第6話 スライム狩りと膝の治療

春が終わり雨季がやって来た草原にて私は、


「どっこいしょ!」


と、湿度が上がり活発になったスライムへと手頃な石をぶつけて弱らせてからお婆ちゃんから貰った使わなくなったフライパンを力いっぱい振り下ろしてスライムの体内の核を割る。


もう手慣れたもので倒したスライムの表面をナイフで切り開き割れた核の中にある魔石を取り出す。


スライムのネチョネチョも素材として買い取り依頼があるらしいが常時依頼ではない為に少し勿体ない気もするが回収や保管がベタベタして大変なので放置していく…

まぁ、死骸は他のスライムのエサになるか、土の肥料となるらしいから巡り巡って薬草達の栄養や私のお小遣い用の魔石になるからヨシとしている。


「うん!なんだか私、強くなってるかも」


と呟きネチョネチョの手を近くの水溜まりで洗う。


スライム狩りを薬草摘みの合間に始めて二ヵ月、今までは雨の日は薬草摘みをお休みにして家の仕事などをしていたが、雨の日はスライムが活発になる上に水溜まりが出来てネチョネチョを洗い易くなりスライム狩りにはもってこいな状態になる為に今では雨が降るとワクワクしてしまう私がいる。


前世で担当していた冒険者ギルドで管理していたダンジョンがスライムがメインのダンジョンだった為に、駆け出し冒険者に告げる注意事項がそのまま使えるというのも何か運命の様な物を感じてしまう。


「スライムの攻撃で注意が必要なのは毒などの固有攻撃もだけど、一番は顔面へのへばりつきで、息が出来なくなれば慌ててしまい更に息が乱れます。

出来ればフード付きのマントにスカーフなどで口元を隠しておけば一度ならばスカーフやフードを外せば窒息攻撃を避けれます…」


などと言っていた通りにカエル魔物の皮で作った雨合羽を被りスカーフで口元を隠して、何とも悪い事をしている奴の様な見た目ではあるが、おかげでお婆ちゃんの膝の治療費を稼げているのだ。


あぁ…やはりというか何と言うか、お婆ちゃんはダッシュボアから私を守る為に転んで打ちつけた膝の骨が割れていたらしく治癒院にてようやく治療を受けてくれたのだが、


「冬の間休んでいれば治る」


と、言って治癒院に行かずにお婆ちゃんはどうやら痛み止めだけ治癒院の隣の薬屋で買って誤魔化していたらしく先週ようやくスライムの魔石がかなりたまってきたので冒険者ギルドに買い取ってもらったその足でお婆ちゃんを半ば無理やり治癒院に連れて行ったのだが、治癒院の治癒師さんに、


「こんなになるまで!」


と叱られてしまった。


診察の結果お婆ちゃんの膝は欠けた骨が痛みを引き起こしたり、変な位置でくっついたりして厄介な事になっていたらしいのだ。


治癒師さんの治癒魔法とハイポーションで治るらしいが、私の稼いだ金額ではギリギリ治癒魔法の代金になるかならないからしい。


しかし、治癒師さんのご好意で治癒魔法で悪化した膝の炎症をおさめてからガチガチに固定する処置までしてくれて時間をかけて後はお婆ちゃんの治癒力を信じて治す事になった。


「処置をするからお嬢ちゃんは外で…」


と言われて廊下へと出されたのだが、部屋の中から、


「ゴン!」


という音と共に今までに聞いた事のないお婆ちゃんの、


「ぎゃっ!!」


という短い悲鳴が聞こえ、その後に治癒師さんの治癒魔法の光が扉の小窓から漏れてくるのを私が少し恐怖を覚えながら見つめていると、私を廊下へと案内してくれたお弟子さんが、


「一度骨を正しい位置に戻してから治癒魔法を掛けないと効き目がないからね…」


と教えてくれたのだが、中から聞こえたお婆ちゃんの悲鳴からおおよその予想はできていた私であった。


『痛い膝に一撃食らったのか…』


と、中にいるお婆ちゃんを哀れんでいると、ようやく処置が終わったようで、私が再び部屋の中に通されるとグッタリして片足に添え木をあてて固定されているお婆ちゃんが寝かされており、治癒師さんが、


