天津風 あまつかぜ

３

「ただいま」

　そう言って宵は自分の家の玄関の扉を開けた。

「おかえり。今日は遅かったね」

　家の中から、そんな宵のお姉ちゃんの声が聞こえてくる。お姉ちゃんはどうやら台所で夕食の支度をしてくれているようだった。

「……お父さんは？」

　台所を覗くと、そこにはやっぱりお姉ちゃんがいた。

「今は仕事中」

　宵のほうを振り返って、お姉ちゃんはにっこりと笑ってそう言った。

「そうなんだ」

　宵はそれだけを言うと、それから自分の部屋に向かって移動をした。

　宵の家は山野神社という、この田舎の山奥にある街に代々伝わっている、それはそれは古い古い、とても伝統のある神社の家系の家だった。

　現在の山野神社の神主さんは宵とお姉ちゃんのお父さんで、二人は山野神社の巫女さんとして、時間があるときは、お父さんの仕事を子供のころから手伝っていた。

　宵とお姉ちゃんのお母さんは二人が小学生の低学年のころに病気で亡くなった。

　山野家では、おじいちゃんもおばあちゃんもすでに亡くなっていて、お父さんと宵とお姉ちゃんの三人だけの家族だった。

　宵は陸上部の練習着からいつもの普段着に着替えをすると、お父さんのところに行こうとして、家の隣にある山野神社につっかけをはいて移動をした。

　神社の中に入ると、お父さんはそこにいた。

　祭壇の前に座って、お父さんはある二人の人物の話を聞いているようだった。

　その二人のうちの一人の姿を見て、宵はすっごく驚いた。

　なぜならそれは、宵が密かに恋をしている、あの逢瀬暁くんだったからだ。