第5話 レッツ プレゼン! です!

「学校にはなじめそうですか、清水さん」

「ええ、まあ……みんな優しいので」

 次の日の朝、佐倉先生に声をかけられた。

「そうでした、今日の五時間目は委員会を決める予定なんですが——」

 佐倉先生は一枚の紙を取り出して、私に渡してきた。

「なじみのない委員会もあると思うので、一覧を渡しておきますね」

 渡された紙には、委員長(1)、副委員長(2)、体育委員会(3)——と、十数個の委員会名が並んでいた。かっこの中の数字は人数なのだろう。

 どれにしようかなあと眺めていると、あることに気が付いた。

「先生、この一番下のって何ですか?」

 一覧表の欄外に小さく「今年度の飼育係募集はなしとする。来年度以降は未定(今のところは再開予定)。」と書かれてあった。

「ああ、これですか。北東小学校には委員会とは別に、鶏を育てる飼育係という係があったんです。このクラスだと田野さんや鈴木君がやっていましたね」

 相づちを打ちながら先生の話を聞く。

 そういえば私の元いた学校でも兎を飼ってたなぁ。

「もともとは四年生から六年生で希望者を集めていたんですが、昨年度末に色々ありまして……。鶏がみんな死んでしまったので、少なくとも今年いっぱいは飼育係の募集ができません。来年になればどこかから譲ってもらえるらしいので、清水さんも興味があれば来年以降お願いしますね」

 先生の話を聞いて納得する。なるほど、そういうことだったんだ。

 まあ、聞いておいて何だけど私は動物が割と苦手だ。だから、今年だろうが来年だろうが飼育係に立候補することはないと思う。

「あっ、この委員会いいかも」



 五時間目の委員会決めで、私は図書委員に決まった。

 持つべきものはジャンケン運である。

 ——とか、思っていましたよ。ええ。はい。

「同じ委員会ですねっ、未申ちゃん! よろしくお願いしますっ!」

 図書委員になりたい人は十人ぐらい居たけど、私はその中で一抜けした。残り九人の勝負はかなり白熱したようで、休み時間まで持ち越したらしい。

 その結果を確認しなかったから、他の委員が誰なのか知らなかった。

「な、何で……こうなるの……」

 さて、放課後。いざ委員会の活動場所に行くと、そこにいたのは菖蒲二二ちゃんだった。

「ふわぁ~、図書室っていいですよね! 本に囲まれていると落ち着きます!」

 二二ちゃんは近くの本棚を見ると、この本見たことないですね、新刊でしょうか、と呟いた。

 目がキラキラしている。本当に本が好きみたい。

「未申ちゃんも本が好きなんですか?」

「うん、まあ……うん、そうだよ」

 二二ちゃんの問いかけに曖昧に頷いた。

 言えない——、図書委員が一番楽そうだと思ったからとか。

 仕事内容といえばせいぜい本の紹介ポップを作る位で、楽そうだなあと思って入ったとか言えない。

「二二もとっても好きです! 本は二二の知らないことをたくさん教えてくれますから!」

 じわっと胸の奥が罪悪感で痛んだ。

 みんな、委員会なんて楽か楽じゃないかで選んでるんだと思ってたけど、ちゃんとやりたい委員会をやってる子もいるんだなぁ……。

「それに二二は、あんまりお外に出られませんから」

 ん? どういうこと?

「みんな集まりましたね。それでは始めます」

 聞こうと思ったところで集会が始まってしまった。

 外に出られないって、どういうことなんだろう? 見かけによらず、実は体が弱いのかな? ——それとも、親が厳しいとか?

 まあ、いっか。どっちにしろ、そこまで込み入った話を聞くのはどうかとも思うし。


 集会は委員長と副委員長を決めて、仕事の確認をしただけだったから予想よりも早く終わった。

 さてと、帰ったら段ボールの山の中からゲーム機を見つけ出して、ボス戦直前でセーブしたゲームで遊ぼうかな。

 ……ランドセルの後ろに、背後霊のように張り付いているツインテールの少女をどうにかしたらの話だけど。

「未申ちゃん! 昨日のお話の続きなのですが——」

「だ、だからやらないって!」

「話だけでも聞いてください!」

「さんざん聞いたじゃん!」

「昨日の二二は愚か者でした。二二と一緒に退魔士を目指して欲しいという気持ちが強いばかりに、バカの一つ覚えみたいに『退魔士になってください』と。未申ちゃんの気持ちも考えず、ただただ繰り返していましたから! でも今日は違います! 退魔士になると言うことは、未申ちゃんにも少なからぬメリットがあると言うことを、お教えしたいと思うのです!」

「メリットって、何よ。そんなのあるわけ無いじゃない!」

「よくぞ聞いてくれました!」

 二二ちゃんは自分のランドセルをガサゴソあさって、何かを取り出した。

 くるくると巻かれた模造紙を掲げる。おもりのついている方の端から指を離すと、バンと大きな音を立ててその中身が開かれた。


 その1

 安心安全! 快適な生活!!