「動かさない様に荷車で弟子に送らせるから…」


と言ってくれたのだった。


更に送ってくれた治癒師さんの弟子の方が、


「私は薬師も目指しておりまして…」


と、自分の作ったポーションをサービスで一本お婆ちゃんの為にくれたのは大変有り難かった。


御礼を伝える私に治癒師さんのお弟子さんは少し照れくさそうに、


「将来田舎で治癒も出来る薬師として暮らすのが夢ですので…」


と教えてくれ、お婆ちゃんに向かい、


「ポーションは無理やり治癒力を体から引き出して治療する薬ですので、高齢なククルさんが飲むと数日寝込む場合がありますので…」


と説明していたのだが、お婆ちゃんも自分が薬師の端くれな事を告げて売り物の傷軟膏をお弟子さんに見せると、その出来に感心していた様でお弟子さんはしばらくお婆ちゃんと薬師的な会話で盛り上がり、そして帰り際に、


「ククルさん、ハイポーションを飲めば数日ですが、ポーションでは1ヶ月ぐらい安静ですから、安くしときますので試作品で悪いですが私のハイポーションの実験に付き合ってくれますか?」


と言ってくれたので、私は現在お婆ちゃんを家に残してハイポーション代を稼ぐ為にスライムを狩っているという訳である。


お婆ちゃんは、治癒師さんのお弟子さんが気に入ったらしく、


「なかなか好青年だったね…私を高齢って言ったのは少し気に触ったけど…」


なんて言っていたけどニコニコしながら、


「痛たたた…私は痛いからポーションを飲んで寝るとするよ…高齢だから数日寝込むかもしれないからモリーも慌てないように…」


と、私に注意した後でポーションをグビリと飲み干していた。


「相変わらず不味いね…」


と悪態をついて眠りについたお婆ちゃんは丸一日寝てしまったのだった。


そして、目覚めたお婆ちゃんは私にどれだけの日にちが過ぎたかを確認した後に、


「私もまだまだ若いようだね。なんせ丸一日で済んだんだから…でも、子供の頃に屋根から落ちてハイポーションを飲んだ時には半日ほど気だるいだけだったのに、ポーションで丸一日眠るって…私もあの頃より年を取ったんだね」


などとボヤいていたのだが、


『屋根から落ちるって、どんなお転婆さんだったのか?…』


などと思う私だった。


お婆ちゃんが診察をしてもらった3日後にお弟子さんが再び我が家を訪れて、


「その後の調子は?」


などと、お婆ちゃんの様子を見てくれたのだが、


「丸一日で目が覚めた」


と自慢気なお婆ちゃんに、


「それは良かった」


と言ってハイポーションを渡してくれたのだった。


私が、


「まだ、代金が用意出来ていません…」


というと、お弟子さんは、


「後払いで構いませんし、なんなら薬草を私用に納品してくれるのでも構いません。これはあくまで私個人の創薬の練習ですので…」


などと言ってくれたので有難くハイポーションを頂く事にしたのだが、今回のハイポーションではしっかり3日間眠り続けたお婆ちゃんに少しドキドキしてたまに呼吸しているか確認する日々だった。


そして、目覚めたお婆ちゃんは痛みはなく膝は完治したらしいのだが、なにせ何ヵ月もまともに歩いて無かったので体がなまっていたらしく、


「運動がてら治癒院に御礼に行こうかな?」


などとこの雨が降る外を眺めながら騒いでいた。


「約束では治癒師さんのお弟子さんが来週また様子を見に来てくれるらしいからお婆ちゃんはユックリして体をならしておいてね」


とお願いして家を出てきたのだが、元気になったらなったで心配事が増えた気がする…


『この雨の中、ウズウズして黙って出かけてないかな?』


と、思いながらも私は少しでもハイポーションの代金の足しになる様に草原を駆け回り薬草類を集めながらスライムを狩り続けるのだった。

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