第25話*ウィリアムside 今夜も

(*大人表現あり、飛ばしても問題ないです)



夜になり、私は夫婦の寝室へ向かった。


昨日の話し合いで、契約書の内容に沿うよう今後の関係を持続する事が決まった。

だから、子ができやすい期間でない限りは閨を共にしない。


「……構わないだろう。彼女は以前は契約書通りにはならなかったと言っていた」


独り言のように呟きながら、部屋をノックした。

一応先触れは出しているから問題ない。



「殿下……」


ステラは頭を下げた。


「夫婦の寝室でも眠れることが分かった。だから今日から、仕事が遅くならない限りはここで休むつもりだ」


そう言ってガウンを脱いだ。

彼女は虚をつかれたように驚いていたが、私の上着を受け取った。


ベッドに横になっていたほうが話がしやすいと伝えて、そのまま上掛けの中に入った。


「殿下……」


なかなかベッドに入って来ない彼女の為に、上掛けを上げて横になるように促した。




「あの、閨事はタイミングの合う日に行うという認識でいましたが。昨日の契約書はちゃんと読んで頂いたのでしょうか。殿下は誰かと一緒だとゆっくり眠れないのではなかったのですか?」


「誰かと一緒でも眠れることが分かったと言っただろう。今日はムンババ大使が君のところへ来ただろう。その報告も聞きたいからな」


ムンババ大使と何を話したのかが気になった。結婚しているのだから、正妃の行動を把握しておくことは、夫として当たり前のことだ。


「大使はカーレンの薬傷の本を持って来て下さいました。こちらで栽培できそうな薬草は育ててみる価値があるかと思います」


「それは良い考えだ。あちらは温暖な気候だから、温室を使えば栽培は可能かもしれない」


「ええ。ムンババ様はとても親切です。知識も豊富ですし、面白く話をされるので気を遣う必要もありません。紳士的で……」


なぜムンババ大使を褒めるんだ。

まるで好いているようではないか。


「大使は、いろんな令嬢に惚れ込んでしまう。気が多い男だ」


「そういった印象は持ちませんでした。殿下が療養中も、支えになって下さって皆を励まして下さいました」


喧嘩をしようと思っている訳ではない。彼女を前にすると、なぜか冷たい言い方になってしまう。

思うように言葉が出ない事に苛立った。


私は「うう……」と静かに唸り声を上げた。





「ひゃぁ!」


ステラが声をあげた。


私は強引に彼女を自分の傍へ抱き寄せた。


柔らかい懐かしい感覚だ。

ステラの匂いを胸に吸い込む。


「殿下……何を……」


不意だったからか、体をねじるようにして、驚いた目つきで私を見る。

視線が刺さる。痛いくらいだった。




「君は私の事を殿下と呼んでいたのか?名前では呼んでくれないのか?」


意識するように呼吸を整えてから、彼女は私の名を呼んだ。


「……ウィル」


そうだ。彼女は私の事をウィルと呼んでいた。


「もう一度名前を呼んでくれ」


「ウィル……」


懐かしい、心地よい響きだった。







ステラside




あっという間にウィルの唇がおりてくる。


「うっ……」


『子づくりのために必要最低限の接触のみ』

契約書を見せた意味はなかったのか。彼はそれを守る気はなさそうだ。

それ以前に、今日、閨事を行っても妊娠する可能性は少ない。


触れるのが苦手だと彼は言っていた。記憶が戻ったのならわかるけど、そうじゃないだろう。以前のウィルではない。彼はこんなキスはしなかった。


「やめっ……!」


言葉にならない声は、彼の唇に吸い取られてしまう。

噛み付くようなキスが私の思考を奪っていった。

喋るなとでも言っているかのような激しいキス。


「ウィル!……ちょっと、まって」


息が上がり、私の頬はいつのまにか上気して赤く染まっていた。


「待てない……」


その言葉と同時に襲ってきた甘い刺激に吐息がこぼれる。


私の首すじを優しく手でなぞり、それに反応してビクンと身体が跳ねてしまう。ウィルは嬉しそうにさらに手を下へ伸ばした。


前とは違う。


ついばむようなキスではない。

何かをするたびに「いい?」「大丈夫?」と聞いてくれない。

私に確認しながら優しく愛撫してくれた、あの時のウィルではなかった。


脳に酸素が行かずに頭がクラクラしてくる。

溺れるようなキスに、何も考えられなくなった私は、諦めたように抵抗するのをやめた。



「以前と同じようにはできない。だから、新しい私も受け入れてくれ……」


苦しそうに言いながら彼は片手で衣服を脱いでいく。


合間に激しいキスで唇を塞がれて、溺れてしまいそうだ。

こんなにも激しい彼を知らない。


「……ウィル……」


甘くて激しい夜は、それから一時間ほど続いた。

 




ウィルの胸に頭を乗せると、彼の手が頭に回って髪を優しく撫でる。

その温もりと優しさを噛み締めていると、また涙が溢れだした。



不意に「ステラ」と呼ばれて顔を上げた。


「悲しいのか……嫌だったのか?」



私は頭を振って、いいえ、嬉しいのですと彼に伝えた。

顔を上げた私に、彼の囁くような吐息がかかり、直後に唇が塞がれた。


「ウィル……もう、無理で……」


「それに対する文句は後で、じっくりと聞こう」


彼は小さく笑って、私を開放してくれなかった。



そして、意識を手放してしまいそうなほどの甘さで、ウィルは全身で私を愛してくれた。







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