 その内容に私は首を傾げた。

「まず、未申ちゃんの霊力に誘われて寄ってくる物の怪退治に協力します! 四六時中張り付くわけにもいかないので、登下校中の護衛がメインですけれど……。でも、安心安全な登下校をお約束いたします!」

 二二ちゃんは、模造紙をランドセルにしまうと、同じように巻かれた模造紙を取り出した。

「未申ちゃんは物の怪とは関わりたくないんですよね?」

「まあ、できることならね。でも、この前のこっくりさんは別として、大概は勝手に寄ってくるんだもん」

「それでしたら、いい方法があります!」

 二二ちゃんは二つ目の模造紙を開く。


 その2

 専門家監修、霊力コントロール!


「物の怪は未申ちゃんの持つ膨大な霊力に寄せられてやってきます。逆を言えば、霊力をうまくコントロールし霊力をおさえることができれば物の怪は寄ってこないのです!」

「そんな方法があるの!?」

 私は食い気味に二二ちゃんに尋ねた。

「はい! 菖蒲家には長年積み重ねてきた霊力コントロールの技術がありますから。二二監修の元でシュギョーすれば、一年も経たないうちに大概の物の怪が寄ってこない位には霊力をコントロールできるようになるでしょう」

「修行って、具体的には何をするの?」

 あごに手を当てて、私は少し考える。

 さんざん突っぱねておいて何だけど、もしかして、もしかすると、本当にいい話なんじゃ……?

「退魔士修行、物の怪退治です! 霊力コントロールの近道は、実際に使ってみることですから!」

「う、やっぱりそこに戻るんだ……」

 結局、物の怪退治に付き合わされることになるだけじゃん。

「こればっかりは避けられませんから。ですが、考えてもみてください!」

「何を?」

「一年です」

 そう言うと、二二ちゃんは人差し指をピンと伸ばした。

「たったの一年シュギョーすれば、これから先ずーっと物の怪と無縁の生活を送れるようになるのですよ? 物の怪と戦う——自衛する術も身につくのですよ?」

「……本当にそんなことできるの?」

「菖蒲の家名に誓って可能です。未申ちゃんは、物の怪と関わらない方法を得る。二二は最強退魔士に近づくため、いろんな物の怪と戦うため未申ちゃんをいう絶大な戦力を得ること事ができる。まさに持ちつ持たれつの関係です」

 二二ちゃんは私の手を取る。

「どうです?」

「うーん……」

 悪くない話だと思う。

 専門家監修のもと修行するなら危険も少なさそうだし。

 でも——。

『未申ちゃんもアイツと同じ怪物だ』

 あの子たちの言葉が頭の中にへばりついて離れない。

「やっぱり、余計なことはしたくない。現状維持がいい……だから、ごめん」

「そこをなんとか!」

「二二ちゃんって結構押しが強いよね!?」

「未申ちゃんは百年、いや千年に一人の逸材なのですっ!!」

 二二ちゃんが言った言葉に私の耳がピクッと反応した。

「何て?」

「えっと……未申ちゃんは百年、いや千年に一人の——いえ! やはり、それでは生ぬるい! 最強の陰陽師と名高い、かの安倍晴明すら超えることができる程のポテンシャルを持っているまさに最強を超える超最強の逸材なのですっ!!!!!! 未申ちゃんが二二と共に退魔士になれば、あまりの強さにその辺に居る有象無象の物の怪共は震え上がり、顔も見せなくなるでしょう! 未申ちゃんが睨むだけで、酒呑童子のような最強格の鬼ですら戦意を無くすようになるでしょう! その位っ! 未申ちゃんはっ! まさに!! 神様に愛された退魔士なのですっ!!」

 二二ちゃんの力説に、私はフフッと笑った。

「私はマンガや小説の主人公なんかじゃない。だから、あんな化け物と戦うのなんて嫌。怖いんだもん。でも……」


「そこまで言われちゃ仕方ないよね♪ 怖いけど……二二ちゃんと一緒にがんばってみるねっ! だって私、四十六億年に一度の天才らしいから♪」


「二二、そこまでは言ってな——何でもないです。ありがとうございます!」

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