第11話 お邪魔します

森の奥の高原の集落からコボの村へと帰ってきたのだが…冒険者ギルドのやっている冒険者宿で春までの3ヶ月程村の中のお手伝いクエストをこなしながら過ごすつもりだったのだが、


「母ちゃん!お姉ちゃんの部屋、使える様にしてくれた?」


などと、メイちゃんにコートを返す為にジャックさんの家に顔を出したのだが、


「言われた通り準備出来てるわよ」


とジャックさんの奥さんが私の背中を押して、メイちゃんまで、


「モリーちゃんだったね。中でお話しようよ」


と私の手を引いて家の中へと誘導して、私は抵抗する間もなくジャックさんのお宅にお邪魔する事になったのだった。


ジャックさんからは、


「春まではウチの子だ!」


と言ってくれたのたが、私は何から何までジャックさんのお世話になるのは悪いので、


「いや…私は冒険者宿で…」


と私がいうと、


「馬鹿野郎!元から俺はモリーの嬢ちゃんの力になるつもりだったが、あんな話を知っちまったらよぉ…」


と有無も言わせない様子である。


しかも、ロランさんからの私の身の上を書いた手紙を思い出したらしく、ジャックさんは、


「母ちゃんもメイも聞いてくれよ…」


と、涙ながらに私の話を二人にしたのだった。


…という事で現在、私はジャックさんの奥さんのレインさんと娘のメイちゃんに優しくサスサスされながら、


「大変だったね」


とか、


「もう大丈夫だからね」


と慰められています…


『ヤメて…泣いちゃうから…』


という事があり、大変厚かましいとは知りつつ春までジャックさんの家で、川の下流にある町の商業ギルド職員として二年前に出ていったジャックさんの娘さんであるシャロンさんのお部屋を使わせて頂く事になったのだった。


そして次の日はメイちゃんにコボ村を案内してもらったのだが、コボ村は前世の私の故郷のような規模の村で、商業ギルドに冒険者ギルドの支社はあるのだが、錬金ギルドは川づたいに2日程下った町にしか無いのでポーションなどは商業ギルドが委託で販売しているらしい。


「こっちがリーシャさんの洋服屋さんで、お願いしたら町で生地を買ってきてくれて可愛い服も作ってくれるんだよ」


などとメイちゃんの案内は続くのだが、そろそろ情報量が多くて一度整理しなければ忘れてしまいそうだ。


そんな時メイちゃんが、


「こっちが商業ギルドのお店で、村長さんの家でお勉強するのに使う物はだいたい揃うけど…モリーちゃんは読み書き教室に行かないの?」


と質問してきたのだった。


「あぁ…学校…いや村長さんがやっている塾のようなものか…私には関係ないかな…読み書きは出来るから」


と呟く私に、メイちゃんは、


「えっ!モリーちゃんって字が読めるの?!」


と驚いていた。


メイちゃんは、


「凄いなぁ…私はまだ読めないから…」


というので、


『それならば!』


と閃き、私はメイちゃんと商業ギルドのお店に入り筆記用具と紙の束を購入したのだった。


「えっ、お金の計算も出来るの?」


と支払いをスムーズに行った私に再び驚くメイちゃんに、


「お母さんと市場で傷軟膏とか売ってたからね」


と言っておいたのだが、


『これは計算もか?』


と考える私だったが、


『まずは文字からだ!』


と決めた。


いっぺんに教えたら大変になって勉強が嫌いになるかも知れないし、お家賃代わりにメイちゃんに文字だけでも教える事が出来れば、春から通う予定の読み書き教室でも優等生扱いしてもらえるかも知れない…という考えからである。


「読み書き教室で使うみたいな道具を買ったけど、モリーちゃんも村長さんの所に通うの?」


とメイちゃんに聞かれた私は、


「ふっふっふ…これはメイちゃんに文字のお勉強をさせる為の道具だよ…」


と少し脅かす様なトーンで言ったのだが、メイちゃんは、


「えっ、嬉しい!お姉ちゃんの部屋にある物語の本を読みたかったから…

お姉ちゃんったら読みたかったら読んで良いよって言ってくれたけど、私まだ読めなくて!!」


と目をキラキラさせていたのだった。


『これはしっかりお勉強用の教科書を作らなければ…』


と、急に何となくドキドキしてきた私は、


「今日はもう帰ろうか…」


と言ってメイちゃん達のお家に戻ったのだった。


家に帰ると私は部屋に籠り、忘れない様にメモを書き始める。


「え~っと、まずはロランさんのお父さんがロッシュさんで、お母さんがミラさんで牧場経営…

家具職人が…ビットさんだったね…」


などとブツブツ言いながらメモにまとめる。


元冒険者ギルド職員だからこの手の資料整理はお手のものであり一時間もせずにこの作業は終わった。


急に何やら部屋でブツブツやり始めた私を心配して、ジャックさん、レインさん、メイちゃんと代わりばんこに私の様子を見に来ているが、


『今は構ってあげられませんので、どうぞご自由にご覧下さい!』


という心持ちで作業を続ける。


次はメイちゃん用の教科書である。


紙に文字を一文字書いてその文字から始まる絵を書いて読み方を書く…いくら田舎のギルド職員であってもクエスト依頼書の魔物の挿し絵ぐらいは超一流の職員さんには劣ると思うが、薬草や毒消し草に飛びリスなど見たことの有るものであれば他人に解る程度には描ける。


しかし、こちらの世界に居るか解らない書き慣れた前世の世界の魔物を描く訳にも行かずに、お皿やコップなどあまり描いた事のない日用品がメインになってしまい流石に少し手こずりはしたが私は夕食までに全てを書き上げたのだった。


「ふー、あとは紙が乾いたら糸で閉じて完成だね…」


と呟くとドアの側から、


「出来たの?見て良い??」


とメイちゃんがワクワクしながら聞くので、私が、


「まだインクが乾いてないから手に持って見たら黒いのが着いちゃうから眺めるだけね。明日には手に持って見れるからお楽しみに」


というと、メイちゃんが、


「やったぁ!では、お邪魔しまぁ~す」


と喜びながら自分の家の姉の部屋に他人の様な挨拶をしながら入ってきて、部屋に散乱している手書きの教科書のページを眺めながら、


「あっ、私、これ読めるかも!!」


などと騒いでいる。


するとずっと気になっていた様でジャックさん夫婦も、


「どれどれぇ…」


と部屋に入って来て、


「おぉ、こりゃ村長の所に行く春までに文字を覚えられそうだな」


と感心するジャックさんだったが、奥さんのレインさんは私の顔を見るなり、


「ぷっ、モリーちゃん…夕食前にお湯で顔を拭くかい?ウチの旦那より立派な髭が生えているわよ」


と、インクで汚れた顔を洗う様に促されたのだった。


私は軽く笑い者になり、ほんのチョッピリ傷ついたが体を拭いて着替えたらサッパリして気分が良くなったので気にしないことにした。


これで家賃の代わりになるとは思わないが家賃の足しにはなるだろうか?…

あぁ、久しぶりに書類を書いた気がする…

でも、これから薬草園を作って暮らすのならば、この周辺で自生する薬草類の調査や資料の収集も必要になるな…明日あたり冒険者ギルドでお手伝いクエストの状況を見に行きがてら資料室でもの覗いてみようかな?…

などと考えながらインクの乾いたページを拾い集めた後で、


「今日はグッスリ眠れそうだよ」


と、胸から下がっている形見の指輪に呟いてから眠りについたのだった。

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