第4話:怖くても君が好き

 ピーンポーン


「はーい」


 ガチャリと玄関が開く。中からは一応僕の彼女、市原紅葉ちゃんが出てきた。


「我が家へようこそー、仁礼く……おっと、忠くん、だったね!」

「自分で作ったルールでしょ? ちゃんと守ってくだ……守ってよ」


 一昨日の雨の金曜日、僕はいろいろあって紅葉ちゃんと付き合うことになった。そのとき「互いのことを『紅葉ちゃん』『忠くん』と呼ぶ」「敬語は禁止」というルールが作られた。なお、ルールを破った際のペナルティはそのときの紅葉ちゃんの気分で変わる。前回のペナルティが「チューする」だったので、僕は間違いを犯さないために、ルールを遵守している。キスはちゃんとした状況でしないとね。


 今日は金曜日に紅葉ちゃんがうちで洗濯した服を返すためわざわざ紅葉ちゃんの住むアパートまでやってきていた。本当は僕の家に来てほしかったのだが、紅葉ちゃんが『忠くんの家でお世話になったから私の家もおもてなししたい!』という趣旨のメッセージを何度も送ってくるので僕が折れた。まあ、他にも折れた理由はあるが……


「ささっ、入って入って―」


 言われるがまま、僕は紅葉ちゃんの部屋に入った。紅葉ちゃんの部屋は僕の部屋より全然広かった。玄関から右手にはトイレ、左手には洗面所とお風呂があった。洗濯機も洗面所に置いてある。あれは、ちょっと古い型だな。少し進むとキッチンスペースと冷蔵庫。冷蔵庫近くの扉を開けると八畳ほどの洋室が姿を表す。洋室にはテレビやベッドなどの生活必需品以外にはカラーボックスが数個置いてあり、そこには本がぎっしり詰まっていた。人類学だ、日本の城だ、電磁気学だ、小難しそうな本がいっぱいだ。紅葉ちゃんって実は頭いいんだ。


「さ、忠くん。どうぞおかけになって」


 紅葉ちゃんは洋室の中心にある小さなテーブルの近くに座るよう、僕を誘導した。僕はテーブルのまわりにあったクッションに座る。紅葉ちゃんも僕に向かい合う位置のクッションに座った。


「さて、じゃあ服! 返して」


 紅葉ちゃんは僕に向かって笑顔で両手を伸ばす。あっ、お茶とか出てこないんだ。ちょっと残念に思ったが、そんなことはすぐに忘れて、僕は紅葉ちゃんに服を手渡す。


「はい。ちゃんと乾かしてしわも伸ばしておいたよ」

「ホントだ! いつもよりキレイになってる! 忠くん、ありがとう!」


 ニコニコ笑顔でお礼を言う紅葉ちゃんはやっぱりかわいい。これで性格も良ければと何度思ったことか……おっといけない。当初の目的を忘れるところだった。僕は紅葉ちゃんの方をにらみつけ、話す。


「じゃあ次は僕の番だね。さあ、僕の服、返してよ」


 一昨日の金曜日、すごい雨のせいで紅葉ちゃんは僕の家に泊まることになった。そのとき濡れてしまったのが今僕が紅葉ちゃんに渡した服だ。そして濡れた服の代わりに紅葉ちゃんが着ていった服を、僕は取り返しに来たのだ。その服は僕にとって、宝物といっていい一着だ。


「ああ、あのワンピース? あれ女の子の服だけど、忠くんのであってるのぉ?」


 うわっ、紅葉ちゃん、すっごくニヤニヤしてる……やっぱりこうなったかあ。紅葉ちゃんの言う通り彼女が着て帰ったのは女性ものの服だ。じゃあ僕の家族、例えば妹とかのものかといえば違う。あのワンピースは僕が僕のために買ったものだ。


 僕には変わった趣味がある。フリルのついた可愛い服が大好きで、たまにそういう服を着て外出している。こんな趣味、誰にも言えないと思っているので、バレないように細心の注意を払って外出していた。


