第6話 よぎるあの記憶

かつてない巨大台風がこの街に接近していると、ラジオ放送で聞いた。


住人たちの頭によぎるのは「また街が水に飲み込まれるのか?」という不安。


家族や友人などを亡くしている住人たちは街で唯一、水没を免れている高台へと足早に向かう。


「もう誰も死なせない!」


あのボートを使って、高台へと一生懸命漕ぐ。腕が千切れようが身体が真っ二つになろうがそんなのは今関係ない。第二の犠牲者は出したくないし、見たくもないから。


高台には、多くの住人が既に避難していた。その場には近隣市町村の住人と思われる人たちもいた。


時より強い風が吹く。まだ雨は降っていないが、これはおそらく台風接近による影響だろう。上空の雲の流れも普段より速いように思えた。


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