届けたい想い


私はまた肖像画を見てニヤけてしまう。

もう二度と絵は描かないって言っていたミミが私の絵を描いてくれた。嬉しい。しかも凄く上手だ。

 

「笑顔が良いね」


「だろ?おばさんの笑顔は見なくても思い出せたからさ」


「最近の私、笑顔少ないよね」

と言う私に、ミミは一瞬辛そうな顔をしたが、


「そうか?今は笑顔だよ」

とミミは優しく微笑んで答えてくれた。


「ミミの絵……とても素敵」


「顔も知らない誰かに褒められるのも嬉しかった。けど、おばさんに褒められるのが一番嬉しいかも」

とミミは少し照れた様に鼻を擦った。


「ありがとう。嬉しい」

私はその絵をそっと胸に抱き締めた。


「俺も……もう二度と描けないと思ってた。辛くなるかなって。でも……全然。楽しかったよ、描くの」


「そうか。少しは吹っ切れたのかな?」


「どうかな……。でも今回描いてて思ったのは……絵を届けたい人に届けたいなって。誰でも良いから……じゃなくてさ」  


「ミミ、私には届いたよ」

と私が微笑めば、


「おばさんさ……また泣いてるよ」

とミミは私の頬の涙を拭った。微笑んだつもりが涙が溢れていたようだ。



「ねぇ、知ってる?人はね『産まれた時は自分が泣いて周りが笑う。死ぬ時は周りが泣いて自分が笑う』のが幸せなんだって。誰かが言ってたの」


「だから笑顔に拘ってるの?」


「うん。でもね、もし……最期に私が笑顔じゃなくても、私、多分幸せだと思う。だって、こんなに眩しく笑ってるんだもん」


私はまたその絵を眺めた。最期にはこうやって笑えると良いな。出来ればミミにはこの笑顔を覚えていて欲しい。



残りのチーズケーキはミミのお腹におさまった。甘党のミミは美味しそうに食べていたので、チーズケーキも本望だろう。


私は持って帰った、高カロリーの流動食を飲み干した。もう不味いかどうかも分からないが、喉越しはよろしくない。


薬を用意するミミは、薬を数えてから、藥袋に時間を記録していた。看護師さんの言う事は絶対だ。



麻薬の張り薬を扱う時のミミはとても慎重で、何だか緊張していて可愛かった。

流石にお風呂に入れて貰うのは憚られたので、髪の毛だけ洗って貰った。入院前までは何とか自分で入浴出来ていたのにな……。


私が階段を登れなくなってからは、一階のミミに貸していた部屋を二人で使っていた。


私をベッドに寝かせたミミは、いつもの様に自分が寝るための布団を床に敷く。


「さて、寝るか」

と言ったミミは電気を消した。


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