器用貧乏の数少ない出番
「アップルさん、体さげて、いやあげて! ああ、ダメダメ私じゃ狙いつけられないから、当たっちゃう!」
「みんな、デビルフィッシュの頭に攻撃を集中させて手を、じゃなくて足をあげさせるんだ! 鬼城さんは空いたとこあったらどこでもいいからファイヤーボール撃って!」
みんなで石や木クズをひろっては投げひろっては投げる。
「いったいっいたたたたっいたいよ!」
デビルフィッシュの頭にはねかえった石とかがアップルさんにも当たる。
だけどその甲斐あって、デビルフィッシュはアップルさんを盾みたいにかざした。やっぱこいつアップルさんで防御してやがった。ゆるさん。
「オニキスっちはやくうって! もーヤバヤバ! 限界だよ!」
「でも、今撃ったらアップルさん巻きこんじゃうかも……!」
「限界だから! みんなに見られるよりましだから!」
アップルさんのぱんつはすでに引きちぎられそうで、だれの目からも限界とわかる。
「……わかりました。おのれこのエロタコ、女子の足とおしりをなんと心得る! ファイヤーボールー!」
ロッドからまっ赤な球が発射され、デビルフィッシュの目と目の間に命中する。
ずっどおおぉぉぉん。
すんごい音と水柱と蒸気があがった。
それが晴れると、頭を半分吹き飛ばされたデビルフィッシュの姿があった。
「すご!」
「やった……!」
頭? の上に命中したファイヤーボールが炸裂し、内部で爆発してはじけて、大量の湯気があがっている。
ぶわって広がった、祭りの屋台でかぐあの海鮮系のにおい。
みな、デビルフィッシュが死んだと思った。
だから女子2人をつかんだ足から、まだ力がぬけてないことに気づくのがおくれた。
「ぎゃあっちょっ足い!」
一拍おいて、また足がうごきだした、
しかもてんでバラバラに。
「わああっわあああっむっ、胸っ」
「あ、足っ足っ!」
それぞれ最強の部位をふうじられた2人が悲鳴をあげている。
「そういえば、タコって足一本一本に一つずつ脳みそついてるんだっけ。中枢こわしたから、足それぞれがてんでにあばれてるのかも」
そういううんちくは先か後に言え店長。
「ええい!」
ギムさんが鬼城さんの立派な胸にまきついた足を切断する。
ゆたかなバストがたわんとゆれて自由をとりもどす。
ならこちらはアップルさんだ。
「周防くんジャンプするから俺の足つかんで!」
「がってん承知!」
盾をすて、剣を両手で逆さにもつ。
二人ならんででアップルさんのほうに走りこむ
「鬼城さんタコ足をファイヤーボールで焼いて! アップルさんに当たらないように!」
「は、ハイ!」
鬼城さんが運動会の玉転がしみたいなでっかいファイヤーボールで手前っかわの足を焼く。
そのまま放物線をえがいて50メートルほど先の水面に落ち、蒸気のキノコ雲が運河のまんなかにボーンとあがる。
まだタコ足の先端がからんでるけど、アップルさんの片足は自由になる。
「よっしゃあ! いくぞ!」
逆さで宙ぶらりんのその手は、高さにして約3メートル。
走り高跳びにちかいフォームで低めにアプローチし、地面に剣を刺して棒高跳びの要領で跳ぶ。
競技用ポールみたいにしなりはしないが、接地点を中心とした円運動にベクトルが変わって十分な高さをえられた。
こんな跳び方したことなかったけど、器用貧乏がここで生きた。
「アップルさん!」
思いっきり手をのばすと、こっちに気づいたアップルさんも手をのばしてくる。
「あヤバっ」
指がかすめるがギリとどかず、アップルさんの両手は無情にも宙をかく。
「あらよっ!」
だが落下する前に自由な側の足のブーツをどうにかつかむ。
「やっやっクロムっちちょっ!」
タコとぼくらとでアップルさんの両足をつな引きする形になる。
はなせこのタコ。
「はっなっせっこのタコぉ!」
「石動さんっおちるおちるっ!」
俺の左足をかつぐようにつかんで周防くんも岸ギリギリでたえてるけど、ずるずる運河に引っぱられてる。
「鬼城さんもう片方の足も焼いて!」
店長が指示をとばす。
「は、ハイっ、のんぎゃっ」
あわてた鬼城さんがすっころぶ。
「くっ、剣がとどかない……!」
「ギムさん、石動さんのもう片足つかんで!」
「わかりました!」
ギムさんも参戦するが、タコめも必死に抵抗、つかんだ足でブルンブルン暴れてアップルさんの体をゆらす。
「しかたない……アップルさん、鎧に魔力とおして!」
「え無理っ! てゆーかそんなんまたクロムっちケガするじゃん!」
「しゃーない! 今はアップルさん救出優先なんで!」
「だめしょ! また死んじゃうし!」
アップルさん着けてる手甲と足甲は魔力を通すと高熱を発する強力アイテム。
問題なのは出力調節ができないのと、一点ずつ発動できないって点。
秒より早く温度がマックスにあがって、3秒あったら鉄でも溶かす。
「こんなんであきらめてアップルさんが休んじゃったら、俺明日からなにを楽しみに店来たらいいのさ!」
「ちょっ石動さん笑、どさくさでとんでもない告白してるよこの人!」
「俺はアップルさんの足とお尻のファンだからね! あああクソ早くして! まじもうギリだから!」
腕力が限界だ。
「クロムっちごめん!」
瞬間足甲をつかんでいた両腕が燃え、同時にタコ足も焼き切れて、俺とアップルさんはハデに水路に落ちた。
——そういや俺、泳げないんだった。
なんでかいつも、水につかってからそのことを思いだす。
クロムっち、と叫ぶ声が聞こえて、そのまま意識がおちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます