令和の闇市

昨今、インターネットではフリーマーケット形式での取引が流行っている。

今や日本人口の5割以上は利用しているであろう。

私もそのユーザーの1人であり、気になる書籍や販売し始めたばかりだろうと思われる品々を眺めている。

決して購入などはしない。

しかし、その中で一つだけとても気になるものがあった。


【開運グッズ】だ。

値段はなんと1万円。


商品に関して見て見れば、どれもこれも胡散臭いものばかりだ。

子供じみた五芒星や、謎の文言が書かれている。達筆とは言えないほどに。

商品メッセージに関しては以下の通り。


こんにちは、A(これはどちらかというとお坊さんのような名前)と申します。

かつて〇〇協会にて鑑定師をしており、様々な方々への開運を行っています。

実績の程については下記となります。

(個人名が入っているので以下略)

当品物は〇〇神社より力を分けてもらった紙に対し、私自身が念を入れて記入いたします。

気になるあの人、受験戦争なんかに役立てられたら幸いです。

貴方の素晴らしき人生が花開きますように。


※こちららはオーダーとなりますので、コメントをお願いいたします。



眉唾物の怪しい文面がたくさん入っている。

そもそも〇〇協会などというのは知らなかったので、調べてみるとどうやら占い師、霊媒師の集まりのようだった。

〇〇神社に関しては有名な神社なのだが、その神社が個人に対して霊力のあることを行うとは到底思えない。

Aの評価を見てみると、評価は凡そ3.5といったものだった。

悪い評価に関しては

「開運しなかった」

「思っていたのと違う」

「詐欺!お金返して!」

と言った言葉が羅列されていた。

まあ、当然だろう。

どう考えてもこういった類の開運は金を払って行うのは詐欺の一派だということがわかる。

しかし、Aの評価は3.5。当然「良い評価」もあったのだ。

良い評価をさっと見てみると

「うまくいきました」

「思った通りでした」

「ありがとうございます。受験に勝ちました」

などと言った言葉があり、やはりイワシの頭も信心か…と思った。


そうなると、人間不思議と「奇妙」なことに、興味がわくのだ。

購入してみたい、本当にそうなのか、という気持ちが沸き上がる。

絶対に金の無駄だとわかっていても好奇心には抗えず、私はその怪しい商品にコメントを行った。


「はじめまして、こちら購入したいのですがよろしいでしょうか?」


返事は1日後に帰って来た。


「はじめまして、ご希望ありがとうございます。

 誠に申し訳ございません、当商品は評価0の方にはお売りすることが出来ません」


この返答に驚いた。

Aという存在は、ただ金儲けのためにこれを行っているわけではなかったのだ。

評価が0の人というのは、一度も取引をしたことが無い人の事を指す。

私は見ているだけだったので購入も販売もしたことがなかったのだ。

普通、詐欺をするならば評価0の人にも快く販売をしてくれるはずだがAは違った。

そうなると、更に興味がわいた。

とはいえ、このインターネット闇市の中から物を買う気にはなれなかったので、私はSNSでこの商品を買った人を探してみた。

すると、1人の女性が名乗りを上げた。

半年と少し前にこの商品を購入した彼女は、鼻息荒く(ただし文面である)私に返答してくれたのだ。

以下、SNSにあるメッセージ機能のやり取りになる。



                初めまして、この度はありがとうございました。

             早速ですが、商品についてご質問よろしいでしょうか?


もちろんです!

この商品はすごいですよ!


              具体的に、すごいとはどういうことなのでしょうか?

      素人目で申し訳ございませんが、子どもの落書きのようにしか見えず…


私も半信半疑でした

ですがこれを買うキッカケになったのは友人からの口コミで


私一人息子がいるんですがどうしても頭の出来が良くなくて

でもどうしてもこの子をいいところに行かせたくて

色んな塾に通わせたんです


ですが全く伸びずに結果も出なくて希望校に関してはほぼ望み薄

それから良い塾に通わせていたんですけど先生たちからは

諦めた方が良いと言われまくってて…


もう11月で追い込み季節だったころに友人がこの開運グッズを教えてくれました

私も最初嘘だって思ったんですが聞けば聞くほど効力があるらしく

友人の子どももこの開運グッズのおかげで希望校に合格したんです!


           それはすごいですね、学業に対してお願いをしたんですか?


違くて私は希望校に行けますようにってお願いしたんです

そしたら受験当日に色んな子が体調不良に陥って

定員割れでしたが無事行けることになりました!

私も最初半信半疑でしたが学校側からそのような申し出が出たみたいで

私はもう嬉しくて嬉しくて


                   なるほど、それはおめでとうございます。

                お子さんは学校を楽しんでいらっしゃいますか?


どうでしょう?あんまり学校のことは話さないので…

テストの成績はあんまりよくないんですけど

行ったという事実があれば今後も上手くいきますので


やっぱりあの神社が効力あるんですよ!


                                あの神社が?

         〇〇神社って確かに開運の神様がいて、〇〇区では有名ですが…


あ、〇〇区じゃないんです

〇〇県にある同じ名前の神社があるんですけど

そこから力をもらっているみたいです!


                       それは存じておりませんでした。

          この度はありがとうございました、お子さんと共に良い日々を

                              お過ごしください


ありがとうございます!




開運。

それは運が開けるということだ。

どんな形であれ、自分たちに対して高利益の結果があればそれは開運になり得るのだろう。

私はこの人との会話を切ったあと、直ぐに〇〇県の〇〇神社について調べた。

公式サイトもない、ただの噂サイトに辿りついた。

そこに書かれていたのは「恨み神社」という別名だった。

この神社の敷地には多数の杉の木があるが、それらすべてに五寸釘の跡がある。

また、神社の周りは高い塀でおおわれており、夜には入り口が閉まる。

簡素に出来た門には鈴がつけられている。

しかし、その入り口は防犯のためではなく、単に恨みを持つ者たちが合わない為である。

噂サイトの画像になるが、入り口がこれまたまた奇妙だった。

夜に来るとまるで家に招き入れられるかのようにサンダルが置かれている。

それも1足だけだ。

別日に来ればそのサンダルはなく、誰かが中に入ったであろうハイヒールが手前に置かれている。

こうすることで、誰かが呪いを行っていても誰も合うこと無く呪いの完遂が行えるという、とても丁寧な仕組みらしい。

これを知らずに入ってくれば鈴の音が響き渡り、誰かがやってくることを察せる。

ここまで来れば、この神社の御利益が「自分のため」ではなく「相手に行う」ことであるのがわかるだろう。

〇〇神社は誰かへの恨み妬み復讐を願う場所である。


もはや呪いだ。


この神社から力をもらい、人々に呪いを振りまく人がいる。

しかし、現代では呪いは犯罪にならない。


あの女性も、自分の子の受験と人の子を天秤にかけてしまい、この呪いを買ったのだろう。

しかし、本当に呪われているのは誰なのか。

話を聞いて分かったのは、子どもは全く学校になじめておらず、テストの点数も芳しくなく、更に勉強についていけてない印象を持つ。

母親はそれに気づいていない。

呪いの呪詛返しとはよく言った物だろう。


全部ひっくるめて、私は「買わなくてよかったな」と思い、再び自分の趣味趣向にあった物を眺めるだけのフリーマーケット巡りに戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る