第31話 帰宅しました

やっと集落に帰って来た…


本当に集落までの約5日間の移動もそうだが、よそ行きを着てパルケ子爵様の御屋敷に行って軽い打ち合わせという名の御茶会にて、パルケ子爵様のご長女様であらせられるプリシラお嬢様は、それはそれは根掘り葉掘りと私の事を聞いてこられて、


『私という人物はスラムに捨てられ高齢の母に拾われて、ささやかな幸せは有るものの貧しく辛いスラムでの生活から現実逃避する為に物語を紡いで耐え抜いた可哀想な少女が暴漢に襲われて亡くなった母が与えてくれた読み書きの能力で今、花開こうとしている』


という大きな嘘は言ってないが、何ともむず痒い設定に落ち着いてしまったのだった。


プリシラお嬢様はこの悲劇の主人公の様な設定の私を気に入りパルケを出発するまで毎日の様に騎士を護衛に引き連れて、


「美味しお菓子のお店に…」


などと誘いにきてくれたのだった。


嬉しいのであるが私もだが、リースちゃんは連日のお嬢様とのやり取りでちょっと気疲れをおこして痩せてしまった…


まぁ、プリシラお嬢様は悪い娘さんでは無いのだが、私にはやたらと物語の書き方を詳しく聞いてくるし、リースちゃんにも、


「集落では好きな方は居られますの?」


と、際どい質問を繰り返すのだ。


まぁ、惚れた晴れたはお貴族様には一番の話題なのだろうが、集落の独身男性が奥さんを無くして独り身の家具職人のビットさんとその息子の狩人のスルトさん22歳のみの集落に住む11歳のリースちゃんには酷な質問である。


ちなみにリースちゃんのお姉ちゃんのアンさんは〈鑑定〉のスキル持ちだった為に小さい頃にパルケの町に移り住んだ元集落の方の家に下宿させてもらい町の学校でスキルを生かせる商人を目指したので旦那さんであるトマソンさんを見つけて集落へと戻ってきたのだが、リースちゃんはスキル無しだった為に自分から、


「お勉強はミラさんが教えてくれるし、お手伝い頑張るから…」


と集落に残る事を決めた少女なのである。


なのでプリシラお嬢様…


「あら、男性がいらっしゃらないの?!我が家の騎士団達はどうです?騎士団長が騎士は不器用で女性と会話をした事の無い者が多いと申しておりましたし…」


と、とんでもない提案をしてくるのでリースちゃんが疲弊して行くのが解るほどである。


『どう答えたら正解かわからないもんね…』


などという状態が移動中も続き、やっと帰って来た我が家であるが、


「ごめんなさいモリーちゃん!私…私…」


と、私を避けていた事を謝り、お姉ちゃんであるリースちゃんを助けた事により無事にフーイちゃんと仲直りが出来たのは良いのだが、ご領主様と騎士団がゾロゾロとやって来た事で他の住民は完璧に固まってしまっていた。


「ご領主様が来るぞぉ~!」


という先触れが集落にまで来たことは来たのだがロッシュさん的には、


「経験がない事に準備しろと云われても…」


と、あの冷静なロッシュさんがあわててしまいポンコツ状態になり、ご領主様との集落の事についての会議でカミカミだった程であった。


領主様としては、この集落を村にする前に開拓村扱いの状態で大工職人などを移住させて将来的にはパルケ子爵家としての避暑用の別荘を建て、集落も整備して商人や職人を開業にかかる税金など無い状態で誘致したいらしいのだ。


ロッシュ様が、


「それではご領主様の税収が…」


と心配したのだがパルケ子爵様としては、


「開業税は取れないが有力な商人の次男や三男や、職人の二番弟子や三番弟子などが商会や工房を作れば将来的には税収も上がるし、何よりその親や師匠に労せずに恩が売れる」


と笑っている。


そして、子爵様は私を見て、


「こんなに景色の良い静かな集落が多少便利になればさぞかし良い作品が書けるだろうからな…そのお手伝いみたいなものだ」


と遠回しの様な雰囲気を醸し出しつつ直接的に、


『村おこし手伝うから新作をよろしく!』


みたいな圧をかけてくるのだった。


『書きますよ!書けば良いんでしょ!?』


と思いつつも、ここで嫌がればシャロンさんの『ロランさんの人生に潜り込んじゃうぞ』計画が不発に終わるし、私としてはシャロンさんにチャンスはあげたいし、ロランさんにだって拒否権はあるはずだからこの件に関してはシャロンさん寄りの立ち位置をキープしようと思っている。


