母と共に
少しして、
「起きてる?」
とミミが尋ねる。
「起きてるよ」
「痛みは?我慢出来るぐらい?」
全く痛みがないとは頭からミミは思っていない。本当に良くわかっている。
「うん。大丈夫。神様が誕生日ぐらいはご褒美として痛みを遠くに追いやってくれたのかも。どうしたの?」
「この部屋って……お母さんの部屋だったんだろ?」
「そう。母が亡くなってから、色々と片付けたんだけど……どうしても捨てられない物とかあって。でも結局自分がこうなって『あの時ちゃんと片付けておけば良かった!』って後悔したの」
「だから自分の物とか……どんどん処分したんだ」
「そう。残された人の事を考えるとね。でもまだ処分出来ていない物もあるよ」
と私が言えば、
「ネックレスにしてる指輪だろ?」
とミミは答えた。
私はパジャマの首元からネックレスの鎖を引っ張り出す。その先には小さなダイヤの付いたシンプルな指輪が付いていた。
「母が病気になって……すっかり痩せてしまった時に母から預かっててって言われて。本当は亡くなった後、骨壺に骨と一緒に入れてねって言われていたのに、すっかり忘れちゃってたの。思い出したのは、納骨した後。母も約束が違うって怒ってるかも」
と私が笑えば、
「そんな事で誰も怒らないだろ。今はそうして大切にしてるし」
私のアクセサリーは全て売り払った。だけどこれだけは売ることが出来なかったのだ。
私は首からそのネックレスを外す。
そして、それをミミの方へと差し出した。
ミミは体を起こして、
「何で俺に渡すの?」
と私に尋ねる。
「私の骨壺にこれを入れてくれない?」
「……俺、葬式出ないよ」
「そっか……。じゃあ、英二兄ちゃんに渡してくれる?」
と言う私にミミはそれを困惑した表情で受け取った。
「この前会った時に、お兄ちゃんに渡しておけば良かったね。どうもこの指輪は私に忘れられる運命にあるみたい」
と私がおどけた様に言えば、ミミはそれを握りしめて、
「俺は忘れない」
と言った。
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