フォーゲルヘイムの三賢者

「で、その三賢者ってどこにいるの?」

 目的地に到着したらしく、車を停めてギムさんも捜索に参加。

「さいしょの一人が、もうこのあたりにいるはずなんですけど……」

 ギムさんがキョロキョロするけど、あるのは暗い地べたと林とまばらにでっけーキノコが生えてて、でっけー岩がゴロゴロ転がってる原っぱ。

 でっかいキノコは本当にでっかくて、公園のベンチの日よけぐらいある。

「さいしょの一人は、キノコに隠れてると、宣託がありました」

「せんたく……」

「洗う方じゃないです。予言的なやつ」

「あー店長が好きな巫女さんの」

「わー……」

「石動くん! 僕が好きなのは巫女さんじゃなくてJK巫女だよ!」

 店長がみずからの社会的地位を全力ドブ投げせんともくろむ。

「うっわー……」

「鬼城さんわが店舗定番のジョークだからギャグだから本気で引かないで! これでも結婚していて、人生の伴侶はいるんだよ!」

 もくろみは成功して、しゃべられるたびに態度が冷却されて、今や冷麺よりも冷たい瞳をむける鬼城さんに店長はおおよろこびだ。

「おおよろこんでないよ! あやまるからこれ以上このネタ引っぱらないで!」

「なんかお二人、店長におつよいですね」

「そうね。鬼城さんもじきにそうなるよ」

「この人言葉どおりのいい人でもないし、石動さんの主張、まーちがいないっす」

 どうしてぼくらから店長への風当たりがつえーのか、時とともに彼女にもジワ理解していただけるはず。

「とりあえず、このへんのキノコつっついて賢者さがしましょ」

 周防くんが矢の羽のほうでキノコのカサをペシンペシンする。

「賢者賢者、こんなとこにいるのかなあ」

 俺も落ちてた枝でカサの内側のヒダをガサガサやる。

「気をつけて! このあたりは殺人グンタイアリのテリトリーです!」

 ブゥン、とイヤな羽音。

「ギムさんそういうことは」

「先に言って!」

 キノコのカサのヒダがふるえてふくれ、ワサっとまっ黒な羽アリがあらわれる。

 しかも500㎖ペットボトルサイズ。

 そいつらの羽がいっせいに背中で立ちあがり、無数の羽音の重低音がぼくらをつつむ。

「にげろ!」

とさけぶ前にみんな木に背をむけて走りだしている。

「ぎゃああ早っはっや!」

「いててギムさんこいつら毒持ってるの?」

「死ぬような毒はありませんけどキバがとにかくいたいんです!」

 バチバチと体じゅうにぶつかってくるアリ。

 首すじにもぐりこもうとしてるやつの羽が、耳たぶをブビブビたたく。こわっこわいって。

「石動さん動かないで! 今グンタイアリを取りのぞきます! 周防さん手伝ってください!」

「お、おおっ、うわううわ! このアリ本当にハトぐらいでけー!」

「羽が傷つけばもうなにも出来ませんから、うしろからつかんで地面に捨ててください! アゴが強いから頭にもさわらないで!」

 走りながら二人がかりで背中にとりついた虫をはたき落としてもらい、ついで周防くん、ギムさんと順番に除虫する。除虫で表現あってるのかこれ。

「乗ってください!」

 土鳩さんがNーVANを横づけで並走してくれる。

 だけど右側にしかないサイドドアが開いてくれない。

「鬼城さん! 開けて開けて!」

「ダメです。お二人は……みにくい!」

 どういうギャグかわからないけど、鬼城さんが中からロックをかけちゃっててドアが開かない。

「ちょっオニキスっち! ギャグのタイミングちがうし!」

「ギャグじゃないですこれは悪をただす正義のおこないです」

 大学のドトールでよく見かけるネズミ講の勧誘員みたいな目で言う鬼城さん。

 口にしなれてるげな滑らかな発言がこわい。

「鬼城さんたのむからドアあけてー」

「だめです、お二人は言葉が……言霊ことだまが邪悪です。私が書いたBL小説をお二人で音読して、おのが言霊を浄化してくれるなら、この心のトビラ、ひらけます」

「読むの得意じゃないけど10分以内に終わるなら」

 その要求のおそろしさ、理解しないまま承諾する。

 痛いよりはましだと思ったのだ。

 でも本当に本読むのは得意じゃない。

「周防さんは?」

「なんぼでも読むさ!」

 きもちよく立てられた親指。

 なんで周防くん前むきだよ。

 さておきようやく開いたドアから、ぼくらはなだれこむように乗車した。

「ねー、てんちょは?」

 スライドドアを強めにしめる。

「ああほっといたよ」

「ええ?!」

 鬼城さんとギムさんがおどろく。

余裕よーゆっすよ。あの人だけフルプレートだし、虫なんかでダメージくらわないっす」

 鬼城さんが1センチだけウィンドウをあけると、とおくから「タスケテー」と悲鳴がとどく。

「へーき。てんちょの防具、マホーつかったらビリビリながれっし」

「社員だから一人だけやたら装備いいんだよね、店長」

「どっちもうわぁ……」

 一人正義の立場にしがみつく鬼城さん。

 やがて彼女も気づくだろう、社員という立場の横暴を。

「ぎゃああー!」

 周防くんがやおら悲鳴。

「虫! 背中に虫がいる!」

 荷台で必死に背中に手を回し、身もだえする。

 ヒジとかケリとか当たっていたい。

 制服の背中にうごくふくらみがある。

「周防くんじっとして!」

 スソをまくりあげて肌着をみると、白い羽のいきものがワシっとしがみついている。

「これか!」

 青い胴体をわしづかみにする。

「にぎゃああああああっ!」

「うわっなんだこれ! やわらかくてキモ! なんかあったかい!」

 生き物がはっした人間の悲鳴みたいな鳴き声にびびる。

「石動さんそれは……賢者です!」

 ギムさんが言うので、手の中であばれる麦茶のペットボトルサイズのそれを見る。

「ぬいぐるみ?」

「フィギュア?」

 人間の子供のミニチュアみたいな、すごくツヤってしたグリーンの髪をした、つるべの麦茶みたいに青い服を着て白い羽の生えた、

「けんじゃ? じゃんね」

ちっこい女の子そっくりの、賢者だった。

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