第12話ソフィアのアパルトマン
コースレッドから連れてきた侍女のサリーと、王都に住んでいるソフィアを訪ねた。
彼女は事情がありここボルナットに移住してきた私の親友だ。
ソフィアはメイドのミラと共にボルナットで暮らしている。
「ステラ様、ソフィア様とお会いになるのは二ヶ月ぶりですね。王宮のお菓子も持って来ましたから、一緒に頂きましょうね」
宮殿では話せない内容はソフィアの家でするようになっていた。
どこで誰が聞いているのか分からない宮殿は、サリーにとっても未だに敵の陣営なのだろう。
挨拶をすませて、テーブルを挟んで席に着いた。
メイドのミラがお茶の用意をしてくれて、サリーもお菓子をお皿に盛りつける手伝いをした。
久しぶりの女子会の始まりだ。
「側妃を迎えられる話が進んでいます」
開口一番、私が発した言葉に皆が固まった。
以前からその噂はまことしやかに囁かれていたものだったが、確定するだろう。
私はここへ来てからソフィアとミラにその事実を告げた。
二人は衝撃を受けているようだった。
私もショックだった。けれど、覚悟はしていた。
「まぁ、なんてことなの!それは決定事項なの?」
ソフィアは驚いている。
「ウィリアム殿下は、この国の国王になられる方です。側妃はいて当たり前。それは結婚する前から分かっていたことだったわ」
子に恵まれたとしても、なにかあった時の為に王族が側妃を持つのは普通のことだ。
「確か、現国王も側妃様が三人いらしたわね。ステラ様はそれでもかまわないのですか?」
「まだ新婚ですよね?一年も経っていない。なのに……側妃だなんて」
ミラがナプキンを握りしめた。
「ステラ様とウィリアム様は愛し合ってらっしゃいます。それはもう、宮殿でも誰もが知る事実ですわ。側妃の件はまだ噂の段階です」
サリーは噂だと言うが、もう決定している。その証拠に、ウィリアム殿下が私に会いに来ない。
「ソフィア、サリー。彼はこの国の王になられる方です。私が身ごもらない以上、側妃を考えられるのは当たり前でしょう。私はできるだけ、側妃の方と仲良く過ごしていけるよう努力するしかないわ」
「王室だから、慣習に従わなくてはならないのね。ステラ様、けれど時期が早すぎると思いますわ。いったい誰がそんなことを言い出したのかしら?政治的な事情が絡んでいるでしょうね」
「そうね。誰しも王族と近い位置に居たいと思うのは当たり前でしょう。婚姻は政治だからね」
「宰相様のお嬢様でしょうか?それとも大臣の誰か、公爵家にも若い令嬢がいたはずですね。けれど殿下がステラ様を寵愛されているのは周知の事実ですからなんだか悔しいです」
サリーは誰が側妃候補なのか考えている。
誰が側妃なるのかは分かっていない。
「噂はいろいろあるけれど、箝口令が敷かれているのか特定できないわね」
「ウィリアム様とはその話をしていないのね?」
「していないわ。どなたが側妃になられようとも、私が正妃であるのには変わらない。ただ、決定して告げられるときに、あまり驚きたくはないの。だから貴方たちにも、そうなることを先に知っておいて欲しいと思ったわ」
三人は悲しそうな顔をした。ミラは目頭を押さえている。
「今までは避けていた話だけど、聞かせてもらいます」
居住まいを正して、ソフィアが話し出した。
「コースレッドの王妃様は三人の御子に恵まれました。出自は公爵家で、母方の祖母は子だくさんの家系なはず。ウィリアム殿下もご兄弟がいらっしゃいます。ステラ様の血筋は不妊の家系ではない。そして医師にも健康体で問題なく妊娠できると言われている。殿下との閨は順調でしょうか?」
「殿下とは結婚してから、妊娠しやすい周期に必ず閨を共にします。回数も多分、多いと思う」
「ストレスはあるでしょうけど、月のものの周期が乱れているとか、大きな病気をしたとかもないですか?」
「ええ。何もないわ」
「外的要因は考えられないでしょうか?例えばステラ様が身ごもらないように誰かが邪魔をしているとか」
ごめんなさい。不安にさせるつもりはないのです。とソフィアは謝りながら訊いてくる。
「誰かに恨まれているとは思わないのだけど」
「最初の頃は、ステラ様を嫌っている人も王宮にはいましたけど、今は誰もがステラ様を、王太子妃として認めていらっしゃいます。何より、ウィリアム殿下が、ステラ様を溺愛していますから」
サリーも思っていることを正直に話してくれる。
「変わった食べ物とか、変なお薬とか飲んでないですよね?」
「普通においしく頂いてます。王室の料理人は体に良いものを出してくれるわ。子どもができやすいお茶も毎日飲んでいるし」
「そうなのね……」
「子どもができやすいお茶を毎日飲んでるのに子供ができないんですから、子どもができにくいお茶なんじゃないですか?」
「……え?」
「ミラ、失礼よ」
ソフィアのメイドのミラは、思ったことをそのまま口にする。
「子ができやすいお茶って、王宮の薬師か料理人が作っているものよね?」
「いいえ……」
「ステラ様、誰が入れているお茶なんですか?私はそれを知りませんし、聞いていません」
サリーが焦った様子で私に訊いてくる。
「それは……秘書のナージャ……」
「ナージャ様ですか?」
ええ、と頷いた。
ナージャは私のことを一番に考えてくれている。
宮殿の中でも味方になってくれる有能な側近だ。
「彼女が王室の未来を邪魔するはずはないわ。なによりウィリアムのことを思って行動している者なのだから、ウィルが悲しむようなことはしないと思う」
「ステラ様。そうなのかもしれないけれど、用心に越したことはないと思うの。そのお茶を飲むのは少し控えたらどうかしら」
まさか彼女が?
そんなはずはないと首を振った。
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