描き下ろしボイスドラマ特別編 エロ研究部(文芸同好会)どもの挽歌――囁け囁けナニ照れてんねんいっちょ耳からかましたらんかいオラッ早よせんかいウブなネンネやあらへんぞ(以下略★)

 いつもの部屋で読書していたすみれが、読み終えた本をパタンと閉じる。


「ふう……あれ、もうこんな時間? もうすぐ暗くなりそうですけど、ルナさんもカヲリさんも来てないなんて、珍しい日もありますね……」


「―――すみれちゃん」


「あ、噂をすればルナさん。……? あの、何だか雰囲気が……どうかしました?」


 いつもの賑やかさはりをひそめ、静かに入室したルナが――ゆっくりとすみれに歩み寄り、その左耳にささやきかける。


「すみれちゃん♡ どうしたの、もしかして寂しかった? アタシに会いたかったのかなぁ~? しょうがないニャア……♡」


「―――うひゃあっ!? ちょ、ルナさん、いきなり何をささやいて……!?」


「まあまあ、いーじゃんいーじゃん♡ そぉ~んなオカタイこと言わないでぇ~……楽しもうよ……♡ す・み・れ・ちゃ・ん♡」


「ひっ、ひややややっ……ちょ、耳元で、そんなっ……ムズムズするっ、耳がムズムズしますからぁ……!?」


 ルナの突然の蛮行ばんこうに、すみれは戸惑うしかない――と、今度はカヲリが入ってきて。


「あっ……か、カヲリさん! ルナさんが、その、急に変なことを……ん? あの、カヲリさんまで……何でゆっくり、近づいてきて――」


「――どうしたよ、すみれ♡ そんなあわてて、カワイイとこあんじゃねーか……ルナだけじゃなく、ウチの声も聴いてくれよ……♡」


「ひゃーっ!? なな、なんでカヲリさんまで……ちょ、待って待って、ハスキーな声で囁かれると、変なっ……変な気分になっちゃいますからぁ……!?」


「げっへっへ、ネーチャンなかなかの上玉やないか、たまらんでしかし……今夜、どや? ウブなネンネやあらへんぞオウ……♡」


「くっ、なんかもうオッサンだか山賊だか分かりませんが……失礼ながら、お似合いですねぇ……!」


「へへっ、よせやぁい……♡」


 確かに失礼だが、当のカヲリは満更まんざらでもない様子。満更でもあれよ。


 さて、左耳からはルナが、普段の賑やかさを抑えた、悪戯っぽい艶やかな美声で。

 右耳からはカヲリが、鼓膜を通して浸透してくるような、ハスキーボイスで。


 同時に囁かれ――何が何だか分からないすみれに、更なる入室者が――!


「う、うう、何なんですか、この状況~……はっ!? ふ……花子フローラさん?」


「………………」


 名を呼ばれても、にこりと上品な笑顔で返すだけ――そんな花子が、ゆっくりとすみれの後ろに陣取じんどって。


「うふふ♡ どうしましたの、マイ・ベストフレェンド……♡ お待ちかねの真打しんうち登場、わたくしが来ましたわよ……♡」


「く、くっそー予想できてた展開ですねぇ! いえ何でこんなことになってるかは全く分かりませんが、何でハナコさんまでこんなことを~!?」


「いえフローラですわ。ていうかさっき正しく呼んでくださってたのに、なにゆえ! いえ、これが抵抗……すみれさんのささやかな抵抗ということですわねっ……ウフフ、やるじゃありませんの……♡」


(言えないな……困惑して、ついポロっと出ちゃっただけとは……まあ前向きに解釈してくれてるようですし、黙秘もくひするとしましょうー……)


 すみれの心中しんちゅうを知るよしもなく、とにかく花子まで加わり、三人から同時に声で攻められるという不可思議な状況。


 が、更に更に――顧問教師・れいまでもが入室してきて――!


「……ひぇっ!? ま、まさか、ルナさん達だけならともかく……教師である、黎先生まで……じょ、冗談ですよね……?」


「……ふふふ、美嶋みしまぁ……♡」


「ひっ、ひえええっ……!?」


 どうやら、すみれの危惧きぐは正しいようで――真正面から黎は近づいていき。


 座るすみれの眼前がんぜんに、前かがみになって顔を近づけ、黎がつややかな唇を開くと。


拙者せっしゃ、今まさに御前ごぜんさんじますれば、斯様かようにしてささやき申し上げる次第しだい美嶋殿みしまどの耳孔じこうに送る声、わずかにも充足じゅうそくたせればさいわい至極しごくなり」


「一人だけ何やらおもむきが違う! 本当にどういうことなんですコレ!?」


殿との……天下をお取りくだされ……!」


「誰が殿とのですか誰が! 狙ってませんよ天下とか! 現代社会に一体なんの天下があるっていうんですか、もう~っ!」


 結果、前後左右から囁きかけられるという、珍妙な光景の中心で――さすがにえかねたすみれが、珍しく大きめに声を上げる。


「もう、もうもうっ……何なんですかみんなして、どう考えても裏で打ち合わせしてますよねっ!? 説明してください、説明を!」


「……フッフッフ……」


 すみれの抗議に、なぜかルナがもったいつけた笑い声を漏らし――説明するのは。


「これぞ、エロ研……ヤベッ黎ちゃん先生いるじゃんアブなッ。げほんげほん……最近のアツい流行はやりを研究する、文芸同好会の今日の活動――の追求よ――!」


「つ、つまりASMRとかボイスドラマとか、音声作品の話です? それはまあ、漠然ばくぜんとは分かりましたけど……それならそれで、先に言ってくださいよ。驚いちゃいましたし、私をターゲットにする必要も、ないと思うんですけど……」


