第2話 逃走と覚醒

 イラリオは十字架を磔にはりつけにされたヨクドリアを助けて、小脇に抱えて、高く何度もジャンプしながら、逃げて来た。後ろからプレートアーマーを身につけた兵士たちが追いかけて来るかと思ったら、森の中に入りこむといつの間にかいなくなっていた。森の入口には『この先猛獣出没危険!』の立て看板があった。森の中は薄暗く、洞窟ではひんやりとした空気の中、蝙蝠が飛び交っていた。



それを見た兵士たちはおそれおののいて、方向転換して戻って行った。


 森の奥の奥、岸壁の奥にある洞窟にヨクドリアをおろした。

 ロープで縛られて、体のあちこちに跡が残っていた。自分自身の腕を撫でて痛みを確かめた。背負っていたカバンから動物の皮革を縫い合わせて袋に入った水をヨクドリアに渡した。救急セットの包帯を巻く。


「これで消毒するといい。あとはこの包帯で巻けば大丈夫だろう」


 イラリオは、その場でしゃがみこみ、空中に四角をなぞる。青白く光る線が浮かび、映像が流れる。その光景にヨクドリアは、傷を水で洗いながら目をこれでもかと見開いた。ぼろぼろになっているはずの体が無意識に動く。


「な、何しているんだ?」

「気になるか」

「……ああ」


 ヨクドリアは、イラリオを頭の先から足の先までジロジロと見る。両手と両足はすべて鋼でできてる服からチラリと隙間から輝いている。漆黒のベネディクト ローブを着用していた。でもどこか新しい。今の時代とはちょっと違うような気がした。ヨクドリアは、農民兵のペザントで最近階級試験を受けてスチール製 グスタフ ブレストプレートを支給された。白い長袖シャツにつけていたため、装備品は弱かった。 ローブだというのに、鋼の義手と義足をつけていて負けている気がした。


「今はまだ教えられない。まずはここから逃げるんだ。追手が近づいているかもしれない」

 

 イラリオは、立ち上がり、洞窟の壁に背中をつけて、外をそっと覗く。ヨクドリアは、誰の事を言っているのかわからなかった。この森に入った時に、兵士たちは引き返したのを見た。


「来た。装備品を身につけろ!」


 イラリオは、バックから次々と大きな鎧や盾、短剣を取り出した。身に着けているものよりも高級で強そうだ。明らかにバックよりも大きい。なんでそのバックに入るのか。不思議だった。ヨクドリアは急げと急かされるため、渡された防具を装備した。 空中に名前と攻撃力・防御力・体力・魔力などのステータス画面が表示される。ヨクドリアは、見たこともない画面に体は固まった。まだテレビが普及してない時代だ。


「これ、なんだ?」

「見ればわかるだろ。お前のパーソナルデータだ」

「パーソナルデータ?」

「来るぞ!!」

「え?」

 

 地響きのような吠え声が轟いた。森に住む大きなツキノワグマだ。戦ったことのないヨクドリアは腰を抜かした。イラリオはため息をつく。


「こんな雑魚と戦っている暇ないんだけどな。レベルアップのためだ」

「???」


 腰を抜かしたまま、ヨクドリアは、無意識に兵士魂がよみがえり、渡された短剣を出した。


「それで勝てると思えないけど、まぁいいや」

 イラリオは、ヨクドリアのサポートするため、後ろに回り込んだ。ツキノワグマは興奮して大きな声をあげて両手を挙げた。

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