コーヒー

後輩が持ってきた缶コーヒーがおかしいのだという。

先輩、これはおかしいですよ。と言いながらウキウキで持ってきたその缶コーヒーは、何処にも見ないラベルをしていた。

賞味期限の記載もなく、見たこともない缶コーヒーは、メーカーすらなかった。

何を押したのか、と言えば普通にそこら辺で売ってる缶コーヒーを買ったのだという。

ラベルには「上質な旨味」と「気高き香り」という文字が入っており、タイトル的な物は特に無かった。

当然、調べてもこんなコーヒーは出ない。

私は最初、「捨てなさい」と言ったのだが後輩はどうしても中身が見たいとのこと。

しかしながら後輩はいわゆるビビりなので1人で開けることができない。

結局会社の給湯室で2人して開けることになったのだ。


まず振ってみると、その音はちゃぽんという、液体物の音がしたのだが

どことなく粘度が高い気がした。

指ではじいてみても中の物質が揺れるだけ。

奇妙に感じた私たちは、とりあえずそこら辺にあった紙コップに注ぐことにした。

かちゃ、という小気味よい音をして開けられたそれは、ゆっくりと紙コップに注がれていく。


「黒いですね」

「黒いね」


コーヒーは黒いのだが、コーヒー自体は黒くなく、煮汁自体は少し茶色を帯びているのが普通だが。

その物質は本当の「黒」だった。

底なしの黒に怯えている後輩を他所に、私は割り箸を突き入れてあげてみる。

結果、ついてくる気配はない。

サラサラとした液体だということが分かる。

香りは……

「気高き香りと言ったが普通のコーヒーと何ら変わりがない」

そこら辺のコーヒーとほとんど一緒だ。

墨汁からコーヒーの香りが漂っていると思えばいい。

最後に味だが、私はどうも飲む気になれなかったし、得体のしれないものを後輩が飲むのも嫌だった。

30分ほど、匂いと色で格闘をしていたが、好奇心はあれど体内の危険性を考えるとあまり推奨したくなかったので、破棄を行った。

そのまま捨てるのもなんだか嫌だったので、ビニールに包んで捨てたのだ。


結局それ以降何もなかった。

奇妙なコーヒーだったが、それ以上でもそれ以下でもなかった。

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