贈り物
ロウソクの火を吹き消す肺活量も無くなっていた様で、苦労している私の横からミミがそっと吹き消した。
「もう三十四かぁ。もっとそれぐらいの歳って、しっかりするもんだと思ってた。
子どもの頃って自分が三十歳なんて想像もしてなかったし、高校の時なんて、それぐらいの先生が凄く大人に見えていたんだけどな」
「それ、わかる。自分も成人したら自動的に大人になれるんだと思ってた」
「大人になるのって難しいね」
「でも子どものままでいるのも難しくね?」
……確かにそうかもな。歳をとれば責任だけは増えていく。大人になりきれない大人も増えていくわけだ。
「経験だけは増えるから、出来る事は増えるよね」
「それが子どもとの差なのかもな」
大人って、経験値だけは増えていくから、自分を誤魔化しながら大人のふりをする事が上手くなるだけなのかもしれない。
「ケーキ、食える?」
「ちょっとだけなら」
私はケーキをほんのちょこっとだけフォークで掬って口に入れた。
最近は味覚も曖昧だけど、このチーズケーキはとても甘い味がした。
「私がチーズケーキ好きなこと、よく知ってたね」
ミミに話した事があったっけ?自分の記憶力の方が危なげだ。
「俺、意外と記憶力が良いんだよ」
本当に意外だ。私がついニヤけると、
「暗記だけは得意だったから」
とミミは口を尖らせた。その顔に、私はまた笑顔になる。
すると、ミミは立ち上がって、自分の部屋へと向かって行ったかと思うと何かを持って戻って来た。
「ほら、これ」
とミミは私に一枚の紙を差し出した。
そこには一人の女性の肖像画が描いてあった。
そしてその女性はにっこりと笑っていた。
「これ……私?」
「何?不服?」
「ううん。そんな事ない。実物より可愛い」
「そこはサービスな」
ミミがコソコソと隠していた物。それはこれだったのだ。
ミミは元々イラストレーター志望だった。色んな絵を描いてはSNSに投稿していたらしい。
たまたまネットで知り合った友達に、SNSに上げる前の下書きの様なイラストを見せたら、いつの間にかその絵はトレスされ色付けされ、ミミがSNSに投稿する前に、その友達が公表してしまった。……自分の絵として。
それを知らずにミミがその後SNSにその絵を投稿すると、たちまちトレスだと炎上したのだ。
本当は自分の絵だと主張しても、相手はミミよりも大きなコミュニティを持っていて、太刀打ち出来なかった。
信じていた……友達と思っていた……あの日のファミレスでデザートを食べながらミミから聞いた話を私は思い出していた。
あ……あの時、私が食べていたデザートって……そういえばチーズケーキだったな。
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