鬼城さんのファイヤーボール

 洗車用ホースでスライム液ベトベトの盾と上着を洗ってコンビニ店内にもどると、鬼城さんが魔法の練習をしていた。

「ファーストエイド、メディキュア、リジェネレート、ここまでが回復魔法。ウィークニング、パワーレス、がデバフ。レインフォース、エンブリトルメント、ハードニング」

 次々に魔法をくりだす。

 すごい。

 一つも失敗がない。

 魔法って、魔力ある人にはかんたんだけど、ふだんあんまやらない作業、みたいなものらしくて、いわく

「宅急便の住所記入で誤字るぐらいの確率で失敗するんすよねー」

だそうで。

「どんな感じの時に失敗になんの?」

「あーそのまんま言いまちがえるとか」

「ファーストエイド(応急処置)とか言いまちがえようなくない?」

 ダベってる横で、ぼくらは鬼城さんの目に異様な光がやどってるのに、まだ気づいてなかった。

「そして――ファイヤーボール」

 ボーン!

「うおすっげ。車みたいな火の玉とんでった」

「やばいね。鬼城さんアタリ武器じゃね?」

 心づよいなかまがふえた。

 なお周防くんは道具だと思ってるもよう。

「ああっ! あついあつい!」

 メラメラもえる草っぱらから、男がとび出してくる。

「うわあ! 火が! 火が!」

 男は足に火がついている。

「ぎゃああっああっああ、火、火、当てちゃ、当てちゃてるっ」

 男にまけず鬼城さんがうろたえる。

「まてまてゴブリンという可能性もある」

「しゃべってますよ」

「ゴブリンってしゃべらないっけ?」

「しゃべんのみたことなーい」

「ホブゴブリンはしゃべるのいますよ、ゲームだけど」

「ゲームかー」

 男はアッチッチとおどりみたいにステップ。

「キリシタン迫害のミノおどりみたいっすね。あのミノガサつけて火つけてやる処刑」

「あー日本史で出てたわ」

「なんそれやば」

「君たち、それより男性助けなくていいの?」

「なんで俺にきくんです? 店長いるなら時間帯責任者店長でしょ」

「そーだそーだ」

「僕がいても責任者は石動くんだし、君たち僕の言葉聞かないじゃない」

「そーだそーだ」

「周防っちどっち笑」

「助けなきゃ、ダメでしょう! おね、おね、おね」

 さわればこっちもヤケドするしさりとてほっとくわけにもいかんし、鬼城さんが手のつけられなさに細かくステップ切って男性にあわせ前後しててお笑いコントみたいになってておもしろい。

「武器もってるし人の言葉で油断させるようなモンスターだったらこわいし」

「そんなのいるんですか?」

「見たことないっすねえ笑」

 しばらくながめてたら火が消えて、男性がその場にグッタリたおれる。

「もうしわけないですけど、まだトレーニング中の新人なんで、対応がおそいのは容赦してもらえますか? 鬼城さんファーストエイドかけてあげて。接客等苦情ありましたら、フランチャイズ本社の方におねがいしまーす」

 苦悶の表情の男性にマニュアルどおりの用語をかけると周防くんがニコニコ笑って言った。

「石動さんまーじサイコパスっすねー」

 なことないよねー。

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