性癖開陳という名の雑談

「どうして君たちは、僕の指示に従わないんだ……従業員だよ? 業務に従う人員と書いて、従業員なんだよ?」

 ぶつくさ言いながら、店長がうしろをついてくる。

「通常業務ができないんだから、臨機応変に対応しなきゃでしょ」

「文句言うなら店にのこってればいいのに」

「店舗責任者として、そんなわけにはいかんでしょうよ……」

 グッタリしながらも、外部探査も店長の仕事と主張する。

 前衛なんだけどいつも中盤ぐらい引いた場所にいて、戦闘への貢献度ははっきり低い。

 とりあえずプレートメールの大部分は徐行でついてくるバンに乗せ、

「あのバンも社用車なのに勝手に使って、あとで都留凛さんになんて申し開きすればいいのか……」

「だまってりゃいーじゃないすか」

「走行距離でバレるよ……」

 都留凛さん走行距離までチェックするんだ。

 店長ストレスでやせればいいのに。

「僕の場合、抑圧は食べるほうにいくんだよ……」

「地の文に返事やめてください」

「石動さん小さく声にでちゃってますよ」

 まじかー。

「まじです」

 まじだった。

「あ、モンスターエンカウントです」

 布団みたいなスライムがドッタンバッタンあらわれた。


 コマンド

▶たたかう


 店長と俺が鎧と盾でスライムをぎゅっとはさみ、あいた手でカンテラで照らして、周防くんが細胞核を攻撃するという連携で、今回はカンタンに片づいた。

「ざっこ。やっぱスライムざこっすね」

「だね。この段どりで手ぎわよく片づけてこ」

 車をふりかえって手をふると、アップルさんと鬼城さんがうかない笑いで手をふりかえしてくれる。

 土鳩さんと助手席のギムさんはなにか話してる。

「今回汁かからなかったけど、まだくさそうと思われてたらやだねー」

「てかアップルさん、前の仕事(キャバ嬢)じゃカレシ切らしたことないって言ってたけど、汁いのダメならどんなセックスしてたんだろう」

「とうとつに生々しいよ周防くん」

「浅生くんセクハラだよ。発言は女子、とくに吉田さんには絶対聞こえないようお願いね」

 周防くん、欠員でBチームのシフト入ったときにいつものぐあいで下ネタ絨毯爆撃しまくって、あっちじゃゲって呼ばれてる。

「まーじっすか。あいつらドゥーティーのくせにこのボクにあだ名つけるとか生まれ変わり10回分早いわ」

「周防くんもドゥーティーじゃなかったっけ。サイゼ飲みでゆってたっしょ」

「ボクのドゥーティーはきれいなドゥーティーですので」

「ルッキズムだなあ」

「石動さんよゆーっすね。っぱ高校の彼女とすませた人はちがうは」

 ちがうは、をもちろんすべて書いたとおりに詠む周防くん。

「なんだってーっ。聞いてないよ周防くん。君は僕の同類だと信じてたのに!」

「店長、都留凛さんと幼なじみで高校からつきあってたって言ってたじゃない」

「手をつないで帰ってただけだよ。キスしたの高校卒業してからだよ」

「うっそ。セックスは?」

 食いつく周防くん。

「具体的には言わないけど選挙権得てからだよ!」

「なんでしたっけ? ヤラハタ?」

 やおら新党旗揚げ、みたいな政界用語と思いきや、ヤラずのハタチという身もふたもない言葉の略語ですよ。

「なーんすかその前世紀の価値観な遺物造語。セックスした方がえらいっていう」

「そんな価値観に苦しめられた世代なんだよ」

「ドゥーティーの方がエっロいのにウケるゥー」

「オタクだとなおさらねー」

 この話題におけるエロの定義は、えろーい妄想の蓄積度をあらわしている。

「んまっ高校の彼女とすませた石動さんにはわからんかもですけどねー」

「そんないいもんじゃないよ。テニス部の部長に浮気されて別れたし」

「テニス部なんて◯ニス部ですよ!」

「PかTかどっちだよっ! あと全国のテニス部にあやまれ!」

 店長がキモいツッコミをする。

「なんでオタクって全部ひろってツッコむんです? 会話にジャマな部分は流したらいいじゃない。なんで謝らせるの? なら謝る対象つれてこいって言われたらどうするの?」

「流せないのがオタクなんだよ! でもごめんね! 全国のテニス部員は流石に無理! 全部打ち返されて今そのウザさわが身で知りましたー!」

「ぜんぶ流すもんね石動さん。そこで覚醒できたら、ボクと同じステージに立てるのに」

 周防くんの立つステージとは、

『小学校でガチ恋したヨーロッパ系ハーフ実習生と中学で再会してずっと片想いの純粋な恋心育ててたけど年齢差あるからがまんして高校卒業してコクりにいったら超大キライだった息のくさい学年主任の四十男とデキ婚してたって一部始終をうけ入れてオナニーしたら人生で一番きもちかった』

っていう至高のステージである。

「ここまでめっちゃ早口で教わったよねー」

「いやー開眼しましたわ。すっごいきもちーかった」

「そうなんだねー」

 嗜好がドへんたいすぎて生涯彼を理解しなさそう。

「僕も無理だよ石動くん。聞いたダメージで腰痛にきた」

「まーわかります」

「ハッハッハなにをなにを笑。石動さんはこのステージに立てるウツワっすよ。ボクにはわかる」

「ありがとう。がんばる。うそだけど」

「ちょっさーその話題いつまですんの?」

 アップルさんがサイドドアから身をのりだしてイヤそげにつっこむ。

「もうやめます」

 ぜんぶ聞かれてた。

 ていうね。

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