第34話 夏がくる

ルヴァンシュ様のお手紙により私の次の目標がレベル10と設定された。


二年前のアシッドスライムの時にレベル5になり、草むらにて晴れた日にリースちゃんやフーイちゃんとスライムや虫魔物狩りをしており、何日かに一回は箱罠でジャッカロープや高原ネズミも狩れていた。


まぁ、途中騎士団の方々が周辺の魔物を狩りつくして獲物が減ったり、集落のお肉を賄う為にスルトさんが頑張った為に私達の行動範囲からお肉関係の小型の獲物が散った時期もあったが、二年でレベルが3つとは…もう草むらでの魔石目当ての虫魔物狩りなんかでは上がり難くなったのだろうか?…

などと考えながらルヴァンシュ様にお手紙にて誕生日を祝って貰った夜を過ごして、何時もの朝を迎えた。


ホラン一家の見回りに反応した気配察知機能からの『チリン』という呼び出し音で目覚めると、朝の日課であるマスタールームへと意識を飛ばし、たまに届くお手紙チェックをする。


普段なら、


「今日も異常なし」


と言ってマスタールームをあとにして、軽く朝ごはんを食べてからリースちゃんとフーイちゃんとで裏庭の薬草園の水やりに向かうのだが、今朝はマスタールームの机の上に硬い表紙の資料があり開けて確認すると、


『現在の保有ポイント、1』


と書いてありその下の欄には、


『ポイントにて交換出来る物…無し』


とだけ書かれていたのだった。


「なるほど…これが日付を跨ぐと貰えるポイントか…」


と納得した私は、その資料は自宅警備スキルの使い方などの資料が置かれた棚に並べた後に、


『資料確認致しました。

日付を跨げば付与されるポイントの確認が出来、無事に機能しています。

しかし、日付を跨げば付与されるポイントでは長い為に〈自宅ポイント〉とでも呼ぼうかと思います。』


と報告書を書いてから何時もの朝へと戻るのだった。


スラムの頃の様に狙いがスライム中心ではなくなったので雨の日にワザワザ狩りをしなくなり、朝食後に雨ならば私達のルールとして水やりと狩りはお休みとなる。


自宅の窓から外を確認して晴れていれば水やりからの狩りという流れがスタートするのだ。


「本日は晴れ!」


と確認して、ビットさんにお願いして作って貰った手押しの荷車にバケツを乗せて井戸に水汲みに向かうと、リースちゃんとフーイちゃんが井戸に合流してくれて三人で水汲みからの薬草園での水やりや育ている木苺のつまみ食いをしてから狩りの準備をして手押し荷車を押して早朝の草むらにて虫魔物を数匹倒して魔石を取り出す。


三人で狩りを始めた頃はフーイちゃんが見つけてリースちゃんはフーイちゃんの護衛で私が獲物を倒していたのだが、今ではフーイちゃんが見つけて私がメインアタッカーでリースちゃんがサブアタッカーとして突撃して、フーイちゃんも槍スコップを片手に新手が来ないか警戒してくれるという連結で、あっという間に魔物を…


『あぁ、魔物を倒してもパーティーだからレベルが上がるのが前より遅いのかも…いや、二人が想像以上にレベルアップしてそうというべきかな?…』


などと理解した私は、


『今の狩りのままでも良いが、レベル10を目指すには次の手段が必要なのでは?…』


と考えながら虫魔物から魔石を取り出して死骸は荷車にのせて、次は箱罠の確認に移る。


現在3つの箱罠を運用しており、獲物が入って居れば槍スコップで仕留めてから近くの小川で箱罠を洗い、フーイちゃんが見つけた巣穴の近くや、私の経験と勘を頼りに獣道へと魔石を抜いた虫魔物の死骸と共に箱罠を仕掛け直すといった手順であり、昼前には集落に戻りそれぞれの毎日を始める。


私は獲物が有れば解体して彼女達の取り分の肉である3分の2をリースちゃん達のお母さんであるルーシーさんに届ける。


ちなみにこの時の高原ネズミ等のお肉が取れる小型魔物の魔石は『解体代』として我が家のランプ等の為に貰える約束になっている。


皮や素材は倉庫に貯めておいて冒険者ギルドにもって行くのだが、早く冒険者ギルドの支店が出来て集落でも魔物を買い取って貰える様になって欲しい…自宅にて板に打ち付けて毛皮が縮まない様にするのが地味に手間なのである。


それから薬草園の収穫出来そうな薬草を収穫して乾燥させたり、薬草園で育ててわざと収穫せずにいた薬草の種を採集してみたりしていると昼になり、これらの乾燥した薬草もコボの村まで行ってギルドに買い取ってもらっているが、これも今年の秋からは帰って来たロランさんに卸すのでコボ村に行く手間がなくなる。


