第11話御子を授からない


今月もまた月のものがきてしまった。

御子を授からないまま、時間だけが過ぎていった。



「ナージャ。いつもありがとう。私のために環境を整えてくれていることに感謝するわ。期待に応えられなくて心苦しいわ」


ナージャはいつものように『子ができやすくなるお茶』をいれてくれていた。


「ステラ様が殿下とご結婚されてから、王室の雰囲気も変わりました。殿下は穏やかになられました。ステラ様のおかげです。お子を授からないと気に病むことはありません。まだ一年も経っていませんでしょう。急ぐことはないと思います」


ナージャは落ち着いた様子で慰めてくれた。


「何年も経ってからお子を授かる方もいらっしゃる。けれど、ずっと身ごもらないことだってあるわよね」


「ステラ様がこの国にいらしてから、大きな災害や、戦争もなく平和な状態が続いています。国は豊かになりましたし、民は幸せです。お世継ぎのことはゆっくりでいいでしょう。殿下の寵愛を受け、今では政務のお仕事も手伝ってらっしゃいます」


その時入り口から声が聞こえた。


「そうだステラ。私の仕事が以前に比べて三割も減った。ステラが手伝ってくれているからだ」


ウィリアムが朝食を摂っている私のもとへ歩いてくる。

そして微笑んで私の手を取りキスをした。


「ウィル。今日は朝から会議だと聞いていたけれど、どうしたの?」


「朝の会議がなくなったから少し時間が空いたんだ。だからステラの様子を見に来た」


朝日を浴びて、スッキリとした表情のウィルはとてもかっこいい。

王太子という立場で重責を担っていたがために、いつも硬い表情で眉間にしわを寄せていた彼だったが、最近はとても優しい顔になってきた。


「今日は王都の孤児院に行くと言っていたね?」


「ええ。久しぶりにソフィアにも会いに行こうと思っているの」


ソフィアは、祖国コースレッドで一緒に慈善活動をしていた友人だ。

彼女は一人で子供を産み、育てようとしている妊婦だった。いろんな事情はあるが、夫と離婚して今はボルナットに住んでいる。私が知る中で、信頼できる最も強い女性だ。



「私からもよろしく言っていたと彼女に伝えて欲しい」


「ええ。伝えておきますわ」


ウィルは私の向かい側の席に座って、飲んでいたお茶に目を留めた。



「変わった香りのするお茶だね?」


「ナージャが私の為に取り寄せてくれたお茶です。女性の体内の気を高めるらしく、体に良いようです」


彼はポットに手を伸ばして、自分も飲んでみたいと言った。


「殿下、それは女性の飲み物ですので、ウィリアム様には他のものを用意しますわ」


ナージャが慌てて新しいお茶の用意をするよう侍女に言いつけた。

妊娠しやすいというお茶は、男性に不向きな飲み物なのだろう。

子づくりのためのお茶だと知られるのが恥ずかしかったので、ナージャの機転に感謝した。



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