第12話 冬の過ごし方

コボ村に来て1ヶ月もせずに雪がちらつき始めて、今ではこの村にも本格的な冬が訪れている。


私はジャックさん達家族のおかげで、村にも馴染み、


『ジャックさん家の親戚の子供』


ぐらいの認識らしく1ヶ月前まで全く知らない村だったのに今ではお爺ちゃんお婆ちゃんを中心に声を掛けられるまでになっている。


これには秘密があり、コボ村にある冒険者ギルドの支店で受けたお手伝いクエストがどれもこれもお爺ちゃんお婆ちゃんの家の薪割りや掃除などがメインであった事である。


前世でもそうだったが冬場は冒険者ギルドの依頼が、


『家畜を狙う大規模な狼の群れの討伐』


や、


『雪山に住むスノーワイバーンの皮の納品』


などと言ったとても一人では無理な物やそもそも指定のエリアに行く事さえも難しい高難易度の依頼ばかりになる傾向があり、この村でも中堅の冒険者さんは唯一安全そうな冬場の乾燥した木を沢山斬り倒したい木こり達の護衛や切り出した木材の運搬などの依頼を奪い合う様に受けている。


私はまだランク的にも体力的にもそんな依頼は受けれないのだが、私の様な底辺Gランク冒険者にも出来る依頼がこの村にはあるのだ。


単価は安いのだが村から出なくても良いし、とても安全なクエスト…それは『雪かき』である。


コボ村は山脈の際にあり風向きが悪いと山向こうに降る分の雪も高い山にぶつかり降り積もるようで、一夜にして腰のあたりまで平気で積もるのだ。


村の大通りなどは村長から委託を受けている村の若者や冒険者パーティーなどが対応するのだが、道から玄関までは個人の責任らしく雪かきが大変なお爺ちゃんお婆ちゃんの家は冒険者ギルドと『ひと冬いくら』という契約で雪かきを依頼しているらしいのだ。


なので、私の様な駆け出しは勿論であるがEやFランクの冒険者もギルドで指定された家に行って大通りまでの道の雪かきをしてからギルドに報告しすると報酬が発生する。


そして希望すれば次の家の場所を指定されるという流れで、一件の依頼につき大銅貨五枚とい冒険者酒場でパンとスープが食べれる程度の報酬が貰えるのである。


猛者にもなれぱ1日十件の依頼をこなした上で、臨時でその家の屋根の雪降ろしという多少危険であるが一回で小銀貨三枚という依頼を追加で依頼されたりもするらしいが、そもそもの依頼内容である大通りまでの雪かきや、家の雪降ろしも広さや距離ではなくてあくまでも件数の計算なので、割りの良いのもあれば割りの悪いのもあり数をこなせば割りの悪いのに当たる確率も上がり、


「昨日は10件中4つが道まで遠かった…」


などと愚痴っている先輩達を良く見かける。


私はというと1日一件から二件と決めているので別に大通りまで長くても、


『今日は一件で終わろう…』


と思うだけである。


雪が溶けて薬草摘みに行ける様になればGランクでも受けれる常設依頼の薬草の納品なんかで稼ぐ予定であり今は無理はしない。


それよりも毎日午後からはメイちゃんの文字の勉強のお手伝いや、レインおば様の家事の手伝いに力を入れている。


…だって、居候は頑張らないと何か気まずくて心にくるのだ。


あとは、ジャックおじさんが暇潰しがてら冬の森で箱罠などを使い捕まえてくる小型魔物の解体など、


「森奥の集落で住むのなら解体も覚えとけ。薬草園を荒らす小型魔物の罠は雪が溶けてから引っ越すまでに教えてやるからな…」


と、私が独り暮らしを始めた後の為に色々教えてもらっている。


講習料を払いたい気分であるが、ジャックさん的にはメイちゃんに文字を教える為の教科書のお返しらしく、


「そのうち弓も教えてやる」


などと、張り切ってくれているのだ。


それからまた1ヶ月ほど過ぎて新年を迎えた私の住まわせてもらっている部屋ではメイちゃんが私の作った教科書を横に置きながらお姉さんの残して行った本をゆっくりとではあるが読めるようになっていた。


ジャックさんもレインおば様もとっても喜んでくれたのだが、一番喜んでくれたのはメイちゃん本人である。


たまにではあるが、あまり使わない文字の並びに苦戦して、


「モリーちゃん、これ教えて」


と可愛い質問をしてくる。


『しかし、メイちゃん…その本…私も読んだが、このペースで激甘かつ激臭の純愛小説を楽しめているのだろうか?』


と少し心配にはなるが、


「あぁ、ドノヴァン子爵だね…あんまりヴって使わないから」


などと教えてあげるとメイちゃんは嬉しそうに続きを読み始めているのでヨシとする。


正直なところコレが数年前の人気作品で、町で一冊小金貨一枚という大金にも関わらずに売れているとは…ビックリである。


その本は、この部屋の主であるメイちゃんのお姉ちゃんのシャロンさんは成人のお祝いでジャックさんにおねだりした本らしいが、メイちゃんの為にわざと置いて行ったみたいである。


