鬼城さん大惨事

「ヨクゾ、ココマデタドリツイタナ、勇者ギム……」

 デーモンキングがつぶやく。

 ぼくらガン無視。

「ダガ、オマエノ幸運モ、ココマデダ……」

「イベントムービー中ならちょうどいい。鬼城さん、一発ブッパしてにげましょう」

「さすサイコパス石動さん」

「賛成だ。鬼城さん頼むよ!」

「はっ、はっ、はいっ!」

「スキ二、サセルト思ウノカ……」

 こっちが動くより早く口上をきりあげ、デーモンキングが臨戦体制にはいる。

 デーモンキングの肩あたりが盛りあがったと思ったら、さしわたしうちの店舗正面ぐらいある両翼が広げられた。

「うお」

「やべ」

「ぎゃあっ!」

 飛翔から接近がとんでもなく速かった。

 バスケコート二面以上ある体育館サイズの空間、その真ん中にいたやつが1秒でこっちに到達、

「ぎゃああっ、ぎゃああっ、た、おたすけ」

鬼城さんを引っつかんでぶら下げた。

「うっそ」

「た、たすけてっ……」

 ここで注目したいのは、デーモンキングが鳥みたいな両足で鬼城さんがはおってるローブの背中ををつかんでいる点だ。

 鬼城さんは布のたまったソデぐり、腕のつけねをわき下で吊りあげられ、両うでをブラーンと前にだし、うしろすそが大きくはだけてたいへんな狀態になってる。

 すなわち。

「鬼城さん、すげーババア下着っすね」

「腰までまるみえだ。大参事だね」

「めっちゃ興奮しますね」

「周防くんセクハラだよ」

 店長がたしなめる。

 でもわかる。

 鬼城さんのでっかい尻、いいなあ。

「おまえら! みとれてないでオニキスたすけろ!」

「たすけてあげて!」

「ギムも!」

「あ、ああ、石動さん、なにか手は?」

「店長、アレするから背中かして。ギムさん俺が上になげるから店長の肩けって飛んでください」

「よしきた」

 店長が中腰で前のめりになって背中をみせ、俺はその手前で両手をくみ片ヒザをついてハンマー投げのスローを応用したフォームをとり、ギムさんをまち受ける。

「ですが……」

 躊躇するギムさん。

「だいじょうぶ。ぼくらなれてるんで」

「ここでいちばん身軽な人ギムさんだから!」

「――わかりました。いきます」

 ギムさんがよし、と気合をいれて走ってくる。

「せーの」

「やあ!」

 俺の手と店長を踏み台に、ギムさんがジャンプする。

 高さ5メートルぐらいでニヤニヤわらいながら滞空しているデーモンキングの腰ほどまでジャンプし、ギムさんが足を斬る。

「くらえ!」

「ム!」

 横なぎにおもいっきりぶった斬ったにもかかわらず、ライオンの剣がはじかれた。

 それでも衝撃でデーモンキングの足ゆびがはずれて、白目むいた鬼城さんが落下する。

 地面に激突するよりはやく、走りこんだ周防くんがうけとめる。

「どうだ!」

「ナイスキャッチだスオー!」

「おおー」

「ナイスオー!」

 バイク王みたいに応援されてる。

「――ヤルデハナイカ。ダガ、ワレヲ倒ス準備ガデキテオラヌ」

「準備?」

「モハヤ遅シ、準備ナド――」

 デーモンキングが攻撃態勢をとり、またこっちに飛んでくる。

「――サセヌガナ!」

 親切に説明してくれると見せかけて、デーモンキングが人間の小さい行動にでる。

 じわっと横移動して、こっちが入ってきたところに陣取る。

「あ、逃げ道ふさがれた」

「どうする?」

「最終兵器鬼城さんが電源落ちて動きません。反対っかわの物陰に逃げましょう。手伝ってよ」

「おっけまる」

 ぼくら男子4人は、引きこもりを脱出したものの、またもはたらくことをやめてしまった鬼城さんの手足を、それぞれ一人一本ずつもって避難する。

「わっせわっせ」

「鬼城さん歩いてよ」

「……」

 土色の顔で動こうともしない鬼城さん。

 自発呼吸してるし、目線のうごき見ても意識があるのはわかってる。

「ぜえぜえ。ちょっと鬼城さん。ほんとうに歩いてもらえます?」

「ババアパンツなんてはいてる三十目前喪女なんて、手足を動かす価値もないんですよ」

 がんとして動きませぬの姿勢。

「でもここクレーエヘルムいるよ? わあ、来た来た逃げなきゃ鬼城さん!」

「殺せえええ! ババアパンツの29才喪女など生きるにあたいせぬわ!」

 なんか覇者の風格かもしてるし。

「とりあえず、クレーエヘルムかたづけて考えようよ」

 と提案すると、鬼城さん以外はしたがってくれた。

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