特典映像ってなんだわ。

「だれも見むきもしないババアの補正下着でイケるだなんて、周防さんは地球にやさしい方なんですね」

「補正下着? ボクにはむしろごほうびだぜ!」

 周防くんが男前にキメ、祭壇のレバーに足を乗せると、ガコーと音をたててなにかのスイッチが入る。

 地面の下からガコンガコンなにかの装置が連鎖する音がして、とおくでごうごうとなにかがうねる。

 そしてその音は、どんどん迫ってくる。

「ぎゃあっ、ぎゃああっ、なに? 巨大な、巨大な、トイレを流すような音がっ」

 鬼城さんが尻もちしたまま立ちあがれず、へなちょこな悲鳴をあげる。

 そう言われてみると、うねりは水音だ、と思った瞬間たれさがっていた巨大な管がもうれつに放水する。

「やべ、なんだこれ」

 なんせぶっとい管が複数だから水量もすごくて、床はあっというまに水びたしになる。

 ぼくらはいったん祭壇に退避するが、

「これ、時間の問題っすよね」

「うん。十分もしないうちにおぼれるだろうね」

 溺死をまぬがれるには、ここよりも高さのあるデーモンキングの広間にもどらねばならない。

「すり鉢状になってて、配水管があつまる場所って、ここ地下の貯水層だよね。水量からこれ、運河の水かな?」

 東京の地下にもあるあれだ。

 そうやって見ると、あれにそっくりな圧迫感がある。

 溺死はやだなあ。

 でもデーモンキングもシャレじゃすまないつよさだし。

「あ」

 思案してたらブラウが声をあげる。

 なんか気まずげだ。

「なんだポンコツ昆虫賢者。今思いついたこと言ってみろ。いいから。言え。いいから」

 もごもごするブラウの口を、周防くんがドラマの刑事ばりにわらせる。

「あ、あのね。タリスマン。ひろうの、わすれてた」

「あ」

「え? ブラウたち、タリスマンなしで、ここまできたの?」

「アムゼルだってきーてこなかったろ!」

「だってとってるっておもうじゃないフツウ」

「タリスマンはこんでたときに、ウンガわたろうっていったのアムゼルだろ! それでサツジングンタイアリにおそわれて、ウンガにおとしちゃったんだから、アムゼルのせいだろ!」

「ブラウがはこぶのつかれたっていうから。ショートカットしたいっていうから」

「もうーケンカしないでー」

 なんかもめてる。

「まてまておまえら。そのタリスマン? がなかったらどうなんだ?」

「デーモンキングにこーげきとおらない」

「あたってもダメージない」

「またそのパターンかー」

 さっきギムさんがライオンの剣で攻撃したのにノーダメだったのはそれかー。

「めっちゃ大事なアイテムじゃねーか。おまえらもう名前ポンとコツとトリオに変えろ」

「なまえがトリオはおかしーだろ!」

 周防くんが参戦してさらにもめる。

 ブラウのツッコミはまいど的確でおもろみがある。

「え、じゃあここからまたもどって、タリスマンってのひろわなきゃなんないの? むりくね?」

 さんにんはだまりこむ。

「それはちょっと間にあわんよね。ぼくらそろそろ帰らないとだし」

「タリスマンを取りにいくとしても、僕の力では、ここを出ることすらかないません……」

「そうだった。ぼくらはここに閉じこめられたんだった」

「詰んだ。こらもうボクらこの世界で生きてくしかないっすわ」

「明日からごはんどうしようね。あのタコとアナゴでスシローつくろっか」

「おいポンコツトリオ。おまえらのせいだぞ」

「ぐう。ごめん」

「なさい」

「すまなんだ」

「普通に謝んなよ。ボクが悪く見えるだろ」

 周防くんがめずらしくまいった顔をする。

 口は悪いし変態だけどいいやつなんだ。変態だけど。

 でもさてどうしよう。

「ここにいてもどうしようもないし、こうなりゃイチバチでデーモンキングに一発くらわして押しとおるしかないね。鬼城さん。ラストにファイヤーボール、思いっきりおねがいするね」

「そうだね。本来なら鬼城さん、とっくにあがり時間だし、初出勤でこれ以上残業はつらいだろうし」

「というか私、今、本気で立てません」

「まじかー」

「まじです。ジャマだからおいてってください。賞味期限切れなんです」

「いこうよ。ぼくらにBLを朗読させるんじゃないの?」

「そ、それは……そうですね。それを聞くまでは、私、まだ死ねません」

 鬼城さんの目に、ヌルッとした炎がやどる。

「そうそう。それに鬼城さんの補正下着尻を、こんな場所においておけるわけがない。ボクが背おいます」

 周防くんが今日最強のイイ顔で提案するので、彼を精肉配送担当大臣に任命した。

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