『まだ会った事は無いが絶対に良いお姉ちゃんなのだろう…』


しかし、私が不満なのはこの人気の小説が全くもってグッと来ないのである。


前世で寂れた田舎の冒険者ギルド職員であった私は、あちらで幼い頃に読んだ物語の登場人物などを勝手に使い妄想小説を作ったりし始めたのが新人の頃で、最後の方にはオリジナルの物語を素人なりに作って楽しんでいた。


様々な作品からメインでないが魅力的な登場人物をもってきては、勝手に組み合わせたりして、


『もしも、あの主人公のライバルの騎士しか有望な人材が騎士団に居ない世界だったらどんなに出世したのかな?』


などと妄想したり書いて一人で楽しんだりしていたのだ。


なので別に世に発表する訳でも無いので許して欲しい…いや、本当に…妄想の中だけなので…


まぁ、そんな私の妄想小説と比べてもイマイチなのである。


騎士と令嬢という出会ってしまった運命の人という設定は良いのだが、


『キスするまでが長すぎる!あと障害になる事が無さすぎる!!』


とくに山も谷もなく、庭影で愛を語り合いキスでもするかと思ったら庭師に声を掛けられてキスできず、なんやかんやあって戦争へと…そして出兵前夜に令嬢の御屋敷のバルコニーでキス…って!


そしてキスからの唐突な『おわり』の文字…

とまぁ、散々綺麗な雰囲気の場所で臭いセリフを吐きながらキッス未満のイチャイチャするだけの痛いカップルを見せられたぐらいでは、こっちはもうドキドキしない体になっている…


『せめて邪魔に入った庭師のオッサンは令嬢へイヤらしい願望を抱いて邪魔していろ!

それがダメならキザなセリフではなくて、もっと生々しい実際のデートを覗き見する様な…』


と思わなくもないが、この場にもしも更に強者だった前世の同僚がいれば、


「いや、令嬢を邪魔だと考える庭師のオッサンと若い騎士の…生々しい…」


などと言い出すのだろう…私にはあのセンスは理解出来ないが、彼女は実は知る人ぞ知る男ばかりの恋愛小説の作家さんだったのだ。


部数はそんなに出ないのだがその手の愛読者のおかげで、


「ギルド職員は世間の目を欺く為よ!」


と、言っていたのでお給料より稼いでいたらしいく本当に羨ましいかった。


とまぁ、彼女のおかげで小説などの会話で退屈はしなかったが、あれが近年の傑作というならばこちらの物語の雰囲気では私を楽しませる物語に出会える可能性は無いだろう…


『いや、無ければ私が書けば良いのか?春まで暇だし昔考えた物語でも書き起こしてたのしもう!』


と閃き小説を詰まりながらも頑張って読むメイちゃんの隣でサラサラと、男児に恵まれず一人娘を男と偽り育てられた伯爵家の令嬢と、跡継ぎ息子だと思いながらも次第にその男装の令嬢が見せる魅力に心奪われ、


「俺は…女性が好きなはず…」


と苦悩する若い騎士という昔私が妄想で楽しんだお話を書き始める。


余談になるが前世でこの私の妄想小説は同僚の手により、遂に女と知ってしまった若い騎士が完全に冷めてしまい、


「私はやはり男が好きだったのだ!」


などというオチの物語として何処かで発表されたらしく、それから何冊かに渡り様々な男性とお付き合いする目覚めた若い騎士シリーズの原案の提供者として私は彼女からかなりのお小遣いを渡されて驚いたのを覚えている。


だがしかし、その話をここで書くと文字が読める様になったメイちゃんの性癖をねじ曲げてしまい前世の同僚の様にしてしまうかも知れないので、令嬢に弟が生まれて『長男死亡』と発表して普通の女性の姿に戻れた令嬢は騎士と結ばれるという良くありそうなマイルドな私の作ったオチのものである。


「ねぇ、何を書いているの?」


と聞くメイちゃんに、


「今は内緒だけど最後までその本が読める頃にはキリの良い所までは書けると思うから次はコレを読んでみて」


と私が答えると、メイちゃんは、


「えっ!お話を書いてるの?凄い!!」


と驚き、


「もうちょっとだから頑張る!…楽しみだなぁ~」


とルンルンであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る