第30話 宿屋で起きた朝に
買い物三昧をした翌朝…
私とリースちゃんは勿論であるが、シャロンさんまで、
「落ち着かないから一緒に良い?」
と、一つの寝室に集まり二つあるフカフカのベッドに別れて寝ているのであるが、現在私の目の前にはリースちゃんの顔があり、
『この距離で見たら少し傷が治った場所の皮膚感が違うのがわかるなぁ~』
なんて、思いながらリースちゃんのオデコ辺りを見つめていたのだが、私は何やら視線を感じてリースちゃんのオデコから顔に目線を下げると、
『あっ、ガン見されてる…』
と焦るのだった。
がっつり見つめ合ってしまったのだが、リースちゃんは何も言ってくれない…
『気まずい…気まずいよリースちゃん…何か言ってよ!』
と願うがリースちゃんは黙ったままだ。
私は思わず、
「リースちゃん…えっ、まさか目を開けて寝るタイプ?」
と呟くのだが、リースちゃんに食い気味に、
「起きてるよ」
とだけ言ったのだ。
『それは、それで怖いのよね…』
と、私は少し怯えながら、
「り…リースち…さん、私の顔に何かありましたでしょうか?」
と聞くとリースちゃんは、
「モリーちゃんは怒ってないの?」
と聞いてくるので、私は、
『ん?何の話ですか?』
と思いながらも、グイッっと私に向かいもうキッスの距離にま近づいてきたリースちゃんに更に緊張しつつ、
「お…怒る?…」
というのがやっとだったのだ。
すると、リースちゃんは、
「私ね…この宿に来てからずっと考えてたの…こんな部屋に泊まれたのはモリーちゃんのおかげで、知らなかっただけでモリーちゃんは凄い作家さんでお貴族様にも認められてるのに…そんなモリーちゃんが本が書けなくなるかも知れないのに、私の為に…その…手を…」
と言いにくそうに話す。
私は少しホッとしながら、
「そんなこと…リースちゃんは悪くないのに怒る訳が…」
と、全く怒ってない事を伝えようとすると、リースちゃんは、
「私が悪いの!」
と言って私の胸に顔を埋めて、
「フーイが『なんか変だよ』って注意してくれたのに、私が大丈夫だからって…あの木で最後だからって…だから!」
と言って彼女は泣き出してしまったのだった。
「フーイちゃんもあの日は殺される気配を頑張って我慢してたから夕方には疲れてしまって上手くスキルが使えなかっただろうし、誰もあの木の中にアシッドスライムが住んでいるなんて解らなかったし…それに私がスライム担当だったのに…リースちゃんごめんね。
リースちゃんの長くて綺麗な髪、溶かされちゃって…」
と、私は怒られるべきは自分だと告げて彼女のショートヘアになってしまった髪を撫でていると次第にリースちゃんも落ち着きを取り戻して、
「本当にモリーちゃんは怒ってない?」
と改めて私に聞いてきて、私はリースちゃんの顔を見つめながら、
「怒ってないよ。リースちゃんは怒ってる?」
と、彼女の治った頬っぺたに触れて聞くと、彼女はその私の治療された片手を自分の頬に愛おしそうに押し当てる様に手で包み込み、
「怒ってないよ」
とだけ答えてニッコリ笑ってくれたのだった。
何だか可笑しく感じて二人でクスクスと笑っていると私達の布団の上からポムンと圧力がかかり、
「なんか除け者みたいでお姉さん寂しいなぁ~。
女の子の友情に興奮しちゃってたのに混ぜてくれないんだから…あっ、あれですね?モリー先生の次回作で女同士の友情物語を!!」
などと、シャロンさんが自分の寝ていた隣のベッドからこちらのベッドに移動してきて私とリースちゃんのキラキラとした美しい雰囲気をぶち壊してきたのだ。
「もう、シャロンさん!」
と抗議しようとするが、シャロンさんはお構い無しに、
「リースちゃんはどんなお話が良いと思う?」
と聞き、リースちゃんはリースちゃんで、
「私、先ずは『長男令嬢』って言ってたモリーちゃんの本が読んでみたい!」
と乗ってくる。
シャロンさんはモゾモゾと私達の布団の中に潜り込みながら、
「了解、了解!モリー先生にお渡しする完成品を用意してあるからそれを読ませてもらえるよ…ねっモリー先生」
と言っている。
私は少し呆れながら、
「シャロンさん、その先生ってのはよして下さいって言ってますよね?…」
というと、シャロンさんは、
「だって商業ギルドでは『モリーちゃん』なんて言ったらギルマスに叱られちゅうんだからね。
じゃあ、頑張って『モリーちゃん』っていうから新作をお願いします。
シャロンお姉ちゃんからのお願いだよぅ!」
と、ただでも人口密度の高いベッドの中でクネクネしながらおねだりしている。
そして何故かリースちゃんまで、
「私も、読んでみたい…かな?」
と可愛くおねだりしてくるのだった。
私は、
「はいはい、時間があったらね…毎日の生活で忙しいんだから…」
と、やんわり断ろうとするとシャロンさんは、
「大丈夫、大丈夫!多分近々私がモリーちゃんの住んでる集落に引っ越すから、朝起こしたり洗濯や掃除ぐらいなら手伝えるから…
あっ、でもロラン君と私の仲を取り持つのは手伝ってね。」
などと言ってきたのだった。
『いったい何を言っているのやら…』
と思っていた私はシャロンさんから壮大な計画を聞かされる事になったのであった。
まず私の住む高原の集落であるが、将来的には村へと昇格する事がパルケ子爵様に認められ、集落の中にギルドが入れる様に調整中なのだそうだ。
と言っても数年はかかるらしく村になる前ならば土地は開拓した者の物になるし、商会もギルドへの登録料は必要だけど、領主様への開業税は免除となる為に、他の町の有力な商会の次男や三男が自分の店を開く為に来る可能性もありパルケ子爵領にて一番熱い集落になるという流れらしい。
そして、ここからが重要らしく、修行を終えたロランさんが2年後には帰って来て個人で薬も作れる治癒院を開く予定であり、シャロンさん的にはロランさんの治癒院の開業に集落のギルド準備の職員として派遣されたのを理由に商業ギルドの枠を飛び越えてグイグイとロランさんの懐に潜り込み、
「最後にはベッドにまで潜り込み、嫁になるの!!」
と、興奮しているシャロンさんを見て、
『ロランさん…狙われてますよぉぉぉぉぉ!!』
と心の中で西のマールの空の下にいる筈のロランさんに向かい叫ぶ私がいたのだった。
そんな朝のバタバタの後で、高級な洋服屋へとお直しが終わった高いよそ行きの一張羅の受け取りと、シャロンさんの案内で集落で育ちそうなハーブやスパイスの種を見に行く事にしたのだった。
スラムの時は、
『こちらの世界はこんな感じ』
と思いながら毎日の食事を食べていて、コボの村では、
『レインさんって料理上手だな…』
と思い集落では何も思わなかったのだが、治癒院の料理を食べた瞬間に、
『スラムの時は貧乏だから薄味で、レインさんの料理はスパイスやハーブが効いていて最高に美味しくて、集落では物流の関係でハーブなどは使うがスパイスは少なめで塩がメインの味付け…
つまり、私の知ってる普通の味は普通以下で、普通以上が普通なんだ!
これは自宅にて既に集落で料理に使用されるハーブだけでは無くてスパイスも育てるべきだ!!』
と決意したのだった。
そして、この意見には治癒院の味を知ってしまったリースちゃんも賛成であり、塩ベースの集落生まれと、塩っからくてお酒に合えば文句のない職人組の住む集落ではこの先ずっと素材の味を生かす塩ベースか、ミルクとハーブで臭みを抜く肉料理が続く事を懸念して、
「私も手伝うからスパイスっていうのを育てようよ!」
と言ってくれたのだった。
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