第2話 私が生まれた理由

さて、前世であまりパッとしない冒険者ギルド職員だった私がどういう理由で新しいスキルの実験係に選ばれたかという話なんだけど…う~ん…簡単に説明すると担当の神様が、


「多分上手く出来ると思うから…」


という直感に似た曖昧な理由と、私を気遣った粋な計らいからである。


何から説明すれば良いのやら…


まず私の前世の世界では神様達が喧嘩?をしており、意地悪で自分勝手な主神に抵抗する為に息子である神様が魔族を率いて地上を占領して父親から主神の座を奪おうとして軍を率いて各地に進軍していた。


そこで、『運が悪く…』というのか、私の住んでいた田舎はそのイザコザに巻き込まれて真っ先に全滅した…という流れであり、迷惑な親子喧嘩に前触れもなく巻き込まれて殺された哀れな魂になってしまったのだ。


そして、私達は天にて主神様の配下の神々が、


『余りに可哀想だから…』


と、無抵抗である日突然殺された私達に、


「次の人生において何か希望があれば一つだけ聞いてあげます」


と仰ってくれて、ある者は強いスキルを望み、またある者は強い立場や裕福な家に産まれたいと望んだ。


そんな中で私の両親は、


「できれば、この争いに最後まで巻き込まれない可能性がある静かな土地でまた夫婦になれる様に…」


と、娘から見ても羨ましい様な、何とも気恥ずかしい様なお願いを神々にしており、


『私も再びあの両親の元に産まれたいです』


などと言えば格好が良かったのだろうが、私としては、まだ争いが続く地上に生まれ変わるのが恐ろしい…というか、


『ふざけるな!神々の危ない親子喧嘩にまた巻き込まれたら、実家が裕福でも素晴らしいスキルを与えてもらっても意味がない!!』


などと考えている私の思考は神々に読まれていたらしく、少し困った顔の神様達は相談の後に、


「地上が落ち着くまで天界預かりとします」


という結果になった私は神様の親子喧嘩が決着するまでの長い時間を神々の住む『神界』の一つ下の世界である神々の従者や地上にて何かを成し遂げた魂達が住む『天界』にて暮らしていたのだが、私自身には神々のお役にたてる能力も素質も無いので、かなり長い期間やることもなくダラダラと過ごしていた。


天界ではお腹も空かないし、疲れない…他の方々は、神々のお使いとしてあちこちに走り回ったり、何かの研究をされている。


なので、個人的に何も役にも立たない私は、


『恥ずかしくて今さら外に出れない…』


などと考えてしまい宛がわれた自分の部屋に籠りっきりで過ごしていたある日、神々に呼び出される事になってしまった。


『あぁ、遂に何もしないで過ごす私は神々に愛想尽かされたのか…』


と思いながら呼び出された場所に行くと、父と母が二度目の人生を終えて天へと召されていたのだった。


両親は再び巡り会う為に神々より前世の記憶を消すのでは無くて、その一部を残して封印する形で地上に生まれ変わり、共通の思い出や思考などから二人は引かれあい結ばれて、この度めでたく天寿を全うして召されてきたらしいのだが…

天に召されて記憶の封印が解けた両親から私は滅茶苦茶叱られてしまった。


まぁ、生まれ変わって天寿を全うする間の何十年間、娘がグウタラしていたのだから怒りたい気持ちも解らないではない…


母には、


「貴女の将来が心配でお母さん死んでも死にきれないわ!」


と泣かれてしまい、


『いや、お母さん…私達全員もう死んでるよ…』


と思わず考えてしまった私に神様は、


『それは言わないほうが良いよ』


と、直接私の心に話しかけてくれて必要以上に親を泣かせてしまうのを阻止して下さるという要らない手間と心配を神々にまでかけてしまった。


まぁ、そんな事があり私の両親は今回の人生に大満足だった様で神々に御礼を述べた後に私に別れの挨拶をして正規の輪廻の輪に戻って行ったのだった。


最後の最後まで両親を心配させてしまった私は少し思うところもあり、その日から自分に出来る事を探して天界の方々のお手伝いを始める事にした。


研究を続ける高名な学者だった方の住居の掃除や、英雄として語り継がれる戦士だった方の稽古着の洗濯など、いわゆる雑用係としての暮らしを送ること…もう何年?…いや、何十年?…正直数えることすら面倒臭くなるような季節の移り変わりもない穏やかな毎日をそれなりに忙しく過ごしていた。


唯一変化が有ったのは、私のお手伝い先が知らないうちに天界だけではなくて神界の端にある薬の神様であるメディカ様の薬草園の水やりや手入れも依頼してもらえるまでに出世した事ぐらいである。


しかし、私を一番使ってくれていた女神メディカ様が何と主神に恨みを持つ女神であり、地上で行われていた神々の親子喧嘩の火種を作った張本人だったらしく、私が日課の雑用をこなしている間に地上では大騒動があり一番の悪であった主神は倒されて息子の神様が主神の座に着いたのだった。


前の主神のせいで酷い目にあった被害者である女神メディカ様だったがやはり裏で糸を引いて争いの種を蒔いたのも事実であり、私の様に巻き込まれて死んだ者を多く出した事を悔いて、更に上位の神様の力で生まれて間もない何もない世界の管理者として左遷される事になってしまわれた。


それと同時に私はようやく親子喧嘩の終わった安全な地上へと生まれ変わる時が来たのだが、可愛がってくれていたメディカ様が他の世界に島流しになった事を私の中で納得が出来ずに心から自分の転生を喜べずに居たのだったのだが、そんな私の心を神々は手に取る様に解っていたらしく、


「次の薬草園の担当が決まるまで手入れを頼みます」


という理由で、私の転生は暫く見合せてもらえる事になったのだった。


それから暫くしして、異世界の担当になったメディカ様よりの要請で、


『新たなスキルのテスト係として天界に住む誰かを派遣して欲しい』


との依頼が神々にあったらしいのだ。


そのスキルが新しく世界にダンジョンを生み出す為のスキルらしく、


「現地の魂ではダンジョンの概念すら解らないし…それに元はダンジョンの受付だったから上手く出来るだろ?!」


という神々の粋な計らいで、私はお世話になったメディカ様のお役にたつべく転生先がこちらの世界になった…という事なのだが…

前世の記憶が戻るまでの少女モリーとしての記憶も有るために、


『知らないままの方が気が楽だったのに…』


と感じてしまう自分も居るのだった。


まぁ、ヤるしかないから頑張るけどね…

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