第一章⑥
***
日が落ちた
アダムとソーンの宿舎は、ほかの騎士たちが生活する宿舎とは分けられている。二人で生活するには十分な広さで使用人もいるため、不便なことは一つもない。帰ってきたことが物音でわかったのか、ソーンはすぐに階段を下りてきて
「兄様! 今日は夜番だったのではないのですか?」
「交代してもらった。夕食を作ってやる」
アダムが扉を閉めながら買ってきた肉や野菜を見せると、ソーンの
「わぁ! 僕も手伝います。兄様の手料理、久しぶりですね!」
夜、アダムはできた料理を食堂に運び、ソーンと
「あまり急いで食べると、
「すごくおいしくって。お
ソーンは
「そうだ、兄様。僕、明日は聖歌連隊の歌の練習があるんです」
「礼拝の日か。できれば送ってやりたいが……」
「
ヴィーセリツァは、
「そうか。聖歌連隊の練習はどうだ?」
「楽しいです。あっ、でも……まだ、慣れないことも多くて」
ソーンが聖歌連隊に入ったのは数ヶ月前のことだ。礼拝の時、聖歌連隊の子どもたちが歌っているのを見て歌いたそうにしていたから、ジェニトに相談し、女王陛下の許しを得て参加させてみることにした。
ジェニトも、王宮の庭園や図書室にこもってばかりいるソーンのことを、以前から心配していた。聖歌連隊にはソーンと同じ
「
「嫌というわけじゃありません。まだ友達はできないけど、司祭様もシスターも
目を輝かせるソーンを見て、「そうか」とアダムは
(小さい頃は、いつも俺の後ろに
王宮に上がった頃は他の騎士たちが
アダムはゆっくりと自分を成長させる時間なんてなかった。王宮に上がる前も、騎士見習いになった時も、戦場に
結果として、騎士団長という立場になれたのだが、同じような苦労をソーンにさせたいとは思わない。ソーンはゆっくり学んで、色々なことを習得していけばいい。
「生誕祭の日は、
「いや、今年は出ないつもりだ。女王陛下の警護があるからな」
「それはちょっと残念です。兄様の試合が
たっぷりバターと
「聖歌連隊の歌は必ず見にいく。それくらいの時間なら取れるからな」
「本当ですか? じゃあ、もっと
「そのかわり、ちゃんと全部食べてからだ。よく
「はいっ!」
ソーンは急いでちぎったパンを口に押し込む。甘い蜂蜜とバターを塗ったパンはソーンの好物だ。ペロッと
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