第18話 初めての懐かしい部屋
目を明けるとそこは前世で働いていた冒険者ギルドの事務室そっくりな場所だった。
ただ、実際のこの部屋は私が死んだ時に崩れ落ちた筈であり、私を押し潰した資料棚までしっかりと私の机の後に配置されていたのだった。
しかし、私の知っている事務室とは微妙に違うのは受付カウンターへと続く通路は勿論、ギルドマスタールームの扉も無く、四方が壁で囲まれているのに昼間の室外の様に明るいのだ。
実は私はこの感じを知っている…それは天界である。
暑くも寒くもなく常に明るい世界…
「魂の世界かな?…やっぱり死にましたか??」
と声を出せるか確かめる様に呟いた私だが、誰からの反応もなかったのだった。
室内を見回してこの状況を再度確認すると、私の机には一冊の資料が置いてあったのだ。
「本店への提出物ならすぐに提出箱に!ウチの資料なら資料棚に戻しておく!!」
と、前世の口るさい先輩の口癖をマネしながら机周辺を確かめる様に資料に近づいた時に異変に気がついたのだ。
『あっ、椅子から何から大きいと思ったら体は今のままだ…使いづらいな…』
と、前世の建物に今世の私が立っている違和感を感じながら、
「とりあえず資料に目を通そうかな?」
と、独り言をいう私は椅子に腰かけて資料を手に取る。
すると資料の表紙には、
『自宅警備スキル使用マニュアル 1』
と書いてあった。
とりあえずマニュアルを開けてみると、
『スキル発動、誠におめでとうございます。
貴女にはこのスキルの使い心地と改善点を調べて報告書を作成していただきます』
という書き出しの後に、
『ここはマスタールームという場所であり、スキルが作り出した貴女の精神世界です』
と書いてあるのを読み私は、
「いや、何も死んだ場所にしなくても…」
と、軽く自分に文句を言いながら次を読むと、
『貴女には実際に貴女の自宅をダンジョンだと想定して様々な機能を試して報告書を上げてもらいます』
と書いてあり、
「スキルの実験と聞いていたが、報告書って、仕事感が凄いな…」
と、生活音も無い部屋だから少し不安になり、必要以上にブツブツと呟く私は資料の続きを読みながら、このマスタールームで今出来る事を確認すると、
まず、この自宅警備スキルは様々なスキルを簡易化したり範囲を限定化する事により色々な機能を持つ〈自宅警備〉という一つのスキルとしてまとめてあるらしく、フルサイズの様々なスキルを詰め込めるには魂の容量が足りない為に無理であり、起動するギリギリまで軽くしたスカスカのスキルをにした上で、一つずつ追加して体や魂に負荷がかからない様に調整する実験も兼ねているらしいのだ。
「前世でも歴戦の猛者の様な冒険者さんがダンジョンに潜りまくって獲得したスキルカードで使えるスキルが10個あるとか聞くからな…レベルがあがったら魂も強くなるって天界でも聞いたことあるし…」
と、納得しながら読み進めると、どうやら私はマスタールームでは〈記録〉スキルの簡易版が使える様であり前世や今世で見た資料であれば、
『コボの冒険者ギルドの資料室にあった周辺の魔物資料』
とイメージしながらマスタールームの机の一番下の引き出しを開けると読んだことのある資料ならば取り寄せる事が出来るのだ。
本来ならばこの記録スキルはダンジョンマスターが膨大なダンジョン内での出来事や作業などの記録を行う為と、そのダンジョンマスターをサポートするダンジョンコアというダンジョンの制御機能自体がダンジョンマスターの記憶を鮮明に呼び出して学習する機能らしいのだ。
メディカ様はこの自宅警備スキルがダンジョンコアに至る卵の様なスキルだと言っていたが、子供も産んだことがない私にそんなよく解らない卵が孵化させられるのか少々不安である。
まぁ、そんな自宅警備スキルに備わる数少ない機能である記録スキルであるが、あくまで簡易版なので資料に限られるのが不便ではあるが有難い機能なのだが、
「本当の記録スキルならば鮮明に前世の風景とかお母さんの声も脳内で再生されるはずなんだけどな…」
と、いかがわしい本を書いていた同僚の持っていたスキルの為に詳しく記録スキルの事は理解していた私は少し残念な気分になりながらも資料の続きを読むと、〈気配感知〉スキルの簡易版が使えると書いてあった。
敷地内限定で魔物等の侵入を感知できるスキルであり私のレベルが上がると自宅警備スキルも育ち様々な簡易版スキルと融合させて便利な機能になる予定らしいが、現在は敷地内に魔物が入れば、
『アッチに何かいる?!』
程度の制度らしい。
果たしてどんな便利機能になるかは見当もつかない…
実は前世の天界にはダンジョン内でダンジョンを実際に管理していた一族の方もおり、その方々から聞いた話ではダンジョン内に人が居たりその人が倒した魔物に応じて、ダンジョン内を自由に作り替えたり出来るポイントが貰えると聞いた事があるので、ダンジョン内だけでは神様の様な力が使えるのだろう。
でも何故そんな専門家が今回の私の仕事を受けなかったかというと、実際のダンジョンマスター経験者では今の実験スキルでは使えない機能が多過ぎてかえってテストどころでは無いらしいのだ。
神様がいうには、
「最高のパンの味を知っている人間が小麦を生で食べる生活からスタートしてもゴールの遠さしか解らずにリタイヤする可能性が高いでしょ?」
と言っていたので、この自宅警備スキルは正規品のダンジョン管理スキルから見れば、『小麦を生で食べる』状態である事だけは理解したのだった。
そして、最後のページにはマスタールームから現世に戻る方法が書いてあり、一番最後には、
『スキルの使い方の確認が出来たら机の上の引き出しを開けると報告用の用紙が出くるので、その紙に記入した後に提出資料用の箱へと入れる様に』
との指示があった。
どうやらギルド間の連絡システムを真似した箱に報告書を入れるとメディカ様達の所まで報告が上がるという流れらしいのだが、
『益々ギルドの日報みたいで嫌な感じ…』
と、退屈で面倒臭い前世の職場を思い出しながら私は報告書を記入し始める。
引き出しから取り出した紙には、
『自宅警備スキル使用報告書』
と書いてあり既に『モリー』『八歳』『レベル4』と私の情報が刻印してあった。
『ん?レベル4なんだ…凄い!無料でレベル鑑定してもらえるみたいなものだ!!』
と、普通ならば教会にお布施という名前の鑑定料金を払い見てもらう人物鑑定すら出来ることに気がついて得した気分のまま、
『スキル使用初回報告、マスタールームへとて来る際の頭痛や目眩が大変気持ち悪かったです。
あと、マスタールームの家具が今の私のサイズに合わず少々使い難いです。
記憶スキルは正常に機能しました。
気配感知スキルはまだ敷地内に魔物が入ってきておらず確認出来ておりません』
と書いて箱に提出してからマスタールームの壁に向かい、
『出たい』
と念じると扉が現れて、その扉をくぐると新居の部屋の床で倒れている状態で目が覚めた。
「これは、マスタールームに行くときはベッドに寝ないと集落の誰かに見られたら驚かれるな」
と自分に言い聞かせながら床から起き上がり、自分の体に異変が無いか確認をする私は特に倒れた際にどこもぶつけた場所が無い事に安心し、そして、
『まぁ、報告書は何か気がついた事が有った場合だけで、ギルド職員の頃の様に毎日提出する訳でも無いらしいから気長にやりますか!』
と気楽に思う事に決めて、この新居での生活の為に庭の畑でジャガイモでも栽培しようと玄関横に置いてあるコボの村で購入した農具を片手に外に出たのだった。
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