 しかし、最近紅葉ちゃんに女装姿を見られてしまったのだ。しかも金曜の夜には勝手にクローゼットの中を見られた上、お気に入りの一着を盗まれた。


 今日は『うちに来てくれなきゃワンピース返してあげないよ!』というメッセージを紅葉ちゃんから受け取り、ワンピースを取り返すためにここに来たのだ。ここで引き下がるわけにはいかない。


「……うん、あっている。あれ、僕の。だから、返して」


 羞恥心と情けなさがこみ上げる。ヤバい、泣きそうだ。でも、あのワンピースは絶対取り戻したい。店員さんが可愛く着こなしているのに一目惚れして、あわあわしながら店員さんと一生懸命お話して手に入れたワンピースなのだ。もう女装が紅葉ちゃんにバレてもいいから返ってきてほしい。多分、ちょっと涙目になりながら、僕は紅葉ちゃんにお願いした。


「……っ!!」


 紅葉ちゃんはなぜか絶句している。どうしたのかと思い、紅葉ちゃんの顔を覗き込む。


「ちょっと! 忠くん! なに、どうしたの?! 今日、かわいすぎない!?」


 キャーといって紅葉ちゃんは悶えている。かわいい? 今日は前会ったときと同じTシャツにパーカー、ジーンズスタイルでフリル付きじゃないんだけど、どこがかわいいんだろう?


「で、僕の服は返してくれるの?」


 紅葉ちゃんに詰め寄った。紅葉ちゃんは急にシュンとしてボソボソと答えた。あれ、怖がらせちゃったかな?


「うん……返すよ、返す。だけど一個お願い聞いてくれるかな?」


 お願い? 紅葉ちゃんの家に来ている時点で既にお願いは聞いているんだけど、加えてお願い聞かないとワンピースは返してもらえないってこと? まあ、もうなんでもいいや。早くワンピースを取り戻さなきゃ。


「えっと、その、お願いって何かな?」

「……今日一日うちにお泊りして」

「……? なんで?」


 首を傾げる。一日紅葉ちゃんの家に泊まることで紅葉ちゃんに何のメリットがあるんだろう?


「実は昨日の夜、昔体験した怖いこと、夢で見たの。で、今日は一人で眠れそうにないから……」

「僕に一緒に寝てほしいと」

「……うん」


 紅葉ちゃん、怖いのダメなんだ。


「まあ、うん、それでワンピース返してくれるなら……」

「ホント! ありがとう!」


 うわ、すっごいキラキラの笑顔。よほど怖い夢だったんだろうな。どんな夢だったんだろう……聞くか。


「ちなみにさ、その、どんな夢だったの?」


 興味本位で聞いてみる。紅葉ちゃんはちょっとだけ表情を曇らせた後、頷いた。


「うん、そうだね。もしかしたら、誰かに話すことで怖くなくなるかもだし」


 そういって紅葉ちゃんは十年くらい前、自分が火の玉を見た話を始めた。


――――


「はっ!」


 不快感で目を覚ます。いつもなら寝ているはずの時間なのに、意識がはっきりしていた。


(……おしっこ、したい)


 目が覚めた原因は強烈な尿意だった。


 今日は市内の小学生を集めたサマーキャンプ。キャンプではみんなで川で遊んだり、みんなでカレーを作ったりして一日を過ごす。知らない子が多くて緊張したけど、とても楽しかった。でもはしゃぎすぎたみたいで、私はお風呂に入った後すぐに床についてしまった。いつもなら寝る前に必ずトイレに行くのに、今日はそうしなかった。だから夜真っ暗になってからおしっこがしたくて目が覚めたのだ。


 ブルッ


(ッ……トイレ、いかないと)


 私は布団から体を起こす。立ち上がった後は同じ部屋で寝ているみんなを起こさないようにこれまたゆっくりゆっくり歩いた。部屋の出口まで来たところで、私の動きはピタリと止まった。


(ここまで来たけど、どうしよう……こわい)


 真っ暗だと怖くて眠れない子がいたので、部屋の中はオレンジの淡い光で照らされていた。なので、部屋の出入口までは何とかこれた。だが、部屋を一歩出れば、その先には真っ暗な廊下が続く。長い長い廊下を進まないとトイレにはたどり着けない。


 ガチャ


 とりあえず扉を開けて部屋の外をうかがう。予想通り廊下は真っ暗だ。右を見ても左を見ても吸い込まれそうな暗闇が広がっていた。


(やっぱりこわい! でも、いかなきゃ)


