第一章 懺悔室バイト初日に皇帝陛下が懺悔に来ました③

 シスター歴数分の私には荷が重すぎる案件だったけれど、なんとか彼の懺悔に応えることができてあんしつつ、手引き書の最後の項目に目をる。


 その三、さりげなく寄付をすすめること。


 その三だけ赤インクで下線が引かれて強調されており、さりげなくという指示が全くさりげなくなかった。

「では、えー、あの、よろしければ寄付を……」

 やとわれシスターの身である私は、上司たる神官様のしようこんたくましい方針に従うしかないので、努めてさりげなく寄付を勧めようとした。が、言い切る前に、衝立の前に設置してある寄付箱の上へ、じゃりんと音を立ててきんちやくが置かれた。

 じゃ、じゃりん? え、何、今の重そうな音……。

「シスター、ありがとうございました」

「あ、いえいえ、またのお越……」

 ついお店でパンを売る時と同じ調子で言いかけ、あわてて「お気をつけて」に言い直した。ざん室で「またのお越しを」は変だし、何より皇帝陛下に再びお越しいただいたら心臓がもたない。

 皇帝陛下が教会から去ったことを確認してから、懺悔室内のとびらを開け、恐る恐る巾着の中身を確認する。金貨がしげなくまっていた。

「ひえ……」

 見たことのない大金におびえつつ、巾着の中身を寄付箱に移す。皇帝の財力、恐るべしだ。

 懺悔室に務めて初日の相手が皇帝陛下しかも内容が大変重い、という受難に神様がれんびんを垂れたのか、以降、懺悔室に人は来ず、座っているだけで楽に勤務時間がしゆうりようした。結局、本日の来訪者は皇帝陛下だけである。

「おつかれー。今日の売り上……寄付はどんな感じだった?」

 うっかり売り上げとか言っちゃっている神官様がわくわくと寄付箱をのぞき、「おお」とかんせいを上げた。

「寄付金すげえ集まってるじゃねえか。人いっぱい来たのか?」

 いいえ皇帝陛下おひとりです、とは言えず、あいまいみを返した。

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