愛のピンポンダッシュ

「ここまでで十分です。みなさんはお店にもどってください」

 ギムさんが言う。

「でも、あとはデーモンキングのおしろだけなのよ! ここまでこれたのに!」

 賢者ブラウが言う。

 ギムさんは言った

「ここまできてくれただけで、ほんとうにありがたいことなんだよ。だって石動さんたちは、僕らフォーゲルヘイムの人間じゃないのに」

「だって、あとデーモンキングだけなのに……」

 目になみだをためて、ブラウがうつむく。

「とりあえずボクの魔力で鬼城さんにリジェネレートかけましたけど、これ以上は前衛の復活できなくなりますよ」

 リジェネは唯一の魔力回復魔法だ。

 施術者の魔力を、被術者にあたえる。

 周防くんの魔力はもともと多い方だけど、魔法の弓を使うたびにすりへってく。

 もういちばん弱い回復魔法のファーストエイド一回分しかないって暗に言っている。

「しゃーないね。今日は働きすぎたよ。悪いけどギムさん」

「……ハイ。ここまでありがとうございました」

「ダメ元で一回だけデーモンキングにのこった体力と魔力ぶつけて、さっさとにげよう」


▶ピンポンダッシュ する


「ですよねー」

「石動くんなら、そう言うと思ってたよ!」

 腕時計で確認すると、日の出はあと40分。

 サッとすませよう。

「ジムさん。カギ、開けてよ」

「本当に、いいんですか?」

「倒すって、約束しちゃったしね」

 アップルさんがいれば、そもそもこんなカギもいらないんだけど。

 彼女の蹴りは、どんな魔法も砕くから。

「石動さん、いらないこと考えてるでしょ」

「石動くん、僕たちは、吉田さんなしでもうまくやってると思うよ」

「――そっすね。みんな、ここまですげーがんばってると思います」

「……行きますよ」

 ギムさんがカギを開ける。

 そしてぼくらはラスボス、デーモンキングの城に足をふみいれる。

「広! まーたダンジョンじゃん」

「サクサクいこう。あんま時間もないし」

 ラスボスのデーモンキングの迷宮にはクレーエヘルムってつよげなやつがいた。

 全身黒くて、まっ黒なトサカのついたカブトをかぶって、つよそうだった。

「つよいよ!」

 超つよかった。びびった。

 パワーとスピードがあって、しかも周防くんの攻撃がとおらないぐらいヨロイが固い。

「強化ヘルム系ってめんどすぎっすね」

「かぎりある体力だからSDGs意識していこ。出くわしたら即殺態勢で。てわけでギムさん先頭にならんでもらえます?」

「おまかせを!」

 ヘルム系ならもう戦いなれた。

 俺と店長ではさんでギムさんがとどめのスタイルでそのあと3回の戦闘をのりきった。

 やたら広い空間に出た。

 そこに、そいつがいた。

 ブラウがくちびるをかみしめる。

「シュバルツオウジ……いいえ、デーモンキングよ!」

 そいつはデカくて黒くて、シャレにならない空気をまとってた。

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