 いかなきゃ、でも途中でおばけがでてきたら? ううん、おばけなんていない。でも……頭の中でいろんな感情がグルグル渦巻く。


 こわいのはどうにもならなくって、でもトイレにいかなきゃいつかはおもらししちゃって、おもらししたくなくって……もうどうしようもない。その絶望から私は泣き出しそうになった。


(どうしようどうしようどうしよう、このままじゃ……)


 ガチャ


 私が涙していると、どこからか扉の開く音が聞こえた。音の主は向かいの部屋の男の子だった。その男の子はひどく慌てた様子で扉から顔だけを出し、男の子にしては長めの髪を振り乱しながらキョロキョロと廊下の様子を伺う。パジャマには戦隊モノのヒーローがプリントされている。蓄光塗料が塗られているようでパジャマはぼんやり光っていた。男の子は何度も何度も廊下の左右を確認し、少しずつ部屋から身を乗り出していた。よほど余裕がないのか向かいの部屋から私が同じように身を乗り出しているのに気づいていない。


(そうだ! あの子! あの子にトイレ、ついてきてもらえばいいんだ!)


 妙案が浮かんだ。そうだ、一人で怖いならふたりで行けばいい。それに彼も何か部屋の外に用があるみたいなのできっと力になってくれる。私は現状唯一の希望である彼に声をかけた。


「あ! あの!」

「な、なんだよお前! び、びっくりさせるなよ!」


 男の子はビクッと跳ね上がり、部屋の中へ引っ込んでしまった。驚かせちゃったかな?


「ゴメンナサイ、あの、でも、お願いがあって……」

「はあ?何だよ?俺、今忙しいんだけど」


 向かいの部屋から顔だけ出し、彼はぶっきらぼうに答える。


 (よし、言うぞ! トイレ一緒に行こうって言うぞ!)


 心の中で言うべきセリフを反復し、彼に声をかける。


「お願い! トイレ! 一緒に来て! 一人じゃ怖いの!」


 男の子はキョトンとしてこちらを見ている。急に自分の言ったことが恥ずかしくなって顔が熱くなる。


「な、お、お前、トイレも一人でいけねーの?」

「だって、暗くて、おばけが……グスッ」


 恥ずかしいやら情けないやらで私は本格的に泣き出しそうになる。


「あ〜! も〜泣くなよ! ほら、一緒にトイレ行くぞ」


 男の子は部屋から飛び出して泣き出しそうな私の手を握ってくれた。


「グスッ、ありがとう」

「いいから早くしろよな!」


 男の子にひっぱられて私は部屋を後にした。


――――


「ヒグッ、グスッ、こわいよぉ……」


 思わず隣を歩いていた男の子に抱きつく。


「おい!ひっつくなよ!」


 男の子は乱暴に私を振り払った。


 (イタイ、ひどいよぉ)


 この短時間思ったのだが、私はこの男の子が苦手かもしれない。声は大きいし、言葉遣いは乱暴だし、なにより私のことをずっと雑に扱ってくる。女の子を大切に扱うように習わなかったのかしら?


 パタパタパタ……


「ヒッ……」


 後方からスリッパの足音が聞こえてきた。でもこんな時間に、誰?


「おい!後ろ!」


 男の子がスリッパの音がする方向を指差す。男の子が指差した方向にはゆらゆらと揺れる光の玉があった。


「走れ! 火の玉だ!」


 そういうと男の子が私の手をグイッと引っ張った。そのまま廊下の先に先にぐんぐん走っていく。ちょっと手が痛かったけど、私は我慢して走った。早く火の玉から逃げなきゃ。その一心だった。


「クソッ! 全然逃げ切れない!」


 二人で後ろを確認しながら全力で走った。あまりにも後ろばかり見ていたから、私たちは目の前の何かに気づかなかった。


 ドンッ


 二人して何かにぶつかった。


「おや?こんな時間にどうしたのかな?」


 ぶつかった何かがしゃべりだした。どうやら明かりを持っているようで、何かが本当は人間だということがわかった。多分サマーキャンプの監督をしてくれている高校生だろう。背が高く顔立ちの整ったカッコイイお兄さんだった。


