この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには劣等があった。

 この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには劣等があった。


 僕はいつでも、どんな時にも誰かに負けていた。

 顔も、頭も、運動神経も悪くないはずである。

 それでも、どんな時にでも、僕より上のやつがいた。


 僕は自分がハイスペックだと自負しているが、それでも僕より上のやつがいることに怒りすら感じていた。


 そして僕は、自分を劣等生だと思い込んでしまうようになったのだ。





 そんな僕にも友達ができた。

 そいつは、運動も勉強もてんでダメで、僕が話しかけなければ友達すらできなかったであろう、そんなやつだった。


 そいつは、事あるごとに僕のことを褒めた。

 僕は、劣等感からその褒め言葉を受け入れることができず、毎回それを笑い飛ばすことしかできなかった。


 そんなそいつにも、特技というものがあった。

 テーブルクロス引きが、とんでもなく上手いのである。


 その特技について知ったのはそいつの家に初めて遊びに行った時だった。

 そいつは僕にテーブルクロス引きを披露して、こう言った。


「えへへ、僕もテーブルクロス引きなら誰かに勝てるんだ。でも、他のことで色んな人に勝てているきみが羨ましいよ」


 僕は、気付いた。

 今まで上しか見ていなかったことに。

 僕に負けている人間も沢山いることに。

 そして、僕は劣等生なんかじゃないってことに。


 結局そいつは、勉強もスポーツもできるようになって、人気者になってしまったけれど。

 僕を追い越していってしまったけれど。

 それでも、僕はそいつに感謝している。


 そして、僕は今日も、誰かに負けて、誰かに勝っている。

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