この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには空想があった。

 この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには空想があった。


 俺はマジシャン。

 魔法のような体験を届ける、誇り高き魔術師だ。


 そうだな、どうして俺が魔術師をやっているのかについて語ろうじゃないか。


 最初に出会ったのはサーカスだった。

 きらびやかなショウ、不思議な技の数々。

 そこで出会ったマジシャンに、俺は魅せられたのさ。

 幼い頃から本の世界にのめり込み、ファンタジーを夢見ていた俺が、のめり込まないわけがなかった。


 マジシャンをやっていれば、いつか本物のファンタジーに出会えると信じて、技を磨き続けたさ。


 そして、俺は出会ったんだ。





 マジシャンが技を競い合う、そんな大会があるのを知っているかな?

 大規模な世界大会から個人開催の小さなものまで、色々な大会が乱立している。

 これは、その中では小規模な方の、とある大会に参加した時の話だ。


 楽屋でマジックの練習やら、小道具の準備やらをしている最中、俺は出会った。

 そいつは、明らかに他のマジシャンよりも上手くて、不思議な雰囲気を纏っていた。

 まさに、魔術師といった感じだったね。


 俺は気になって話しかけてみた。


「どうも……すごいですね、タネの隠し方と視線誘導が素晴らしく上手い」


「はは、そんなに褒めるな青年。私は君の求めるファンタジーとは程遠い存在だよ」


「おっと、なんでわかるのかと言いたそうな顔をしているね。目を見ればわかるのさ、君は私と同じだと。ファンタジーを求めていると」


「先輩として、一言忠告をしておこう。ファンタジーに出会うことに固執してはならない。君はどうしてマジシャンになったかね? きっと、魔術師に魅せられたのだろう?」


「マジシャンというだけなら、面白い手品を披露していればいいだろう。でも、魔術師は違う。のが魔術師だ」


「さて、これだけ言えばわかったかな? 君がどうするべきか」


 そう言って、その魔術師はどこかへと去っていった。


 その日、僕はファンタジーを追いかけるのを辞めた。

 でも、決して諦めたわけじゃない。


 ただ、子供たちが夢を見れるように。

 俺は、魔法のような体験を届ける。

 そんな、誇り高き魔術師なのさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る