「えっと、その……」


 私がしどろもどろになりながら状況を説明しようとしていると、お兄さんが何かを察したように「あぁ」といった。


「もしかして二人ともおしっこしたくなっちゃったのかな?」


 そういってお兄さんはしゃがみこみ、私たちを交互に見た。


「お、俺は違う! コイツが行きたいっていうから!」


 男の子がムキになってお兄さんに反論した。お兄さんはニコニコして男の子に答える。


「そっかそっか、ついてきてくれたのか。怖かっただろうに、君は優しいね」


 お兄さんは男の子の頭をクシャクシャとなでた。


「うるさい!バカにするな! 全然怖くなんかなかったんだからな!」


 ヨシヨシと頭を撫でる手を男の子はブンッと振り払った。意地っ張りな子。でも、優しいのは、そうかも……


「あり?ハァ、峰っち、ハァ、何してんの?」


 私たちの後ろから女の人の声が響く。この人もサマーキャンプの監督さんだろう。めちゃくちゃ息が切れているみたいだけど大丈夫かな?


「あぁ、この子たちトイレ行きたいんだって、きよみん、女の子のほう連れてってあげてよ」

「うん……ぜぇ、りょーか、い」

「どうしたの、きよみん? 虫の息だよ?」

「いや、私の前に、ぜぇ、座敷わらしがいてさ。はぁ、全力で追っかけて、ぜぇ、きたの」

「……多分それこの子たちだよ?」

「えっ!マジ!?」


 お兄さんは苦笑している。後ろのお姉さんはちょっと天然さんみたい。


「おい! 何勝手に話を進めてるんだよ! 俺はトイレなんて行きたくないんだよ!」


 男の子が大きな声でお兄さんたちの会話に割り込む。お兄さんはまたニコニコと男の子の方を見て話し始める。


「あぁ、そうだったね。でもさ、俺がトイレ行きたいから、悪いけどついてきてくれるかな?」

「何?お前、そんなに大きいのに一人でトイレ行けないのか?」

「あぁ、そうなんだ。情けなくてゴメンな。助けてくれるかな?」

「全く、しょうがないなぁ。俺がついて行ってやるよ!」

「おう、ありがとな」


 そういって男の子は得意げになってお兄さんをトイレのほうに先導し始めた。お兄さん、子どもの扱いが上手だなぁ。


「さってと〜、私たちもトイレ行こっか?」


 私はコクリと頷き、お姉さんと手をつなぎトイレに向かった。お姉さんの手は柔らかい女の人の手だったけど、とても頼もしい感じがした。


――――


「ってことがあってさ。いやそのときはホントに怖かったよ……」


 紅葉ちゃんはそういって話を終えた。紅葉ちゃんはちょっとだけ震えている。


「まあ確かにいきなり火の玉に出会ったら怖いかもね……」

「でしょ? だから泊まってって! お願い!」

「でもさ、その火の玉って多分懐中電灯か何かだよ? 」

「えっ……? 」


 紅葉ちゃんはかつてない程驚いている。この娘、ちょっと思い込みが激しい娘なんだな。


「えっと、さっきの話の中でお兄さんは明かりを持ってたよね? 」

「うん」

「じゃあさ、後ろから走ってきたお姉さんはどうだった? 明かりになるもの持ってた? 」


 紅葉ちゃんはしばらく考えた後、「あっ」といって答えた。


「持ってた。お姉さん、懐中電灯持ってたよ。」

「で、お姉さんが小さい頃の紅葉ちゃんを座敷わらしと勘違いして追っかけてきたなら、お姉さんの持ってた懐中電灯が火の玉の正体だよ」


 僕は推理(? )を終え、ちょっとドヤ顔で紅葉ちゃんを見る。紅葉ちゃんは口を開け、呆然としていた。


「えっ、じゃあ私が10年間怖がってきたのは、あのちょっとアホなお姉さんってこと? 」

「まぁ、アホかは別として、お姉さんの可能性が高いね」

「そっか〜……火の玉じゃ、なかったんだぁ」


 紅葉ちゃんは「はぁ」と息を吐き、安堵の表情を浮かべる。よかった、トラウマが一つ減ったみたいだ。


