第7話初夜再び
朝になり、予定の確認にナージャが私のところへ来た。
あれから時間が経って、今日が初夜のやり直しの日だった。
「今日は王太子殿下と寝室を共にされるご予定ですが……」
ナージャは今日の初夜が心配なのか、疲労感漂う私の体調を気にかけてくれた。
「大丈夫よ。問題ないわ」
「ご無理なさらないよう」
ありがとうと彼女に言った。
二人の取り決めをして以来、彼と顔を合わせていなかった。
殿下は公務が忙しくて、ステラ様に会いに来られないのです、とナージャに説明された。
忙しくなくても彼は来なかっただろうと思った。
ナージャと一緒にいて、彼女がかなりの王室びいきだということがわかった。
国王に仕えているのだから当たり前だけど、それにしてもウィリアム殿下を褒め過ぎる。
容姿が整っていて、誰よりも高貴で美しい王族だとか、歴代の王太子の中でも頭脳明晰で天才だとか。
確かに、ウィルは見目は麗しく、さすが王族というカリスマ性がある。仕事熱心だし公務もしっかりとこなしている。
けれど、容姿端麗でも心の温かさはないだろう。
そして、国民の為だとはいえ、身を削り働き過ぎている。
そこまで必死に仕事ばかりしていると、いつか自分が潰れてしまう。
側近に任せたり、どこかで手を抜いたりして、彼にも息抜きが必要なはずだ。
「ナージャはウィリアム殿下とかなり親しいのかしら?」
突然の質問に、彼女は驚いたように顔を赤くした。
「親しいなんて……ただ仲が良いだけですわ。私と殿下は産まれた時期が同じでしたので、私の母が殿下の乳母をしておりました。ですから、私は殿下の幼なじみみたいな感じでしょうか……とても光栄に思っています」
なるほど、母親が殿下の授乳を受け持っていたのね。
「兄妹のような存在なのね」
「畏れ多いことですが、そうでございます。わたしは学園での成績が良かったので、そのまま王宮に出仕する形になっています。秘書として殿下のお傍にいた時期もございました」
そういう経緯でナージャは私の担当をしているのねと納得した。
「ウィリアム殿下のことで分からないことがあったら、ナージャに訊ねればいいのね」
「そうですね。ほとんど公務ばかりでお忙しいので、お伝え出来ることはあまり……けれど、ステラ様のをよろしく頼むとおっしゃいました」
要は秘書に丸投げしたってことね。
「ありがとう。これからもよろしくお願いするわね」
私は淑女らしく微笑んだ。
◇
食事を済ませて湯浴みをし、侍女たちに、いつもよりも丁寧に肌の手入れをしてもらった。
レースに縁どられた美しい夜着に着替え、夫であるウィリアムを寝室で待つ。
結婚式を挙げた日だったら、勢いのまま済ませてしまえたのに、間が空いた分緊張してしまう。
5人は眠れそうなほど広いベッド。
シーツはピンと張られ、真新しい寝具は最高級品だろう。
ほのかにジャスミンのような濃厚で存在感のある甘い香りが部屋の中に漂う。
寝室の雰囲気づくりはナージャが担当してくれたのかもしれない。
彼女はいろんなことに気がまわり、先を読んで行動をしてくれる有能な側近だ。
ナージャのような女性が殿下の妃だったら、もっと夫婦関係も上手くいってたかもしれないわねと感じずにはいられなかった。
ウィルが夜遅くに夫婦の寝室に入ってきた。
湯あみを済ませ夜着に着替えて上からガウンを羽織っていた。
待たせたなと挨拶された。
「今まで忙しくて、なかなか時間が取れなかった。だが君の様子は側近から聞いている」
一応、彼が会いに来なかったことを詫びているのは分かった。
「お気になさらず。お仕事お疲れ様です」
「では……準備は良いか」
この人の、時を移さずことに及ぼうとする早速感。
やっぱり、変わっていない。
ある意味、潔いのかもしれない。
「どうぞ」
余計な話は必要ないわね。
期待するだけ無駄だと考えを改め、私もベッドに横になった。
もう服なんか脱がなくても良くない?
ムードもへったくれもないんだから。
下だけ脱げばことは足りるだろう。
けれどウィルは丁寧に私の服を脱がせていく。
明日からは、もう先に服を脱いでおいた方が時短になると思った。
「たぶん痛いと思うけど、最初だけだから」
私は返事をせず、ただ頷いた。
恐怖心をあおる言葉はやめて欲しかった。
閨の教育は受けている。
覚悟はしているから、できるだけ短い時間でことを終えて欲しい。
長い苦痛には耐えられそうにない。
目を閉じて歯を食いしばった。
後はウィルに任せるしかなかった。
時折『大丈夫?』と声が掛けられたが、必死だったせいか何も言葉を返せなかった。
私は意識を逸らすため、他のことを考えて、ずっと目を閉じていた。
そして、彼はなんとかことを成し遂げた。
終わった時点で疲れ切って、そのまま私は眠ってしまった。
朝が来た時には、隣に彼の姿はなかった。
閨の仕事を終え、すぐに寝室を出て行ったのだろう。
寝起きの姿を見られなくてよかった。
最初こそぎこちなかったが、そのうちなんとなく要領を掴むと、製品を作る工程のように閨は行われた。
ウィリアムは必要最低限の接触しかしなかった。
抱きしめる訳でもなく、キスもしなかった。
子どもさえできればいい、ただの杭打ち作業のようだった。
人はなぜこの行為を好んでするのか分からない。
世の中には浮気や、不倫、それを専門にした商売まである。
閨事は快楽を伴うというが、それは多分、男性だけが得る感覚なのだろうと思った。
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