「そこはほら、ビックリするかなって。そういうドキドキ感って、人生を味わい深くするスパイスじゃんね……★」


「良い風に言わないでくださいよ。そもそもドキドキっていうか、いきなりすぎてホラーでしかなかったんですよ、こちとら囲まれてましたし。しかも黎先生に至っては、一人だけ方向性が違い過ぎましたし、何だったんですか?」


 すみれが話を振ると、顧問教師・黎は、うやうやしく頷きながら答えた。


「ウム、それはだな、美嶋……江神えがみから聞いた話では、これが今の時代、非常に熱い〝こんてんつ〟(※横文字の発音に難アリ)と聞いてな。最先端さいせんたんの流行を追えば、若者の気持ちを学べるかと思ったわけだ。その結果、斯様かよう仕儀しぎ相成あいなったわけだが……どうだろう?」


「どう、っていうか、その……黎先生だけ何ていうか、寄席よせでも始めようかという雰囲気だったんですけど……」


「何と……あたし、落語や講談、好きだからな……そう褒められると、照れるぞ♡」


「褒めてはいないんですけど、う~ん……まあ黎先生が満足なら、いいか……」


 これ以上、深くツッコむまいと、すみれが決めていると。

 カヲリと花子が、ひそひそと対話する。


「おーし、今日はなかなか、エロ研究部らしい活動ができたなぁ~……ついでってワケじゃないけど、すみれにもドッキリ大成功! ってカンジだよな、花子ハナコ!」


「わたくしはフローラ。んでエロ研究部とか鬼河原おにがわら先生に聞かれたら、ぶっ飛ばされますわよ。あと別にエロだけが全てじゃねーですわ、今や音声作品とは一種の芸術の表現ですわよ。わたくしお嬢様の中のお嬢様、〝媚びとけチャンス〟あらば逃さず媚びますことよ。このフローラ、容赦ようしゃせんですわ」


「さすがだぜ、ハナコ……何だかんだノリのいい姿勢、オメーのエロ研究への姿勢に敬意を……」


 さて、内緒話をしているつもりだった二人――に、黎が背後から。


「オイおまえたち……? 何やらエロだのなんだのと聞こえた気がするのだが……聞き違いかな? 返答には……気をつけろよ……?」


「……ヒィンッ!? ちちちゃうんスよ黎先生、それは言葉のあやっつーか、若気の至りってーか……!?」

「じっ地獄耳すぎますわぁ……ちゃっちゃうんですわホント、ていうかわたくしは、肯定こうていとかはしてませんしぃ……!?」


「さーて、では二人とも、指導室に付いて来てもらおうか。

 思う存分に……し・ご・い・て♡ やるぞ♡」


「ギャーッス!? ここへ来て黎先生が囁きの可能性を見せてくるとは――!?」

「あ、あわわ……もうダメですわ、おしまいですわぁ……!」


 こうして、恐々きょうきょうとするカヲリと花子は、鬼のオーラをまとう黎に連行され。


 室内に残った二人の内、ルナが口を開くと。


「ありゃりゃ、なんだか大変なコトになっちゃったネ♪ これはアレだねアレ……トホホ、エロ研究なんてもうコリゴリだよ――」


「―――ル・ナ・さ・ん?」


「へ? ……ウッヒョーッ!? なっなになに、いきなり壁ドン!? あっもしかして、ちょいオコ? ゴメンゴメン、ただの冗談っていうか――」


 慌てて弁解するルナを、すみれは壁際に追いやったまま逃がさず。

 ルナの耳元に、ゆっくりと唇を寄せ……囁いた。



「もう、ヒドイじゃないですかぁ……私、本当にビックリしたんですからね? あんまりイタズラしてると……オ・シ・オ・キ♡ しちゃいますよ……?」


「――ピエッ!? うっうわわわ、待って待って、耳がゾワゾワするぅ~……!?」


「そうでしょう、そうでしょう……私もそうでしたからね? 理解してもらえるように、もっと……たぁ~っぷり、わからせてあげますからね~……♡」


「ヒィンッ……すみれちゃんの笑顔がコワイ! されどなにやら色っぽくもある! こ、これがエロ研究部が誇る文学美少女の、秘めた才能サイノーなのかー!(ナノカー!)」


「エロ研究部ちゃいますよ~♡」


 腰砕けのルナに、容赦なくささや追撃ついげきを喰らわせるすみれ――やはり文学美少女は、エロ研究部(文芸同好会だっつの)において最強か――!?

(そうかな……そうかも……)


 ― end ―

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【ボイスドラマ】私立・聖コープル女子高等学園「エロ研究部へようこそ♡」(※エロくはないです。矛盾では?)【「G’sこえけん」応募用に文章調整】 初美陽一 @hatsumi_youichi

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