第4話 トゲ付き鉄球
女盗賊がナイフを構える。そして、そのナイフでヘイゼルに切りかかる。
「でいや!」
シュっとナイフが振り下ろされる。ヘイゼルはその攻撃を体を反らしてかわした。ナイフを向けられているのにヘイゼルは恐怖心1つ抱いていない。
「聞こえなかったか? フィンを返せ」
「返せと言われて返す盗賊がいるか!」
盗賊はヘイゼルに向かってナイフを突きつけようとした。ヘイゼルは体を横に向けて攻撃をかわす。冷静にナイフの軌道を見極めて攻撃をかわしていく。
「く、くそ! なんてすばしっこいやつ」
「お前が遅いんじゃないのか?」
ヘイゼルは女盗賊の後ろに回り込む。そして、女盗賊の手首をひねりあげて拘束をする。
「い、いて、いてててて!」
関節技を決められて女盗賊は行動不能になってしまう。ナイフも痛みで落としてしまい、ヘイゼルに対抗できるすべを失ってしまった。
「さあ、お前らのアジトに案内しろ。フィンをどこに連れ去った」
「だ、誰が言うものか!」
「そうか。それじゃあ、腕折るね」
ヘイゼルはゆっくりと時間をかけて女盗賊の腕に負荷をかけていく。ミシミシと音を立てて女盗賊の腕が痛めつけられていく。
「あ、あがぁああ! や、やめろ!」
「やめて欲しければ言うことがあるだろ」
「く、くそ! 言わない! 絶対に言わないぞl この腕がもがれようと……ああああぁああ! い、痛い痛い痛い!」
「はーい。腕が折れるまでのカウントダウーン。いきまーす! 3、2、1」
「ま、待て! 待ってくれ! 言うから、言うから腕を折らないでくれ!」
ヘイゼルが女盗賊の腕にかけていた圧を弱める。そして、彼女を拘束したまま耳元でささやく。
「妙なことはするなよ。私の速さと強さは身を以って思い知っただろ? 腕を折られたくなかったら、大人しくアジトまで案内しろ」
「わ、わかった。わかったから、拘束を解いてくれ」
「拘束されたまま案内しろ。お前が私になにかを要求する権利はないと思え」
ヘイゼルは女盗賊との交渉にまるで応じる気はなかった。決して自分の意見以外は譲ることがない。容赦のない女。それがヘイゼルなのだ。
◇
一方で、盗賊団のアジトに連れ去られてしまったフィン。山道の途中にある天然の洞窟の中に閉じ込められて女盗賊たちに取り囲まれてしまっている。
「うへ。うへへへへ。こいつは中々に希少な金髪の少年。間違いねえ。地毛だ」
女盗賊の1人がフィンのサラサラとした髪を手に絡ませていじくっている。
「僕の髪の毛を触ってそんなに面白い?」
「ああ。聖職者の象徴である金髪に触りたくねえ女がいるもんか。しかも美形……これは高く売れるぞ……」
「へっへ。姉御。売る前にアタシらでちょっと回しちゃいましょうよ。あんまりやりすぎると価値が下がっちゃうけど、少しくらいつまみ食いする程度ならバレないっしょ」
「ふふふ。そうだな。こんな上物を前にして手を出すなって言うほうが無理な話だ」
盗賊団の女たちは下卑た笑みを浮かべながらフィンににじり寄ってくる。フィンはこんな状況だと言うのに、自分がなにされるか全く想像すらしなくて、女たちの行動の意味がよくわかっていなかった。
「ねえ。これからなにするの?」
「へへ。ちょっとしたお楽しみタイムさ」
「へー。お姉さんたち。僕と遊んでくれるの?」
「ああ。とーっても楽しい遊びを教えてやるよ。ぐへへ」
無邪気にワクワクとした様子で女たちを受け入れようとしているフィン。そんな中。アジトの入り口方面から爆音が鳴る。
女たちは一斉に入り口の方を振り返り、ナイフや剣を手に取り構える。
「な、なにごとだ」
「はーい。お邪魔しまーす! ウチの可愛い可愛いフィンを取り返しに来ましたよーっと」
ヘイゼルが顔面をボコボコに殴った女盗賊をドサっと投げ出す。目の前に転がる仲間の無残な姿。ボコボコに殴られた女盗賊は「うぅ……」とうめき声をもらしていて、ここまでやったヘイゼルに盗賊たちは恐怖した。
「な……! こ、こんなになるまで……なんでだよ! こいつがなにをしたって言うんだ!」
「うーん。そうだな。アジトまで案内してくれたら腕は折らないって約束はしたかな。だから、顔面を殴った」
「お、鬼だ……」
盗賊たちはヘイゼルの滅茶苦茶な理屈に、こいつと話し合いでなにかを解決するのは不可能だと判断した。このまま敵のペースに乗せられるとやられる。そう本能が告げている。
「そこの子をさ。傷つけられると私としてもすごーく困るんだよね。そいつは見せしめ。そこのボロ雑巾のようになりたくなければ、大人しく降参してフィンを返せ。そうすれば1人1発殴るだけで許してやる」
ヘイゼルはポキポキと拳を鳴らして盗賊たちに対して威圧をする。
「あ、姉御! どうしますか」
「くく。私らも舐められたものだな。相手はたった1人。私たちが本気出せば勝てない相手じゃない! それに、やつが1人1発殴ると言ったが、それが拳で殴ると言ったわけじゃない。鈍器で殴ってくる可能性だってある。交渉に乗るな」
盗賊団のリーダーのその言葉にヘイゼルは「くっくっく」と含みを持たせた笑いをする。
「せいかーい!」
ヘイゼルの右手が変形する。ガシャンガシャンと音を立てて右手の形が少しずつ変わっていき、鉄球へと変わる。その鉄球は最後にジャキンと音を立てて無数のトゲを生やす。
「ト、トゲ付き鉄球……! 予想以上にグロい……!」
下っ端の女盗賊がヘイゼルの右手を見て視覚的に勝てないと恐怖して立ちすくんでしまう。
「ひるむな! こっちだって武器を持っているんだ! 私に続け!」
リーダーが剣を手に取りヘイゼルに向かって特攻する。そして、剣で思い切りヘイゼルに切りかかった。ヘイゼルはそれを左腕で受け止める。ガキンと音が鳴った。
「手ごたえあり!」
リーダーがニヤっと笑う。しかし、ヘイゼルの腕は出血どころか、まるで傷1つついていない。
「私さ。改造人間なんだよね。だから……この程度の斬撃効かない!」
ヘイゼルは右手のトゲ付き鉄球でリーダーを想いきり殴りつけて吹っ飛ばした。リーダーは血を流しながら上空に吹っ飛び、そして落下して倒れた。
「リ、リーダー!?」
「うぐぐ……な、なんて強さだ……」
リーダーは痛む体になんとか力を入れて上半身を起こそうとする。しかし、想像以上のダメージに体を動かすことができずにドサっと倒れてしまう。
「さあ、次の犠牲者は誰かな?」
「う、うわあああ!」
リーダーを失い統率が取れなくなった盗賊たちはヤケクソになってヘイゼルに向かって特攻をした。しかし、そんな闇雲な攻撃がヘイゼルに当たることはなく、彼女たちの攻撃はヘイゼルの左腕1本で全て防がれてしまった。
「へいへーい。そんな攻撃じゃ私は倒せないぞ」
「う、うわああ!」
とにかくパニックになった女盗賊たちは必死でヘイゼルに攻撃をする。もう生き残るにはそれしかない。だが、無情にもヘイゼルが攻撃をする。ヘイゼルのトゲ付き鉄球に吹っ飛ばされる女盗賊。1人、また1人と彼女の鉄球の餌食になり数はどんどん減っていく。
「弱い弱い。お前らが100人いたところで私には勝てないね」
そんな中、1人の女盗賊がヘイゼルから逃げ出した。その逃げた方向にはフィンがいた。女盗賊は素早くフィンを抱き寄せると彼の首筋にひやりとナイフを当てた。
「う、動くな!」
「あ、やべ」
ヘイゼルは自分の失態に気づいた。しかし、もう手遅れ。
「う、動いたらこいつの命はないと思え」
女盗賊としてもフィンは、性的にも商品的にも価値がある存在で、できれば傷をつけたくないものであった。しかし、こうなってしまってはなりふり構ってられない。例え、フィンを殺すことになったとしても、ヘイゼルをどうにかしなければならない状況に追い込まれてしまったのだ。
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