4 火
火を焚いていた。
昼間なのに何故か、火を焚いた。
煙が上がっては、風にさらわれてどこかへ飛んでいく。
立ち上がり、その煙の行方を目で追った。
無論、少しすれば煙は姿を消した。
煙が消えた後も暫く同じ方角を見つめ続ける。
自分は孤独だった。
春にしては風の吹きつける寒い日だったので体は冷え切っていた。火にあたっても暖かい心地はしなかったが。
独り、歌を歌った。リズムは滅茶苦茶で音程は外れていた。
昔、誰かに教えてもらった童謡だった。
「夕焼けの中、鴉が一匹飛んでいく」確か、そんな歌詞だっただろうか?
一匹の鴉は飛び立つとき、何を想ったのだろう。
走り出した彼の髪が靡いていくのを、私は見た。
彼は確かに、そこに存在していた。
今は、森の何処かで、私と同じ様に焚火でもしているのだろうか。
悲しく一人、歌でも歌っているのだろうか。
いや、もうとっくに自ら命を絶ったのかもしれない。
だとしたら、私はどう生きればいいのだろう。
ここから先、どう生きていけば。
すべてを失ってしまった
「またいつかここで」この約束が果たされる日は、来ない。
きっとそうだ。私はもう彼に会う事はないし、彼も私に会う事は無い。
気が付けば、火は消えていた。
涙さえも出なくなった目で、灰をじっと見つめた。
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