第10話 原因は?
「ふう、お腹いっぱいです」
二二ちゃんはふわぁとあくびをしながら、食べ終わったお弁当を元通り風呂敷に包んでリュックに入れた。
「最後の鶏さん退治お疲れ様でした。見事でした。さすが地球史上類を見ない天才、未申ちゃんです」
「ありがと。まあ、『物の怪よりも怖い未申ちゃん』だからね」
私はぶっきらぼうにそう吐き捨てた。
「あ、ああああ、あれはですねっ。言葉の綾というか、その。未申ちゃんが怖いというか、怒った未申ちゃんの言葉遣いがあまり聞かない粗暴な言葉遣いだったので。あ、えーっと、その失言でした。ごめんなさい」
フォローしているようでフォローになっていないけれど、でもその言葉を聞いて、私は少しだけ安心した。
私の「力」が怖かったんじゃなくて、私の「言葉遣い」が怖かったんだ……。
まあ、でもそりゃそっか。
二二ちゃんも私みたいに、物の怪が見えて物の怪と戦えるんだもんね。
私と、同じ。
「——別にいいよ、気にしてない」
私は二二ちゃんを置いて、公園の入り口まで移動した。
「そんなことより、倒せたんだし早く帰ろうよ」
「そうですね」
二二ちゃんはよいしょと声を出して、リュックを背負った。
タッタッタと、公園の入り口のすぐ近く、私の隣に駆け寄ってきた。
「お待たせいたしました」
そう言って二二ちゃんはペコッとお辞儀をした。
サッと、私達の足もとに影が落ちる。
雲が出てきたのかな? 雨降る前に帰れるといいんだけど。
「キ……」
ふと、背後から不吉な音が聞こえた。
「キキ」
まるで、動物の鳴き声のような……。
「キェエエエエイ!」
私はバッと振り返る。そして次の瞬間には叫んでいた。
「「何で(ですか)っ!?」」
こんなの目の前にいるはずがない。さっき「最後の」鶏を倒したはずなのに。
珍しく二二ちゃんとピッタリ声がそろった。
公園から走って逃げ続けて、一度落ち着くためにその辺の茂みに身を潜めた。
茂みから外を見ると、鶏は私達を探して首をくるくる回していた。
「とにかく、さっきと同じように超ウルトラ最強パンチで——」
「待ってください、倒しちゃダメです!」
立ち上がろうとした私を二二ちゃんが引き止める。
その間に、鶏はどこかに消えていった。
「どういうこと?」
今までずっと「物の怪を退治しましょう」と言ってきた二二ちゃんが、いきなり「倒しちゃダメ」って言うなんておかしい。
何か理由があるに決まってる。
「……ただの浮遊霊だったなら簡単だったんですけどね」
「ねえ、ちゃんと説明してよ!」
「すみません、二二が間違えていたようです。あれは、鶏の浮遊霊じゃないんです」
「じゃあ、何なの?」
「——恐らく、あれは」
「まみちゃんの生霊です」
「はぁ!? まみちゃんの生霊!? 根拠はあるの?」
あまりに荒唐無稽な話で驚いた。
「まあ、根拠というには弱いかもしれませんが色々あります。まず、まみちゃんの体調不良です。生霊を生み出した人間は、生霊を維持するのに体力や霊力を使い果たし弱ってしまいます」
「生霊って——生きている人の怨霊の事だよね。まみちゃんは誰かを恨んでいるってこと? それも、多分鶏関係で」
そういえば、まみちゃんは飼育係だったって言ってた。
もし、鶏が死んでしまったのが誰かにひどいことをされたから、とかだったら……。
「鶏をいじめた子——いや、もしかして鶏を殺したがいて、その子を恨んでるとか?」
「うーん、それはないと思われます。考え直してみたんですけど……やっぱり鶏さんの死因は、普通に病気や老衰ではないでしょうか?」
「何で?」
「先生のお話では、飼育係は来年度以降復活するかもしれないとのことでした。もし、誰かが鶏さんをいじめて殺してしまったということがあったなら、飼育係はもう復活しないと思います」
「確かに」
命を大事にできない生徒たちに、また生き物を育てさせようとはしないよね。
「生霊はなにも、恨みや憎しみの感情だけが生み出すものではありません。例えば恋とか、そういった他の強い感情でも生み出されることがあります。今回はそういう感じでしょう」
とにかく、と二二ちゃんはつなげる。
「今まみちゃんは生き霊に力を持って行かれて弱っている状態です。ここで、鶏さんを倒し続けても、まみちゃんが弱っていくだけで何の解決にもならないんです。本体、つまりまみちゃん自体をどうにかしないといけません。帰って作戦を練ってきま——はっ!」
バッ。
しゃべっている途中で二二ちゃんはいきなり立ち上がった。
「そんな時間、ないかもしれない……」
口元に両手を当てて、目を丸く見開いている。
すごく、焦っているようだった。
「未申ちゃん、早くまみちゃんの所へ行きましょう。早くしないと、まみちゃんの命が危ないです!」
「どういうこと?」
そう私が聞くと二二ちゃんは早口でまくし立て始めた。
「未申ちゃんは前、こっくりさんに『まみちゃんは大丈夫ですか?』と訊いていましたよね。そして、こっくりさんの答えは『いまわきおつけるへし』でした。確かにあれは、『今は気を付けるべし』にもとれますが、こうも取れませんか?」
「今際、気を付けるべし」
その言葉を聞くや否や、私は二二ちゃんの手を取って走り出した。
今際。
その意味は——『死に際』。
今ならまだ学校の近くに居るかもしれない。
そう思って、私達は学校に戻った。
「こっちです!」
二二ちゃんが手招きする。
「って方向分かるの?」
「霊具を見てます。この霊具が始めに指したのはまみちゃん、つまり鶏さんの『本体』です。二回目に動いたときも、鶏さんの場所を私達に、正しく示してくれていました。霊具は壊れてなかったんです!」
「なるほど!」
二二ちゃんの後を全速力で走る。
走って、走って、校舎の角を右に曲がったところ直後。二二ちゃんはいきなり止まって、かすかに息を切らせながら小さく呟いた。
「いました」
「二二ちゃん、未申ちゃん……?」
空っぽの鶏小屋の前に、幽霊みたいに青白い顔をしたまみちゃんが立っていた。
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