第16話 別れの時
雪が溶けて隣町からシャロンお姉さんが帰省し少しドタバタはあったが、約3ヶ月に及ぶジャックさん家での楽しくて暖かな下宿生活が終わる時がやって来た…
そう、森奥の集落から荷馬車に乗ったロッシュさんがやってきたのである。
ロッシュさんは冬場を除き1ヶ月に一度集落からコボ村の村長の家に集落の報告を行っている。
この報告をきっちりしている間は集落はコボ村の一部としてコボ村を治める領主様から仮領地として認められて、魔物関係の場合に兵士などは来ないが、土地をめぐる他国や他領地の侵攻には軍を出してくれるのだ。
あとは、土地を購入したりした時発生する税金や住民の登録料などお金がかからないのだが、その中でも町で店を出す場合一番の壁となる領主様に納める結構な額の開業税まで集落は免除されている。
領主様としては領地内の僻地や領地外の未開拓の場所を切り開いてくれて、ある程度自由を与えて人が移り住み生活が出来る様になれば正式に領地に取り込むと、無料で村を作って税収を増やしてくれたり、もっというと勝手に未開拓の空白地を自分の領地に出来るのだ。
その代わり定期的に報告を上げさせて、
『ウチが既に唾をつけてました』
と、他所の領主に奪われない為の証拠作りの為の作業らしいのだ。
つまり森奥の集落は人が住めてはいるが村にするには至らず、まだまだ発展して人数も増えないと駄目な宙ぶらりんな状態なのだろう。
前世の世界でも領地外の空白地を切り開くと、領地認定されると同時に切り開いて管理していた者の持ち物になる開拓村制度というのがあったと思うので名前は知らないが似た様なモノだと理解している。
ロッシュさんは今日はコボ村の村長さんの家に泊まり、明日の朝には私の荷物を荷馬車に積み込み集落へと出発して、多分ではあるが明日の夕食頃には私の新生活が始まるのだ。
なので今日は明日からの新生活に必要な日持ちのする食材をメイちゃんとジャックさんと一緒にコボ村の市場などて購入している。
ジャックさんが、
「モリー、集落で葡萄園の長女が商人の旦那をもらって実家のワインを商っているから、定期的に買い出しを頼めるが非常食としてジャガイモと塩は多めに買って常備しておけよ…」
とアドバイスをくれた。
確かに余ったジャガイモは家に有る畑に植えれば増えるし、塩さえ有ればそこら辺の野草だってスープになる。
ジャックさんが荷物係をしてくれたので重さも気にせずにジャガイモも木箱ごと、塩は袋ごと購入して、最近やっとジャックさんの指導の元ではあるが自分用の箱罠で捕まえれる様になった小型魔物である森ネズミやジャッカロープなどを売ったお金でほんの少し膨らんでいた財布が少し痩せてしまった。
そして、その夜…
いつもならばロッシュさんが集落から来た夜はジャックさんは出稼ぎに出ていなければ必ずロッシュさんと飲みに行っていたらしいのだが、今回は特別に私のお別れ会をする為に酒場に行くのは取り止めてくれたのだが、
「モリー…もうモリーはウチの子だから寂しくなったら帰って来いよ!」
などと、結局飲みに行かずとも自宅でも寂しさのあまりお酒がすすみ私を抱き締めて無精髭をザリザリしながら泣いているのであった。
「もう、お父さんったらお姉ちゃんの時と同じ事を言って泣いてる…」
と笑顔を見せてくれているメイちゃんも泣いる。
レインおば様はキッチンで黙々と料理をしており、作業が一段落したらしく後ろを向いたまま、
「モリーちゃん、明日馬車でお腹がすいたら食べる分と、アッチで食べる晩御飯…作ってあげるからね」
と肩越しに私に話しかけてくれた声が震えていた。
『皆さんの暖かさで泣いちゃいそうだ…でも、私まで泣いたら心配させてしまう…』
と自分に言い聞かせながら、
「はい、ありがとうございます」
と返事をしたのだが、結局私も嬉しくて、寂しくて、感謝の言葉を言いながら泣いてしまったのだった。
そして、翌朝…
ロッシュさんが玄関先まで荷馬車をまわしてくれて、ジャックさんと二人で、
「もう少し後でも良かったのに…」
「いや、いや、こちらも皆待ちわびていて…」
などと、言いながらそれ程多くない私の引っ越し荷物を積み込んでくれている。
メイちゃんはそれを横目に私に、
「また遊びに来てくれる?」
と聞いてくるので、私は、
「うん、アッチで小型魔物をいっぱい捕まえて、毛皮とかを売りに来ると思うからね。
頑張ってお金を貯めて魔石ランプを買いたいから頑張らないと…」
と、抱負を告げるとメイちゃんは、
「モリーちゃんならすぐだよ!でも危ない事や無茶な事はダメだよ」
と言っている間もずっと私の手を握って離さないのである。
レインさんが、
「はい、馬車で食べるお弁当と、夕食のおかずとパンだよ…おかずの入ったお鍋は返さなくて良いからアッチで使って」
と、お鍋いっぱいの三日分ほどの食糧を渡してくれたのだった。
そして、引っ越し準備が終わった私は深々とジャックさん家族に頭を下げて、
「3ヶ月間…本当にお世話になりました」
とだけ告げると、泣きそうになったので私は急いで荷馬車の運転席横に乗りロッシュさんに、
「お願いします」
とだけ告げた。
するとユックリと動き出す荷馬車の私にジャックさんとレインさんは優しく手を振り、メイちゃんは、
「やっぱり嫌だよ!寂しいよぉ!!」
と大粒の涙を流してくれていた。
私も涙を流しながら、皆さんに、
「行ってきます!」
と手を振り私のコボ村での生活が終わりを告げたのだった。
それから森小路へと馬車は進んだのだが、荷馬車を操るロッシュさんの元気が無い…
私が不思議そうに見ている視線に気がついたのかロッシュさんは、
「なんだか私…無理やり少女を家族から引き離した悪者みたいな気分だなぁ~って…」
と、別れのシーンが感動的だったので、罪悪感に押し潰されそうになって居たのだそうだ。
私は、
「いえ、ロッシュさんにはこれからお世話になりますので、よろしくお願いします」
と笑顔で告げると、ロッシュさんは、
「もう、ウチの集落の子としてモリーちゃんが何処にも引っ越したく無くなる様に私だってジャックよりも頑張るとするかな。
そうだなぁ…手始めに明日の朝に新鮮なミルクを届けるからね。
その後で簡単な手続きをするから今日は荷解きに専念するといいよ」
と言ってから、
「よし、早くモリーちゃんを連れて来いと皆がうるさいから少し急ぐよ!」
と手綱を軽く振って、
「さぁ、頑張れドーラ!」
と荷馬車を引く馬魔物に気合いを入れるのだった。
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