「でも忠くんすごい! よく私の話だけで火の玉の正体がわかったね! 名探偵みたい! 」


 紅葉ちゃんの目が今までで一番キラキラ輝いている。すごく尊敬されてるみたいだ。嬉しい。


「えっ、ああ、ありがとう。でも実は僕も紅葉ちゃんとほとんど同じような体験をしてたんだ。だから、火の玉の正体にすぐ気づけたんだよ。」

「同じような体験? 」


 紅葉ちゃんが小首をかしげる。


「うん。ホントにそっくりな体験なんだけどさ。僕もサマーキャンプで夜トイレに行きたくなったんだ。けど、廊下が暗くて怖かったから、なかなかトイレに行けなくて。そしたら向かいの部屋から年下の女の子が部屋から出てきてその娘と一緒にトイレに行くことになったんだ」

「へえ、ホントそっくり。ちなみにだけど、なんで女の子が年下だって思ったの?」


 たしかに、なんで僕はその娘が年下だと思ったんだろう?紅葉ちゃんに聞かれて考える。うーん、わからない。


「なんとなくだよ。小柄だったし、多分年下かな〜って」

「ふーん、あ、ゴメンね邪魔しちゃって」

「いいよ。えーと、女の子とトイレに向かう途中で、後ろから火の玉が追いかけてきて、でもお兄さんが助けてくれて何事もなくトイレに行けたんだよ」

「へー、そうなんだ。よかったね、お兄さんとお姉さんが助けてくれて。」

「そうだね。でその後、そのお兄さんに火の玉見たこと話したら、『多分それは後ろから来たお姉さんが持ってた懐中電灯だよ』って教えてくれたんだ」

「ほえ〜、それで忠くんは私が見た火の玉の正体にも気づけたってわけか〜。」


 紅葉ちゃんは、自分の見た火の玉が懐中電灯だったとわかって上機嫌だ。


「まあ、僕にとってはいいことばっかりの思い出じゃないんだけどね……」

「ん? どういうこと? 」

「あのね。僕あのときトイレに行きたくてイライラしてたり、もっと男らしくなりたかったりで、一緒にいた女の子に乱暴な言葉で話しちゃったんだ。きっと怖がらせちゃったなと思って今でも後悔してるんだ……」


 自分で思い出して、自分で落ち込む。ホントにカッコ悪い。年下の女の子にキツくあたるなんて……


「……ちなみにさ、そのときは忠くんはどんな服着てたの?」


 突然、紅葉ちゃんの顔から笑顔が消え真面目な顔になった。軽蔑されちゃった?それとも僕が小学生の時に着ていた服がそんなに気になるのだろうか? あのときはまだ女装してないのに……


「あのときはたしか……ああ、ご飯戦隊スイハンジャーのハヤダキブルーがプリントされた光るパジャマだったよ。僕、ハヤダキブルーが好きだったんだ」


 沈黙が流れる。紅葉ちゃんの顔には影がかかっていた気がした。何か気に障ることを言ってしまったのかと心配していると、突然紅葉ちゃんがパッと笑って話し始めた。


「そっか……そっかそっかそっか、そっか〜!そうだったんだね!」

「?どうしたの? 突然?」


 紅葉ちゃん、いきなりどうしたんだろう? 落ち込んだり、ニコニコしたり忙しい人だよなあ。


「いや別に〜、忠くんの可愛いエピソードを聞いて、忠くんのことがますます好きになっただけだよ〜。ホント、こんなに人を好きになったのは初めて!これはもう、運命だね!」


 (運命って……)


 呆れている僕をよそに紅葉ちゃんは僕に近づき、抱きついてきた。


「ちょっと! ひっつかないでよ! どうしたの、いきなり?」


 僕は身をよじり紅葉ちゃんの拘束から抜け出そうとした。が、紅葉ちゃんに離れる気はなさそうだったので、諦めた。


「フフッ、無理に振り払わないなんて優しくなったね〜。これからはずっ〜と一緒にいようね!忠くん!!」

「これからずっとは荷が重いよ……」


 ちょっとめんどくさい人を彼女にしてしまった、と僕は後悔し始めていた。あと、早くワンピース返してほしい……


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