まぁ、鑑定阻害スキルと認識阻害スキルを持つ暗殺者がターゲットの第一王女に恋をしてしまい組織を裏切り逆に命を狙われながらも王女の暗殺を依頼した第二夫人の隣国を狙った策略を暴くという『暗殺者探偵の恋』というお話をはじめ何本かすぐ出せるストックはあるし、自宅警備スキルでマスタールームに飛べば見た事のある書類や資料なら引き出しから取り出す事が可能ならば、前世で私の書いた秘密の妄想小説ノートだって呼び出せる筈である。


新作を出している限りはプリシラ様をはじめパルケ子爵家の方々もこの集落を気に掛けてくれるだろうから…という事で、パルケ子爵様達がパルケの町へと出発されたのを見送ったその後に、集落の皆さんへのお土産配りもそこそこに私は自宅へ戻り魔石ランプを机の上にとりだして筆を走らせ始めたのだった。


それからは早朝には畑や薬草園の水やりに始まり、トカゲ皮のマントに蛇皮のグローブを身に纏い近場の魔物を狩ったり、食べれる木の実を集めたりして過ごした。


夏の足音が聞こえる頃にはリースちゃんとフーイちゃんが薬草園の水やりの手伝いだけでなく集落近くの草むらなどで私のレベル上げにも力を貸してくれて、リースちゃんがフーイちゃんを守りながらフーイちゃんが気配感知スキルを使い、


「あっちに二匹だよ」


と魔物の位置を私に教えてくれると私が指定された場所に武器を構えて切り込む流れだ。


私は最近では鍛冶職人のカーターさんと家具職人のビットさんが空き時間に作ってくれた槍を使って狩りをしている。


槍と言ってもほとんど柄の長い小ぶりなスコップで、持ち手は私の小さな手に合わせて細くしても強度のある硬い木材の芯材を削り上げた物で握りやすく、突いてよし、シバいてよしの一級品であり、これならばアシッドごとき安全圏からバチんとハンマーの様にシバいて弱らせてから、あとは槍の様に突くなり、戦斧の様に縦に振り下ろして核を叩き切るなりできる。


凄く扱いやすく今では私達三人の基本装備に採用されており、ついでに良い薬草の苗や、たまには木苺を土ごとその槍スコップで掘り返して持ち帰り畑の隅に小さな果樹園も作ってみた。


順調にレベル上げが近所の草むらで行え、回収した魔石は魔石ランプや魔石コンロに使われる。


3つの箱罠もリースちゃんとフーイちゃんと私の三人で運用して、獲れた獲物の権利はちゃんと三当分にして毛皮などが貯まればコボの村へと報告に行くロッシュさんや納品に行く馬車に乗せてもらい冒険者ギルドに買い取ってもらって代金も三人で分けている。


ジャックさんが夏には出稼ぎに行ってしまったので、先月はリースちゃんとフーイちゃんも一緒にワインを納品に向かうトマソンさんの馬車でコボ村に行ってベッドに空きのあるメイちゃんのお家で1泊させてもらい、翌日はメイちゃんも一緒に最近の三人の稼ぎを使ってコボの村でお買い物を楽しんだのだった。


そこで、メイちゃんから、


「私はもう覚えたから」


と私の作った教科書をフーイちゃんが貰っていたので、これは2年後からリースお姉ちゃんの様に集落にてミラさんから読み書きを習う予定らしいがその前にリースお姉ちゃんが先生となりフーイちゃんが文字を覚えてしまいそうである。


そんな感じで集落で私たちは狩りの終わった平日の午後はリースちゃんとフーイちゃんはお家の手伝いのあとはお勉強タイムであり、私も獲物の解体や我が家の家事に追われて夕方からは魔石ランプの光の下で、その日遭遇した魔物の資料を纏めたり、皆さんがご希望されている新作を書きながら暮らしているのであった。


本当に魔石ランプは買って良かったな…

夜の作業…というか夜中のトイレに行きやすいんだよねぇ…

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