第19話 おジャガを植えよう

無事にスキルが発動した私は、


『スキルも大事だが先ずは日々の生活だよ!』


という事で気合いを入れてジャガイモを栽培するべく新居の裏手に広がる庭へと出たのだが、そこには作物を植えてくれとばかりにフカフカの土の畑が広がっていたのだった。


するとガチャガチャと農具を運んでいた私の生活音が聞こえたらしく、私の新居の隣に広がる葡萄畑で作業をしていたボンゴさんが、


「モリーちゃん、起きたかい?何か手伝おうか?!」


と、少女独り暮らしの家の様子を見にきてくれたのだった。


私は、


「おはようございますボンゴさん、えっと畑を耕そうと思ったのですが…」


と、昨日は引っ越しなどで確認出来ていなかった裏庭が既に耕されている事を聞いたのだが、ボンゴさんは笑いながら、


「もう、10年以上放置された畑なんてモリーちゃんの腕力じゃ耕せないぐらいにカチカチだったから男衆で雪解けすぐにチャチャイと掘り返しておいたから、ロッシュさんとこから持ってきた堆肥もたっぷり混ぜてあるから、何を植えてもグングン育つだろうさ」


などと言ってくれた。


私は、


「何から何まで申し訳ありません…」


と頭をさげると、ボンゴさんは、


「モリーちゃん、そういう時は、『ボンゴおじちゃん、ありがとう』って笑顔で言ってくれた方がおじちゃん嬉しいな…」


などと、照れくさそうに私に言ったので、


「ボンゴおじちゃん、ありがとう。凄く助かりました。」


と笑顔で告げると、


「おじちゃんの助けが必要なら葡萄畑か下の家かワイン蔵の何処かに居るから、なんか有ったらすぐに言ってくれ」


と満足そうな笑顔のボンゴさんだったが、去り際に何かを思い出したかの様に、


「あぁ、モリーちゃんはやることいっぱいだから邪魔しちゃ駄目だと、ウチの娘のリースとフーイには言ってあるが、二人とも遊びに来たくてウズウズしてるから、明日か明後日にはしびれを切らせてなだれ込んで来たらゴメンよ」


と言って帰って行ったのだが、私は立ち去るボンゴさんの背中に、


「リースちゃんとフーイちゃんにいつでも遊びに来て下さいって言っておいてくださぁ~い」


と伝えて、私はフカフカの畑の一角にジャガイモを植え始めたのだった。


しかし、ジャガイモを一列植え終わる前に、


「モリーちゃ~ん!」


と家の方から元気な声がして、私より少し年上のリースちゃんと私より少し下のフーイちゃんが遊びにきたのだった。


遊びにきたといっても二人は、


「モリーちゃんの居たマールってどんな町?」


などとお喋りをしながら私のジャガイモ植えを手伝ってくれて、最後には新居と葡萄畑の間にある井戸から水まで運んでくれて水やりまで手伝ってくれたのだった。


『これは何かお返しせねば!』


と思ったのだが、気のきいた物など何も無くて、引っ越し荷物や家の中にあるモノを頭の中でリストアップして、


『あれだ!』


と閃き、リースちゃんとフーイちゃんに、


「引っ越したばかりであまり物が無いけど良いものがあるからお家の中でお茶しない?」


と聞くと、


「えっ!何それお母さん達みたいで楽しそう!」


とリースちゃんは言って、フーイちゃんは、


「うっ…お茶ってあの苦いやつ?」


と顔をしかめてしまった。


『フーイちゃんはお茶が苦手…』


と心のメモに書いてから、私が、


「大丈夫、お茶って言ったけど出すのは今朝沢山もらったミルクだから、私一人じゃ飲みきれないから手伝って欲しいの」


とフーイちゃんに言うと、


「そんなお手伝いなら毎日でもする!」


とニコニコで自宅へと向かったのだった。


カゴいっぱいにあるパンを食べやすいサイズに切って、レインさんとメイちゃんと一緒に作ったジャムを台所から持ってきて少し贅沢にパンに乗せて、


「召し上がれ」


と、盛大に溢しながら大きな瓶から注いだミルクと共にお出しして、集落のレディ達のお茶会が開催されたのだった。


コボ村でもそうだったが砂糖などの甘い物は割りと貴重であり、ジャムなどは贅沢品であるが、これはジャックさんが出稼ぎ先の生産地などから安く買い付けた砂糖を使って作ったもので、二人は、


「こんなパンの大きさにこんなにジャムを乗っけていいの?」


と、罪悪感と甘味への誘惑の狭間で揺れている様であった。


一人でチビチビ楽しむよりは皆で楽しむ方が値打ちがあると考える私は、


「こんな贅沢私も初めてだから皆には内緒ね」


と、二人の少女に甘味の誘惑に溺れるというイケない快楽の世界を教えるという悪い女を気取ってみるのだった。


物流の盛んなマールの町では砂糖などはそこまで高価では無くアグアス王国から運ばれる塩の三倍程度の値段であった。


ただ、この集落では気候から砂糖が取れる作物の栽培は難しく、物理学の拠点からも離れている地域なので若干他所より割高になっているのだ。


そんな罪な味を楽しむ二人は、


「アンお姉ちゃんやお母さんには内緒だね…」


などとヒソヒソと相談しながらジャムだらけのパンを頬張っていたのだった。


『ジャガイモの作付けに水汲みと、沢山頑張ってくれたからこれぐらいは良いよね…』


と、イケない快楽を教えてしまったかもしれない自分に折り合いをつけたあと、二人はお昼前には、


「またね!」


と言って帰って行ったのだった。


早朝の契約からここまで怒涛の流れで、精神的に疲れたのと、昨晩の寝不足で疲れがドッと押し寄せた私に、


『チリン』


と再び鈴の音が頭の中に響く…


「良く聞いたらギルドカウンターの呼び出しベルの音だよ…」


と、音の正体を理解した私は次の瞬間に、裏庭の畑から嫌な気配を感じたのだった。


『簡易の気配感知スキルかな?!』


と閃き、


『自宅警備スキルが敷地内に何者かの侵入を感知したら知らせてくれる為のベルか?』


と思いながらも、こんなすぐに使う予定ではなかった弓を部屋に取りに行ってから裏庭に向かうと、ジャガイモ畑の端の種芋が幾つか掘り返されている様子であった。


「ちくしょうめ!今植えたばかりなのにっ!!」


と悔しさが込み上がるが、


『芽が出れば毒素が出るらしいジャガイモを奪うなら芽が出る前の今しかないのか…』


などとの結論にいたり、落ち着いて畑を確認すると小型魔物の足跡が確認できたのだった。


「まぁ、低い石垣と古い柵で仕切られただけの畑だからね…」


と呟きながら再び家に戻り、今度はエッチラオッチラと箱罠を運んで来て、足跡の向かう先をたどり敷地への出入り口になりそうな場所に設置してみた。


箱罠はジャックさんのオススメで三個購入したのだが、まさか近くの森でなくて一発目を自宅で使うとは思いもしなかった…

たが、高い壁も無く住民もまばらで、ここ十年以上も放置された家だった場所…もしかしたら彼方が先住者なのかもしれないが、何にせよ、


『私のおジャガを奪った罪は重い!』


と心を鬼にして、多分ネズミ魔物であろう足跡の主に制裁をくわえるべく私は黙々と罠を仕掛けるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る