バンピアーデーモンの神殿
車は未舗装路の凸凹にあわせてガタガタゆれる。
「よかったんですか? アップルさんつれてかなくて」
運転席の土鳩さんが、前方から目をはなさず言う。
「そりゃーよかないけど。でもそもそもアップルさんいなかったら、ぼくらここまで来れてないし、そもそも生きてたかもわからんし、恩義はあれど強要なんかできんよねー」
これまでのアップルさんの功績は、今回おやすみしてもらっても埋め合わせにもならないぐらいに大きい。
自分が死にかけたのは前回だけではないし、助かった八割は彼女のおかげ。
「ていうわけでギムさん? どっかでヤバくなったら、ぼくら撤退しますんで、ご了承くださいねー」
窓から身をのりだして、ホンダキャノピーを運転するギムさんにつたえる。
後輪が二輪のキャノピーは、自転車が乗れなくても大人ならかんたんに操縦できるスグレモノだ。
「こちらから頼んで来てもらっているのです。私にとって、それだけで非常にありがたい事です!」
エンジン音に負けじとほえるギムさん。
いい人すぎる返答。
この人これで世の中わたっていけんの?
「あーあ、岩動さんならヨダレたらしてアップルさんおいつめて戦わせる役引き受けてくれると思ったのになー」
「やだよー。お失敬サラリーマンなら心病むまで圧迫するけど、お世話になってるアタッカーにやったらそれこそサイコパスじゃない」
「サイコパスじゃないみたいに言うんすねー」
「周防くんは失敬な大学生だよねー」
「岩動さん、みんなのこと考えるときに『ぼくら』って言うんですね」
鬼城さんがほほ笑んで言うが、恥ずかしいからリアクションしない。
「吉田さん、岩動さんにすがりついて泣いてたよ。本気でたのめば来てくれたんじゃないかな」
「まじですか。失ってはじめて俺という存在の大切さに気づいた感ですか」
「やー知らないけど。自分が蘇生作業するってめちゃめちゃ泣いて」
「そうそう、人工呼吸するって」
「そうです。それを全力で止めたのがボクです」
周防くんがほがらかに言う。
「なんてことをしてくれたんだ周防くん! 俺は君を一生ゆるさないぞう! イイだろう!」
「死んでるからってそんな役得ゆるすわけないよねー! アップルさんのくちびる死守したボク今日イチでいい仕事したよねー!」
今日イチでイイ顔をする周防くん。
「いいじゃないアップルさんのために命まで投げだしたんだから、マウストゥマウスぐらい当然の権利じゃない!」
「だったらボクが死んだらアップルさんのマウストゥマウスゆるすかって話だよねー!」
「ゆるすわけないよねー! 口にうんこつめた店長あてがうよねー!」
「だったらボク今日イチいい仕事したよねー! 次に岩動さんが死んだらまず最初に店長の口にうんこつめるよねー!」
「男同士の友情って、こんなにも醜いんです……?」
「鬼城さんまっすぐに現実をうけとめて。二人は普通にののしりあっているよ。大学生男子なんて小学生男子と変わらないんだよ」
店長が鬼城さんに哀しい真実をつげる。
「あのー! ギムさん停まりました!」
YouTuberドバッシーがエンジンブレーキで減速しながら言う。
前方では、先導していたギムさんがキャノピーを停車させて、肩にとまる賢者ブラなんとか、とやりとりしている。なんだっけ、ブラウマイス? オッケー。
「着きましたー?」
「あ、ハイ!」
ギムさんが降車するので、ぼくらもそれにならう。
「ここにバンピアーデーモンがいるの! バンピアーデーモンはデーモンキングのハイカのアクマで、たおさないとマホウのランプがてにはいらなくて、ダンジョンがみえないの! ダンジョンをとおらないと、わたしのなかまがとらわれてているとこにつけないの!」
賢者ブラウマイスがカン高い声で言う。
配下のアクマときた。
そこには朽ちた西洋風の神殿。
「バンピアーデーモンかー。血を吸いそうな名前だよねー」
「吸ケツ鬼だったらどうします?」
「吸われる前に店長をあてがおう」
「君たちは僕に人権がないと思ってるよね」
「あ、こっちから中に入れるよ」
「よーし神殿の悪をあばくぞー」
「うわボッロ。鬼城さん、家屋内での攻撃は、ファイヤーボール以外でお願いしていい? なんか、燃えなさそうなやつ」
「え、じゃあ、えーと(原田マニュアルを参照)、アイスロッドとか、でいいですか?」
「それでお願いしまーす。さ、いこっか」
「吸血鬼こらあ、やったるぞこらあ」
俺と周防くんがいさんで中にはいる。
「お二人、神の家に不敬ですよ」
ギムさんがいさめる。
「ここにはマホウのランプがあるの! それがなきゃ、さっきみたいにダンジョンにはいっても、なにもみえないの!」
「まじかー。で魔法のランプどこ?」
「バンピアーデーモンが、もってるのよ!」
まじかー。
「まじよ!」
とりあえずウロチョロしてたら、頭になにかでっかいのがバタバタたかってくる。
「ウッギャなんか頭つつかれた!」
「イテ! いって! なんかが頭にまわり飛んでる! 攻撃してきてる!」
デカい。
虫とか賢者よりだいぶんデカい。
「ダンジョン大コウモリです! 」
「店長メクラ打ちになるけど、音をたよりに近距離武器もちだけで対処しましょう」
「わかった! 鬼城さんと周防くんは中でしゃがんで! ギムさん、僕たちと背中あわせで、頭のま上から前方だけ、刀をふって!」
「わかりました!」
耳をすませて敵の場所をさぐり、音のするほうに剣をふって闇をとぶダンジョン大コウモリを一匹一匹おとしてゆく。
無数に思えたダンジョン大コウモリだが、三匹もおとすとあとは飛びさっていった。
「五羽ぐらいしかいなかったんだ」
「見えないと数も距離もわからなくてこわいですね」
「あ……」
入り口から数歩のところでたまってたぼくらに、そいつはゆっくり歩いてきた。
「あれがバンピアーデーモンよ!」
血色のわるい顔、黒い服を着てまっ赤なマントをはおっている。
目が赤くひかり、こっちをむいてニッと笑うと、口からはみだすほど長い犬歯が2本見えた。
やってんなあ。
オーラまとってんなあコイツ。
「よし、やっちゃおう」
「ああ、たおそう」
フォーメーションどおりに動いて全員で全力でなぐりかかったが、吸血鬼はハンパなくつよかった。
「つよいってか、ダメージなくない? こいつケガ修復してません?」
「切っても切っても元どおりになるね」
手を切り足を切りしても、身体にまたくっついてどうしようもない。
そのうち息が切れてきて、ジリ貧が見えてくる。
「おもいだしたわ。バンピアーデーモンは、せんようのアイテムがないとたおせないのよ!」
ブラ賢者がたいへんな秘密を、今思いだしやがった。
「は? それを先に言えよ虫!」
周防くんがガチめにキレる。
「撤退! 撤退しましょう!」
「わ、わかった!」
てったいてったーい!
店長がさけび、ぼくらはとりあえず敗走した。
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