ぼくらのエース、まさかのリタイヤ
アップルさんのガチ弱点
目が覚めたら店長の顔がすぐ近くにあった。
心停止したら蘇生は、男子は男子に、女子は女子にとあらかじめ決めてある。
「また店長ですか。せめて周防くんがよかったし」
俺は悲しいきもちになる。
「ボクのファーストを石動さんにささげるつもりゼロだし」
燃えた両腕は、つるっとしたうすピンクの肌になっていた。
治療魔法で処置済みのようだ。
ロゴ入りユニフォームはヒジと肩のまん中ぐらいまで燃えてて、これは魔法でも直らないからそのまま廃棄である。
「また発注しなきゃ……高いのになあ」
「ざまあってとどめ刺したほうがいいですか?」
「両腕の皮膚、炭化してましたよ。石動さん死んでるうちに鬼城さんと片腕ずつ治しました。ダメージがグロで鬼城さんメンタル病んだし」
もうしわけなさとありがたさが半々になる。
「石動さん、筋膜やぶけて筋肉見えてました……私、回復魔法苦手かも……」
よほどの状態だったのか、それともゴア耐性が低いのか、青い顔でつぶやく鬼城さん。
「なんで魔法で意識もどしてほしかったし」
「そんな魔法ないし」
そう、異世界ってのはこんな魔法世界のくせに死んだら普通に死ぬ。
前歯は折れてももどるけど、復活の呪文はないのだ。
脳みそや心臓も治せるから、魔力のこした魔法使いさえいれば実質復活できるけど「人工呼吸や心臓マッサージ等の蘇生措置が必要」ってただし書がつく。
前回も店長の人工呼吸を受けた。
「店長、変な病気もってない?」
「失敬な! 毎年健康診断うけてるし、性風俗も利用しないよ!」
「カルテっぽいの見たけど備考欄"肥満気味"だったし。体内で有害な大腸菌とか育てたりしてない?」
「夜勤以外は規則正しく生活してるし少なくとも僕の腸内環境は君たちより健康だよ!」
雇ってるバイトにこの言い分。
明日やめたろか。
「困るよ! 都留凛さんにチクるよ!」
伝家の宝刀を抜くが、それが一番効果をあげるのは店長自身に攻撃がむいたときなわけで。
「廃棄寸前の惣菜食べてるのバラしますよ」
「それはしかたないだろう! お金は払ってるよ!」
「腸内環境の話ですよ」
「ごめんよ! もう都留凛さんの話はしないよ!」
「あそうだアップルさん」
店長をからかうのもめんどうになったので、アップルさんの無事を確認する。
さっきから視界のはしっこのほうで、こっちに背中をむけて体育すわりしているのは知っていた。
ただ痛々しすぎて声をかけられなかっただけだ。
「もうマヂむり。むりすぎて歩けんし……」
アップルさんは本格的に凹んでいた。
体育すわりで顔をふせて、肩がふるえてて涙声。
悪いけどかわいいと思った。
「やーばいっす。石動さんどうします? アップルさんいなかったら、デーモンキングなんか倒す算段つかないっすよ」
「まーねー」
周防くんの言葉どおりで、我がAチームは最大戦力アップルさんにおんぶだっこでここまでやってきた。
「いやーでもアップルさんがここまでイヤがるって相当よ? さすがにこれは無理だって」
アップルさんは三角すわりのまんま動かない。
ふだん見られないそんな彼女の姿は、庇護心をくすぐられてすごいかわいい。
「えー、アップルさん?」
「……」
「ここまで来てくれて、ありがと。俺ら今からデーモンキングの城めざすけど、ここで待ってて。サッと倒して、いいニュースもって帰るわ」
周防くんはくちびるをツンととがらせたが、笑顔をつくり、
「そっすね。チャチャっとすませせて店帰りましょう。バイク一台おいとくから、先にもどってくれてもいっすよ」
空気を読んだ発言をしてくれる。
アップルさんはほっぺをふくらませたまま動かない。
「すぐにもどるつもりだけど、先に帰るなら目印のこしておいてねー」
「行ってきまーす」
ジャイロキャノピーを一台と、水とコンビニ弁当と手ぬぐいをおいてぼくらは出発した。
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