第3話
「人工知能人間になりたいって? なにを言ってるのよ。脳の拡張なんてつまらないことは止めてよね。それなら私は人間になりたいわ。むらがあって忘れっぽい、あなたのような、完璧な人間に」
「俺のどこが完璧なんだ? ただの化石だぞ? MENSAの会員だっけ? 明里のほうがよっぽど完璧じゃないか? まったく羨ましいよ、優秀な頭脳をもっていて。とても同じ人間とは思えない。不完全な俺から見れば人工知能もMENSAもどっちも完璧だよ」
「彰と私じゃあ完璧の捉え方が違うみたいね? まあ、でもいいじゃない? 私は私、あなたはあなた。人間でも、そうでなくても、完璧でも、そうでなくとも。私の気持ちは変わらないんだもの。あなたの気持ちもね。そうでしょう?」
「そりゃあ、まあ、そうなんだが……」
「だったら余計なことはせず、あなたはあなたのまま、いつまでも変わらないでいてよ」
「そうは言ってもなあ……俺だってちょっとは変わりたいんだよ」
「あら? 私たちの永遠の愛に『変化』という名の亀裂を望むわけ?」
「そういうことじゃないんだよ。なんていうかな、一つくらい自慢できる特技や実績が欲しいんだ。医療用ナノマシンの権威にして天才科学者の森木東明里の婚約者としてはな」
「大丈夫、あなたは天才よ。私よりも、ずっと。面倒事を引き寄せることに関して、あなたの右に出る者はいないわ」
冗談めかして笑う明里の顔が整いすぎていたからだろうか。その時の俺は彼女が何かを画策し、俺に面倒事を引き寄せようと企んでいるかのように思えた。もちろん悪戯の範疇で。まさか明里が人間でなく、未登録の野良の人工知能人間であっただなんて思いも寄らなかった。あの時、明里は俺の言葉をどんな風に受け止めていたのだろう。今となってはそれもデータと共に闇の中だ。
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