その反面私はコボ村にてメイちゃんに会う口実が減るのを少し寂しく思うのだが、多分シャロンさんがロランさんを求めて集落に転勤して来てこちらに入り浸るだろうからメイちゃんが集落までお姉ちゃんのシャロンさんに会う為に遊びに来てくれる事を期待しているのだ。


と、まぁ、そんな生活をしていると今年も夏がやってきてしまった。


狩人のスルトさんにお願いしてくくり罠の設置方法と弓の上達の為にアドバイスを貰ったのだが、


「実戦あるのみだよ」


というアドバイス内容であり、私達三人の仲良し槍スコップ使いチームはアドバイスを守り繰り返しチャレンジするも、私達が安全に狩りが行える場所が集落の近く過ぎるのか、はたまた私の腕が悪いのか…くくり罠は1度跳ね鹿を捕らえただけで、1ヶ月近く不発が続いており、私が個人的に練習を続けている弓もこれと言って手ごたえがないのだが、希に草むらを走るジャッカロープなど槍スコップでは難しい獲物も弓で狩れる時があるのでユックリではあるが上達はしているのであろう。


しかし、そんなレベル上げを頑張るどころでは無い夏がやって来てしまったのである。


そう、パルケ子爵様達の避暑のシーズンなのだ…

実は今年はパルケ子爵ご一家より大変面倒臭いお願いをされているのである。


それは、別荘にて開かれるお茶会への出席であり何故こんな事になったかというと、今年の年明けにあったパルケ子爵様の所属している財務卿派閥のパーティーにおいて、新しく高原に完成した別荘にて私の新作原稿を読んで過ごしたパルケ子爵様やそのご家族が自慢したのが原因なのだそうだ。


世間的には私の作品である『長男令嬢』がようやくザムドール王国内に広まり自分達の領地の出版社にて写本をつくる為の原本が手に入ったばかりの領地の貴族にとっては読んだ事自体をパーティーの話のネタにする程度のところ、


「次回作の原稿を読んだんですよ」


などと言ったものだから、


「私も一度ご挨拶させて下さいませんか?」



「購入した本に原作者のサインを…」


などと騒ぎになってしまいパルケ子爵様は、


「我が領地は国の端ですので、王都から1ヶ月半かかります…それに別荘も小さなものでして…」


などと、やんわり断ったらしいのだが、財務卿ご本人が、


「子爵領に住むモリーなる作家には国としても教育の分野で貢献してくれたと宰相閣下より聞いており、その知恵者へ挨拶が出来るように頼めないかと派閥の長である私に相談があったのでな。

よし、こうなれば我が家で転移スキル担当者を国に要請して王都からパルケ子爵領までをこの夏の期間結ぶ事にしよう。

それならば宰相閣下も直接会えるというものだ」


などという事があったらしく今年のルクアの収穫の頃に集落に来られたパルケ子爵様の馬車から降りた男性が、


「いゃ~長旅でした…これでようやく帰れます」


と言って護衛らしき方々と集落の入り口横からフッと消えたのである。


その後にパルケ子爵様に、


「申し訳ない…年始を祝う王都での派閥のパーティーで自慢しすぎて、今年の避暑の季節に我が派閥の主要貴族をはじめ、宰相閣下もそなたに会いにここを訪れることとなってしまった」


と申し訳無さそうに言われたのだった。


希少な転移スキルを持つ職員を王家から預けられて怪我や病気を気にしながら王都からここまで帰ってきたのだが、パルケの町では王都のギルド本部から、


『次回作があるらしいな…そっちで作れないならば王都の出版社から出してやるから原稿を渡せ』


みたいな連絡が入り大騒ぎになり、ここに来るまでに立ち寄ったパルケの屋敷にてパルケの町の商業ギルドマスターから、


「子爵様…勘弁して下さい…」


と抗議を受けたのだそうだ。


勿論私も、


『面倒事を持ってくるな!』


と、言ってやりたかったが、あまりにやつれたパルケ子爵様を見て、


『王都から1ヶ月以上反省しながら帰ってきたんだろうな…』


と理解し、


「今年の夏に別荘にお偉い方々が来られるんですね…私はご挨拶をすれば良いので?」


と子爵様に伺うと、


「うむ…手間をかけさせる…」


という子爵様に私は、


「私は平民の中でも礼儀のなってないスラム育ちですので、無礼だ!とか不敬だ!とか言われない様に前もって皆さんに言っておいてくださいね」


とだけ伝えてから、


「転移担当者は無事に帰られた様ですし、ご領主は戻られてギルマスと商業ギルド本部に原稿が取られないように計らってくださいまし…バックについた権力者とか出されたらパルケの町の商業ギルドだけでは対抗できませんからね」


と私がお願いすると、


「そうだな!」


と言って休む間もなく帰って行かれた…という事が春にあったのだ。


ご領主様が自慢し過ぎるからだよ…

本当に面倒臭いが夏が来てしまい来週からのお貴族様へのご挨拶祭り…頑張るしかないかな…

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