第5話 中町に行こう
私は今、頑張って貯めたお婆ちゃんから貰ったお小遣いを使い壁の中にある中町の冒険者ギルドへと来ている。
中町の商会の店には可愛い服や小物など欲しい物が沢山並んでいるのだが、今回は…というか私にはそんは贅沢品を買う余裕は無く、目標としてはお婆ちゃんと二人分の住民登録料金をまず用意して、下町で家が借りれる様にお金を貯めなくてはならないので今はお洒落なんかは我慢である。
『服2着と下着3枚のローテーションが出来ているので生粋のスラムっ子の私はお洒落しなくても小綺麗に出来ているなら問題ない!』
しかし、お金を貯めなければならないのにお小遣いを叩いて何故中町まで来たかというと、その目的はカールお兄ちゃん親子から聞いた情報から冒険者ギルドの資料室が冒険者登録をすれば自由に使える事と、十歳以下の仮登録のGランク冒険者であっても買取カウンターで魔石などを買い取ってくれる事を知ったからである。
しかもカールお兄ちゃんのパパさんであるライルおじさんは、
「おじさんみたいにCランク冒険者になったら町や関所の料金が安くなるからな…Bランクなら完全に無料になるけど、おじさん昇格依頼でヘマしちゃって…」
と、少し危険な依頼で片腕を失って冒険者としての稼ぎが見込めなくなり奥さんが出て行ってしまった10年前の話を始めてしまったのだが、私が忍耐強く我慢したおかげでライルおじさんから悲しい昔話を聞かされたついでに様々な冒険者としての話が聞けたのは大きく、
『とりあえず仮のGランクでも登録しておいて、薬草摘みの最中に弱い魔物を倒せば後で魔石は売れるし、私も強くなる!』
との結論に至ったのだ。
私だって前世では違う世界の田舎とはいえ冒険者ギルドの職員であり、村の五階層からなる初級ダンジョンのボスであるちょっと強いスライム三匹の群れも倒した事のあるDランク冒険者でもある。
まぁ、最弱で踏破しやすい初級ダンジョンではあったのだがそれでも一応ダンジョン踏破経験者なので、この世界の冒険者ギルドの資料室で近隣の魔物の知識を覚えて一番弱い魔物からコツコツ倒せば魔石や素材で臨時収入になるはずだ。
『冒険者登録が無料だったのは有難いし、資料の文字が読めるようになったからお婆ちゃんを楽させてあげる方法の幅がひろがった。
この世界にもスライムは居るし強さもどうやら前の世界と同じぐらいみたいだ…』
などと、真剣に資料とにらめっこしている私にギルド職員のおじさんが、
「お嬢ちゃん、文字が読めるのかい?」
と、文字も読めないGランク冒険者の少女がお手伝いクエストをサボって絵本がわりにスライムや大型のネズミ魔物などの挿し絵のある資料を眺めているのか?とでも思ったのか、はたまた場違いな子供を資料室から追い出したかったのか解らないが私に話しかけてきたのだった。
私は読んでいた資料から顔を上げて、その職員さんに、
「勿論読めますよ。お婆ちゃんの代わりに薬草摘みをしている草原の魔物の事を調べてたの…倒せたら魔石が手に入るかな?って思って…」
と答えると職員のおじさんは少し嬉しそうに、
「そうか…お嬢ちゃんみたいな冒険者の卵には本当は町中の草むしりなんかの安全なクエストを頑張って欲しいんだけどね」
と言いながら私の持っていた資料を指差して、
「お嬢ちゃんなら狙う相手はまずはスライムだけにしときな。
あと、スライムでも少し大きい奴は種類が違うからもっと強くなるまでは喧嘩を売らない様に、それと赤や緑など濃いめの色のあるスラムも毒なんかを使うから注意だよ…」
などとレクチャーしてくれて、ついでにスライムの解体方法まで丁寧に教えてくれたのだった。
『解体ぐらい知ってるけど…』
と思いながらも私は前世の上司を気持ち良くさせる相づちの知識から、
「うわぁ!」
「そうなの?」
「凄い!!」
などのリアクションで盛り上げていると、おじさん職員さんは気分が良くなったのか、
「スライムを倒すには打撃系の武器が有利だからね…そうだ!おじさんが使わなくなった大木槌でも…ってお嬢ちゃんには重くて使えないか…」
などと言い出したかと思うとおじさんは、
「少し待っててね」
と言って何処かに行ってしまった。
私は知りたい事は解ったので資料を棚へと返していると、職員のおじさんが資料室に戻って来て、
「ほんの少し小さくてあまり使えなかったカバンをデスクに入れっぱなしにしていたんだ。おじさんのお古で悪いがお嬢ちゃんにプレゼントするよ」
と言って肩掛けカバンを私にヒョイとかけてくれてから、
「うん、おじさんには小さかったけど、お嬢ちゃんにはピッタリなサイズだな」
と言って嬉しそうにしている。
私はいきなりな事に面食らいキョトンとしているとおじさん職員さんは、
「最近娘にも邪険にされて話もしてくれないし、若い冒険者達もおじさんの話を聞いてくれないし…嬉しかったから…その御礼だよ」
と、少し恥ずかしそうにしていたのだった。
私が、
「これ…貰ってもいいんですか?」
と念を押すように聞くと、おじさんは、
「勿論だよ!」
と答えたのを聞いて私は、
「わぁ!ありがとーございます!!」
と言って肩掛けカバンの蓋をめくると蓋の裏に、
『ジール』
と名前がインクで書いてあった。
「ジール?」
と私が声に出して読み上げるとおじさんは、
「あっ、ゴメン!おじさんの名前が書いて有ったの忘れてたよ!!」
と言って、
「他のにしようか?」
などと焦りながら言い出したのだが、私は、
「ありがとう、ジールおじさん。」
と、改めて御礼を述べてから、
「私はモリーっていいます。カバン、大事に使いますね」
と自己紹介をしてから冒険者ギルドを後にした。
『ラッキー!中町に入る為にお小遣いがほとんどカラッケツになったけど無料で革製のカバン貰っちゃった』
と、ルンルンでお婆ちゃんの待つ家路についたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます