第11話
*
優子との約束通り、篠原は「彼女います」宣言をした。
競技かるたの名人戦が行われた一月五日、篠原のカフェに彼女を呼んで皆に紹介したようだ。自分の彼女だとは明言しなかったものの、篠原の仕草や態度でその場にいた女子たちはそれとなく察したらしい。
名人戦が終わった翌週の月曜日、クラスでは様々な情報が錯綜していた。篠原の彼女がとんでもない美女だったとか、店の前で堂々とキスをしていたとか、北陸新幹線・芦原温泉駅の構内で人目を憚らず抱き合っていたとか、あれやこれやと真偽不確かな目撃情報が多数あり、女子たちの阿鼻叫喚が台風のように吹き荒れていた。
矢崎のことが気がかりではあったが、彼女は失恋からしっかりと立ち直ってA大学に無事合格したようだ。人気の女子アナになっていつか絶対に篠原を見返してやると、恋の痛手をバネに息巻いているようである。日本一のニュースキャスターになるまで、彼女には是非とも頑張ってもらいたいものだ。
篠原が彼女をカミングアウトしたことで、彼目当てに来店していた女子高生は多少減ったらしい。が、その後すぐに彼の父が夕方のニュース番組の料理コーナーを担当することになり、彼の甘いマスクが福井の女性たちのハートをがっちり掴んだ。更には彼の息子もカッコいいとかで、篠原の写真と動画がSNSでバズり、彼女がいてもいいから会ってみたい、もしかすればワンチャンあるかもしれないと、新規の若い女性客が店に押し寄せたそうだ。
結果よければすべてよし、ということで、悲しみに暮れるクラスの女子たちを尻目に、篠原はいつものようにマイペースな日常を過ごしていた。全く、イケメンというのは罪なものである。
まあ俺にはどうだっていい、関係のない話ではあるが。
春と秋の歌姫たち nishima-t @nishimori-y
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます