第29話 パルケの町でお買い物
私とリースちゃんは揃って退院となったのだが、嬉しさよりもこの後待っているパルケ子爵様ご一家との片道5日予定の集落までの旅が不安でならない。
正直な話、前世も合わせてお貴族様を見た事なんて、神様を見た回数よりも少ない…
『ん?神様より何で貴族にビビってるの?』
って思うだろうが、簡単にいうと本部のグランドマスターは上の人すぎて怖さが理解できないが、ギルド支社の意地悪上司は怖い感覚に似ているかな?…
どちらにしても庶民としては、可能な限りお貴族様なんて方々は知らない上流階級の世界で元気に暮らしておいて欲しく、関わらない方が安全だと魂が理解している相手である。
町の人の感じではパルケ子爵様は良いお貴族様らしいのではあるが、それでも私が何か粗相をして、
「はい、お前は縛り首ね」
と言われたら終わりなのである。
しかし、5日間…移動中の5日間だけ乗り切れば解放されるのだ。
ルヴァンシュ様から、
『スキルのテストを本格的に始める為に成長したりレベルを上げたりしてね』
とお願いされているのだ、
『こんな所で死んではいられない!』
と思いながらシャロンさんの案内で商業ギルドが押さえてくれた宿屋に向かったのだが、その部屋が落ち着かない程広いのだ。
「いや、こんな部屋で落ち着かないからもっと小さい部屋で!」
とゴネる私に、シャロンさんは、
「大丈夫、寝室はこれより小さいから」
などという。
「えっ、別の部屋もあるの!?」
と驚くリースちゃんにシャロンさんは、
「うん、モリーちゃんとリースちゃんそれぞれの部屋と、なんと私もお供として泊まれる事になってま~す」
と嬉しそうにいうのだが、正直なところ、
「普通で良いから…」
と私が泣きそうになっていると、シャロンさんはカバンをゴソゴソしながら、
「なんだかね、ギルマスがモリーちゃんにくれぐれも粗相の無い様にって本部の偉いさん達に予算をつけて貰ったらしくて…」
と言いながら革の巾着を取り出して、
「小金貨30枚だって大金貨では使い勝手が悪いだろうからって…ギルマスがこれで御屋敷に行く服や、集落の皆さんにお土産でもだって…良かったね」
というのだが、
『全く良くない…なんのお金なの?…』
と訝しげに巾着を眺める私と、
「ねぇ、モリーちゃん…」
と私の袖を掴み怯えるリースちゃん…
『怖い、怖過ぎる!』
と思っていると、シャロンさんは、
「なんだか商業ギルド的にはあの教科書の独占をザムドール王国に限定してくれた事で宰相様の派閥に恩が売れたので大変助かったって言ってたから気にせずに貰ったら良いよ。
モリーちゃんへの正当な報酬だからね。
それより私としてはこのお金で貴族社会に触れて貰って新作のアイデアが降りてくれたら嬉しいんだけど…」
などと言ったかと思うと、
「さぁ、馬車がそのまま待たせてあるから服を買いに行きましょうモリー先生!
リースちゃんもモリー先生に臨時収入が入ったから可愛い服を買ってもらっちゃいなよ。
一緒に御屋敷に行くリースちゃんの身支度の分も実は余分に小金貨二枚入ってるからね」
と言っていたので、私は少しでも大金を持ち歩く恐怖を無くしたかっので、
「リースちゃんの分を分けっこしましょう!」
と言ってテーブルに小金貨を並べると、
「32枚あるね」
「凄いね」
「こんな大金見たことがない…」
結局三人して黙る事になってしまった。
「いやシャロンさんはついさっきまでこれを持ち歩いてたでしょうに!」
とツッコむ私に、シャロンさんは、
「小金貨だよって馬車担当の職員にさっき下で預かって中身を見ずに渡したから…悪いけど商業ギルド職員といえど私は新人で、ギルド銀行で書類は担当しても実際に現金に触れてお渡しするのは普通は上司だけだよ。
今回は例外中の例外でモリー先生に渡すから知り合いの私が預かっただけだよ」
と少し早口でビビっているのだった。
私が、
「とりあえず馬車が待っているらしいから、リースちゃんの小金貨は渡しておくし、追加で村の人へのおみやげ代金もリースちゃんね」
と言って5枚ほど渡すと、リースちゃんは、
「えっ?あっ、えぇ!!」
と固まっていたが一旦置いておいて、シャロンさんに、
「御屋敷に行く為の服って分からないんだけど、どれぐらいかな?」
と聞くと、
「色々だけど、小金貨1~2枚かな?」
と言うので、
「私は服代で少し余分に3枚…靴も欲しいから4枚持っておくから残りはシャロンさんが預かっておいてくれます?」
と言うと、リースちゃんが、
「あっ、モリーちゃんズルい!」
というし、シャロンさんも、
「私も嫌よ…一旦持ち主のモリーちゃんが持って、買い物をして余ったら商業ギルドで預けましょう」
と言い出して、リースちゃんまで、
「それ賛成!」
と言ってさっきの5枚全部を突き返してきたのだった。
などというやり取りがあった後に商業ギルドが用意してくれた馬車で、高級な洋服屋に行き今までに無いよそ行きの服を購入したのだった。
お直しに1日かかるらしく店を出たのだが、店先で待ってくれていた馬車に乗るなり、
「いつものお洋服がタンスいっぱい買えるね…」
と、リースちゃんと話す私にシャロンさんが、
「この際だから普段着も買っちゃう?」
と、悪魔の囁きをする。
リースちゃんは既に御屋敷に行く為のセットを貰った小金貨二枚の予算内で購入して、お釣りの大銀貨などをお財布に入れているので、
「お直しはお母さんがしてくれるし、普通のお店でフーイのお洋服を買ってあげたいし…私のも…」
と言ったのを聞いた私も相変わらず洋服二枚目、下着三枚のローテーション生活を続けていたのでその提案に便乗したのだった。
さっきの店の値段設定のせいもあり、庶民向けの洋服屋は楽園の様に感じた私だったが、大金が有っても怖くて使えずに、洋服二枚、下着三枚を購入して私のローテーションが洋服四枚、下着六枚の倍の状態になっただけで満足だった。
「こんなに買ってさっきの店の四分の一以下とは…」
と、若干訳が分からなくなってきている私にシャロンさんは、
「そうだ、ギルマスがモリー先生にまた今回の様な事がない様に、防御力の高い手袋などの装備も買える様に言われてたんだった!」
という事で、冒険者ギルド通りに面した防具屋に立ち寄り酸や毒に耐性のあるレッドバイパーという蛇皮の手袋と、防御力の高いウォーターリザードのフード付きマントを購入したのだが、防具屋の隣の冒険者用の雑貨屋に飾ってあった魔石ランプを見つけた私は、
「シャロンさん!こんなもの買ってる場合じゃないよ…
魔石コンロと魔石ランプが欲しい」
と、いうとシャロンさんは、
「そんな、魔石ランプが無いなんて、夜に新作の創作活動に支障が…すぐに向かいましょう!」
などと言って錬金ギルドに向かい、魔石コンロに魔石ランプに念のために我が家用のポーションも購入したのだった。
こんなに買ったのにまだ小金貨が七枚程残ったのだが、考えると既に今日だけで小金貨23枚も使った自分に恐怖しているのだった。
錬金ギルドのやり手職員さんが、数年で効果が弱くなるポーションの劣化を防ぐ保存箱を小金貨五枚で薦めてきたが、踏みとどまれた私を誉めてやりたい…
だけどもう私は欲しい物を粗方手に入れたのであとは無事に集落に帰るだけであり、自宅でのロウソク生活ともサヨナラな事が嬉しくてたまらなかったのだった。
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