第一章③
リンゴの木の根が盛り上がり、歩くように近付いてきた。口のように幹が裂けると、風が巻き起こり、辺りの落ち葉がいっせいに
ソーンはあたふたしながら
「そいつは、古いリンゴの木に宿る
アカンティラドはいつの間にか、
「それでは、少しも安心できません。どうすれば!?」
起き上がったソーンは、
そのあいだも、「オオオオオ────!!」とリンゴの古木は空に向かって
「うわああっ!」
枝と枝が
「お前さんに
「僕はまだうまくこの魔導書を使いこなせませんっ!」
ソーンはあたふたしながら答える。
「コツなら先ほど教えてやっただろう。多少、
「アブローラ! スィーニィ!」
魔導書を開いて手をかざし、立て続けに短い詠唱を行うと、
「お師匠様、やっぱり僕にはまだ難しいですっ!」
「
(そうだ、こんなことじゃ、いつまで経っても兄様の足手まといにしかならないんだ)
目を閉じて、体内の
「オドを集中しますっ!
力強く唱えた
「やっ……やった!」
成功したことを
「お
木の上を見上げて報告すると、アカンティラドが「まだ終わっておらん。気を
振り向いた瞬間、
「カラドボルク!」
次の瞬間、耳に入ってきたのは落ち着いた声だ。目を開くと、ソーンの前には氷の魔剣を手にした兄のアダムが立っている。剣から繰り出された一撃で、リンゴの古木は
力が抜けたようにペタンと座ったソーンのそばに、赤く色づいた
「兄様……っ!」
「いつもの温室にいないから、
振り向いたアダムが、軽くかがんで手を差し出してきた。その手を借りて立ち上がったソーンは、服についている落ち葉を
「お師匠様に
「この程度の魔物を倒せないようでは、団長は務まらないからな」
アダムは氷の魔剣を軽く払う。剣が消えると、氷の
兄のアダムは
このセントグラード、いやこの国において、剣術で兄に
「それよりも……先生、ソーンにあまり無茶なことをさせないでください。まったく、目を離すとろくなことを教えない」
アダムは顔をしかめ、木の上から降りてきたアカンティラドを
「ソーンが噴水でお遊びをするのはもう
「教え子に怪我をさせるなんて、指導者失格では?」
「兄様、ありがとうございます。ごめんなさい。僕が無茶をしてしまったんです」
「
アダムは立ち上がると、しょげているソーンの頭をクシャクシャと
「もしかして、見ていたんですか?」
「弟の成長ぶりを見守っていただけだ」
「わしという天才魔術師が指導しているのに、成長しないわけがなかろう」
ローブの
「
「女王陛下ならば、とっくにご存じだとも。酒を飲むなと言われるくらいなら、王宮勤めなどやめたほうがマシさ。そうなれば、困るのはお前さんのほうではないかね? ソーンの師となれるような魔術師など、そう多くはおらんぞ」
アカンティラドは意地の悪い笑みをニヤッと浮かべていた。
「いかさま飲んだくれ魔術師……っ!」
「お前さんに魔術の
ムッとして
「師である自負があるのであれば、少しは尊敬できる態度を見せてください」
「面白味のないやつめ。ソーンよ、よいか。兄のように
「ソーン、
アダムはリンゴをソーンに
ソーンは
「これで、おいしいリンゴパイを焼いてもらいますね!」
「おおそうだ。忘れるところだったぞ。わしのリンゴ酒も仕込んでもらってきてくれ。最高の酒ができそうだ」
「余ったリンゴは、ジャムにしてもらおう。行くぞ、ソーン」
アダムはソーンの
「なんだ、ケチなやつめ」
不満そうな顔をするアカンティラドと、そっぽを向いているアダムを
「お師匠様、兄様がきっとおいしい紅茶をいれてくれますよ」
「酔っ払いにいれてやる紅茶なんてない。茶葉がもったいないからな」
「お前さんのいれた茶なんぞより、こいつのほうが百倍うまいさ」
アカンティラドは、ローブの中から
(お師匠様のあのローブ、どうなってるのかな?)
ソーンは不思議に思いながら、首を
アカンティラドの魔術に関する知識の深さは、国
「ソーンが噴水を凍らせられなかったから、今夜の酒代はお前さん持ちだぞ。アダムよ」
「人の名前を使って、酒場で酒代をツケるのはやめてください」
「授業料ではないか。なんなら、
アカンティラドは
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