第一章⑤
二
アダムは小走りに立ち去る弟の後ろ姿を目で追う。ここ最近、
ようやく時間が空いたため、庭園にいるソーンの様子を見にいくと、例の魔物が宿っていたリンゴの古木と
まったく、アカンティラドも
魔術の
生まれた時から、アダムは氷の
ソーンは体が弱く、熱を出して
王宮に上がる前、寝込んでいたソーンの病状が悪化した際、力を
女王イデアに保護されて王宮で暮らすようになってから、ソーンは魔術を学ぶようになった。ソーン自身の希望でもあったが、
「ソーンは、魔術師団に入るつもりなのか?」
ジェニトが紅茶のカップをゆっくりと
「魔術師団長になりたいとは、以前話していましたが……まだはっきりとは決めていないようです」
「目標がでかいところは、やっぱりお前の弟だな」
ジェニトは肩を揺らして笑ってから、「魔術の勉強は順調なのか?」ときいてきた。
「以前に比べたら、
「やっぱり、グラナートの
ジェニトは言葉を
割れた窓から、雪まじりの風が吹き込んでいて、
苦境にあった自分たち兄弟二人を救ってくれたのは、女王イデアだった。けれど、この国でのソーンの立場は
いつまたソーンの
アダムの顔をジッと見ていたジェニトが、グシャグシャと頭を撫でてくる。不意をつかれたものだから
「今日の夜番、代わってやるよ。今日はさっさと宿舎に戻って、
ジェニトはニカッと笑って立ち上がった。複雑な表情を
「まだ、目を通していない報告書があります。そういうわけにはいきません」
「お前は仕事を抱えすぎだ。少しは
ジェニトはヒラヒラと手を
(信頼か……)
王宮に上がる前は、自分と弟以外、
実際、そうだっただろう。戦場と同じだ。誰もが必死で、どんなことでもやる。そうしなければ、生きていけない場所だった。
今でも、心から人を信頼しているかと言えば、そうではないのかもしれない。ただ、協力の必要性や、結束が大事だということは理解している。それを教えてくれたのは、騎士見習いだった頃に指導してくれたジェニトでもある。
本当なら、
剣術においては騎士団でアダムの右に出る者はいない。だが、人の上に立ってまとめる役目は、自分に向いているとは思えない。それなのに、ジェニトは『お前なら、十分やれるさ』と、笑ってアダムの背中を
最初こそ反発していた騎士たちも、今ではアダムのことを認めてくれている。後から騎士団に入団した騎士たちは
寄せられる信頼がたまに重いと感じてしまうこともあるが、ここから
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