この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには〇〇があった。

文字を打つ軟体動物

この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには奇跡があった。

 この世界は現実で、ファンタジーなんてなくて、ただ、そこには奇跡があった。


 私はどうやら、奇跡というものに愛されているらしい。


 逆子だったり、分娩に時間がかかって難産だったり。

 産声が上がらなかったり、赤ん坊のころから風邪になったり。

 小さい頃からアレルギーに溢れていて、食べさせられるものが極端に少なかったり。


 とにかく、小さい頃からずっと、死にかけていた。

 そして、私はどれだけ死にかけても、すんでのところで、奇跡的に生き残ってきたのだ。


 事故にあったり、遭難したり、誘拐されたり。

 そんな碌でもない目に幾度も会って尚生き残る私を、いつしか周りの人達は奇跡の子だなんて呼ぶようになっていた。


 どんな不運に見舞われても、苦しくても怖くても、私は生き残ってしまう。

 この不運と奇跡に対する負の感情は、私の中でどんどん肥大化していった。


 しかし、それでも。

 私はこの奇跡を愛せずにいた。





 これは私が旅行中に、無人島に漂着した時の話だ。

 他にも3人が流されていて、私達は一緒に無人島脱出のために協力することになった。


 私はそのうちの1人、同年代の女の子と仲良くなった。

 同性が彼女しかいなかったのもあって、私達はまるで竹馬の友かのように語り合った。


 そして1日目の夜、全員がなかなか眠りにつけなかったため、自己紹介も兼ねてそれぞれ自分自身の話をすることになった。


 国境なき医師団に所属する男性が語る戦場の恐怖、アイドルのマネージャーが語る芸能界の闇、一般JKの語る流行りのコスメ。

 そして、ついに私の番がやって来た。


 私は自分の不運と奇跡について、そしてその奇跡を愛せない苦しみについて語った。


 空気は凍りつき、私に厳しい目が向けられる。

 この状況の原因かもしれないのだから、当然のことだ。


 その中、彼女は言った。


「ラッキーガールとアンラッキーガールを兼ねてるなんて、絶対に面白いじゃん!」


「面白い……? 苦しいだけだよ、こんなの」


「だってさ、普通はできない経験ができるじゃん! それで、毎回生き残れる。苦しいのは、ただ楽しもうとしていないだけなんじゃないの?」


 その言葉は、私の認識を覆すのに十分だった。

 同年代の女の子の何気ない一言によって、私は救われて……変わった。


 私は、自分の奇跡を、愛せるようになったのだ。


 無人島から生きて帰って、彼女と親友になったのはまた別のお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る