第15話 家族団欒

手続きが終了して商業ギルド内で興奮していたシャロンさんもようやく落ち着いてくれて自宅に帰ると、ようやく二日酔い気味のジャックさんが目覚めたようで昨日は小説の続きを読む為に父と娘の語らいがあまり出来なかったらしく、


「向こうでは最近どうだ?」


みたいな会話が始まり私は親子の会話の邪魔をしないように食卓から離れようとしたのだが、メイちゃんが、


「あっ、お姉ちゃんもモリーちゃんもお帰り。もう用事は終わったの?」


と食卓へとやってきて、レインおば様も、


「二日酔いさんは朝ごはんがまだだけど何か食べる?」


などと、ジャックさんに聞いてきて、


「いや、冷たい水を頼む…」


というジャックさんの言葉を聞いたのを皮切りに、


「じゃあ、お茶にしましょう」


という流れになってしまい私は結局家族の団欒にお邪魔する形になってしまったのだった。


食卓にてお茶を楽しみながら、改めて私の事をシャロンお姉さんに話すと、


「へぇ…ロラン君の紹介で森奥の集落に引っ越すのか…ウチに住んだら良いのに」


などと怖い事を言い出した。


『流石にこれ以上ご迷惑はかけられない』


と思いながら私は、


「いや…あちらで家を用意してもらってますので」


と、やんわりお断りすると、シャロンさんは、


「でも、メイと同い年でしょ?勉強…って読み書きどころか物語まで書けるからもう要らないの…かな?」


と、今になり色々と困惑している様子だった。


そしてシャロンさんは、


「えっ、メイも文字を読んでたよね?!」


と、今更であるが妹の成長に驚いている。


メイちゃんは自慢気に、


「それはね…」


と言って自室に向かい例の教科書を持ってきて姉に見せたのだった。


シャロンさんがそれを見た後に、


「えっ、これも凄い発明だよ?!これも登録して良い?

でも、〈転写〉スキルを持った職員はウチには一人しか居ないし…絵の上手い人を探すしかないけど品質を揃えるには…」


などと、ブツブツ言い出したのだ。


『いや、家族の語らいをメインでお願いします』


と心の中で願う私だが、シャロンさんを私に取られたかの様に悲しげにこちらを見ているジャックさんの眼差しが痛い…


ちなみにこの〈転写〉スキルというのは見た物を紙などに書き写す能力であり、魔法適性が無い者は手書きで書き写す為に自らの画力や文字の上手さに左右されるが、魔法適性がある転写スキル持ちは魔力を流したインクを空中に浮かして寸分違わぬ物を転写出来る為に本などの出版物は勿論のこと手配書などの複製には無くてはならない希少スキルであるのだが、


『別にそんな希少スキルに頼らずとも…』


と思った私は早く家族団欒に話をもどしてほしくて、


「いや、これぐらいの絵であればそこら辺の板に貼り付けて木工職人さんに白い所を削ったり切り出してもらって…インクを塗ってから紙を乗せたら転写できますから、今はシャロンさんの仕事場の話が聞きたいなぁ~」


などと提案して話題を戻そうとしたのだが、


「お父さん…ちょっとモリーちゃんと出掛けてきます」


とシャロンさんに宣言されて、私は娘との語らいのチャンスを完璧に奪われてしまい切なそうな表情のジャックさんに心の中で詫びながら再びシャロンさんに商業ギルドへと連行されたのだった


『…まさか版画がまだ普及していないとは思わなかった…』


いや、本が少々高いのは革表紙などの細工が高いからかと思ったら、滅茶苦茶字の上手い人や転写スキル持ちの方々がセッセと書き写しているから手間賃が高いのが理由らしい。


そして私は商業ギルドにて支店の責任者である男性も立ち会う中で版画の手法を説明しようとするが、引き合いに出した物がこの世界にまだ無いとなると更に厄介な事になってしまう。


さて、どうやって説明するかであるが、私はこちらに来てからの記憶を遡るとマールの町のスラムの解体に伴い領主様からの命令書には紋章らしき印鑑が押してあったのを思い出したので、


「紋章印です!あれみたいにこのページを丸ごとペタンと…」


と説明すると、責任者の男性は難しい顔をしながら、


「いや…地域により呼び方が違う物もあるのでその地域毎に作るのは…』


などと言っているのだが、


『いや、知らないよ…』


というのが本音である。


なので私は、


「一文字ずつ大きさを揃えた文字の原盤を作って、絵も一つずつ印を作れば挿し絵だけインクの色を変えたり文字も組み換えて違う言葉に出来ますし、欲しい絵を増やして自由にやって下さい」


と提案したのだった。


すると責任者さんは、


「う~ん…」


と長く唸った後に、


「この文字の教本でなくて、教本を作る為のアイデアを登録すると?…」


と聞いてくるので、少々うんざりしていた私は、


「はい、良い様にお願いします」


とだけ言って、言われるがまま書類にサインしたのだった。


『いや、教科書作るのに大袈裟な…』


と思いながらもシャロンさんを見ると、


「絵と文字を一緒は難しいけど絵だけでも紋章印みたいなのを作ったら転写スキルを使わなくても本の挿し絵に使えるのね」


とワクワクしている様子である。


私はついでなのでメモ用紙にサラサラっと小鳥の絵を描いて、


「シャロンさん、この鳥の胴体だけの印を作って、クチバシはクチバシで別の印をつくればクチバシだけ黄色い小鳥が作れます。

あとは翼の形を変えたり、クチバシを開けてる物をつくれば、様々な小鳥が表現できたりもします。

それに人物とかならば顔や服など色を変えたい場所毎に別の印を作って同じ場所に押すことで複数の印が合わさって色鮮やかな絵が出来上がります。

だから後は皆さんでお好きに改良して下さい」


とだけ言って、


「シャロンさん、ジャックさんがゆっくり話したいと思いますし折角のお休みでしょ?帰りませんか??」


と帰宅を促してみると、責任者のおじさんが、


「うむ、それもそうだ。あとは任せて欲しい」


と言ってくれて私はやっと解放されたのだった。


それから家に帰るとようやく本格的な家族団欒が始まり夕食が終わる頃まで皆でワイワイおしゃべりをしたのだがそこでシャロンさんがロランさんの事が好きだった事をジャックさんが暴露してしまい、ヤケクソ気味にシャロンさんは、


「この辺りで一番の男前だし、魔法学校に行って教会の治癒師だよ…あの男の唯一残念な所は私に興味が無いところだけなんだけど、この欠点のおかげで全てが台無しだよ…」


と愚痴っていたのだ。


だけど続けてシャロンさんは、


「でも私は諦めて無いんだから!数年したら帰って来るらしいからその時は…」


と興奮しているので、


『そんな事を娘大好きお父さんの前で宣言して大丈夫?』


と心配していた私であるが、今日もご機嫌にワインを飲んでいるジャックさんは、


「おう、イケイケ!シャロンの魅力で骨抜きにしてやれ!!」


などと騒ぎ、メイちゃんまで、


「お姉ちゃん頑張れ!」


と応援しており、レインさんまでクスクスと楽しそうに笑っていたので、


『ジャックさんが良いなら狙われているロランさんには悪いがちょっとだけ私もシャロンさんに協力するかな?』


などと考えていたのであった。


本当に仲の良い家族だな…

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