「宵さ。今日も練習の途中で、ちらちらと逢瀬くんのこと見てたでしょ?」

「……うん。まあ」

 宵は赤色に染まっている大きな川の流れを見つめる。(宵と暁は二人とも陸上部だった)

「そんな風にして、なんにもしないで遠回しに意識だけしていても、逢瀬くんには宵の、逢瀬くんのことが本当に大好き! ……って気持ちは、あんまり伝わらないと思うよ」呆れた顔をして愛は言う。

「わかっている」

 宵がそう言うと、愛は小さくため息をついた。

「まあ、別にいいけどね」

 愛はそう言って土手の上を再び歩き出した。宵も同じように、愛の隣を歩き始める。

「ねえ、愛」

 宵が言う。

「なに?」

「愛はさ、好きな人っていないの?」宵が言う。

「そんな人いないよ」

 宵の言葉に愛はそう即答する。

「本当に?」

「本当」

 愛はそう言って、宵を見て、わざとらしくにっこりと笑う。

 そんな愛の笑顔を見て、宵は、あれ? もしかして、愛は本当に誰かに恋をしているのかな? と思った。

 もし、本当に愛が誰かに恋をしているとしたら、それはいったい誰だろう?(私の知っている男の子かな?)と宵は思う。

 それらしい男の子の顔は思い浮かばない。

 愛は宵とは違って、あんまり自分の話を雨にしてくれない。愛はすごく素敵な友達だけど、そんな(自分だけ)秘密主義のところが、宵は少しだけ不満だった。

「じゃあ、また明日ね」

 いつものわかれ道のところで愛が言う。

「うん。また明日」

 宵は言う。

 そしていつものように、そこから二人はそれぞれ別の道を歩いて、自分たちの暮らしている家に帰って行った。

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